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#003|過去の愛車について(プジョー306)②

家族がいて、仕事も忙しくなった今は難しいが、独身の頃や結婚したての頃、あるいは会社でも若手と言われていた頃は、GWなどの長期休暇になると、よく一人きりのグランドツーリングに出かけた。目的地を決めず、運転することが目的の、1000km規模のドライブである。
文字通り、食う暇も寝る暇も惜しんで、運転を通してクルマと交歓することを旨とするドライブだから、いま思うと馬鹿みたいにストイックな旅だった。

お金がないということもあるが、せっかく遠いところまで行っても現地の名物には目もくれず、食事はもっぱら車内で食らうフランスパンとウイダーinゼリー、眠気ざましのブラック缶コーヒー。 大量のMDをとっかえひっかえしながら、昼夜を問わず、ひたすらハンドルを握るのである。そして、夜中の26時ぐらいになって、さすがに精魂尽き果て、道の駅にクルマを停めて後席で丸くなって眠るのであった。

若いからこそできたというか、単によほどヒマだったのか。 けれど、それほど僕はプジョー306のことが好きで、306のハンドルを握ることが楽しくて仕方なかったのだと思う。306は、当時の僕の人格の一部だったようにも思えるほどだ。

今でもそうだが、グランドツーリングに発つ朝ほど、魂が喜びに震えることはない。 自分が信頼を寄せるクルマで1000km離れた遠くに行く、こんなにワクワクすることが、果たしてどれだけあるだろう。そういう時は不思議と、早く目的地に着きたいという気持ちはほとんどない。運転それ自体が楽しみなのだから。運転しながら、計器盤の針を注視し、アクセル・ブレーキ・ステアリングの入力に対する反応を五感で感じて、外界の景色に新しい感情をつのらせる。この一連のすべてが、どうしようもなく嬉しいのである。

写真は、2005年のGWに306を駆って、練馬を起点に銚子-水戸-白河(福島県)-今市(栃木県)-関越月夜野ICを経て、関越練馬ICに戻ってくる旅をした時のもの。おそらく福島の山中を走っているときの一コマだ。運転に疲れて休憩するとき、僕はいつも煙草を吸いながら306の周りを歩き回って、あらゆる角度から306の繊細なデザインを観察するのを常としていた。その時、僕はとても幸せな気分に浸れたことを覚えている。

この時のグランドツーリングでは、895kmを走破したと手元の記録に残っている。2日間で約900kmも走れば、そのクルマの良いところも悪いところも知り尽くしてしまう。306のシートの優秀さ(疲れなさ)に感動し、広い視界に助けられ(ロングドライブでは大事だ)、ときおり聞こえるボディの低級音に不安を覚える。 休憩時の一服では、虫の死骸と埃で汚れたボディを眺めて悦に入る。そうやって、僕にとって306は、愛憎入り混じる不可欠なものになっていったのだ。

再びグランドツーリングに行けるのは、いつのことになるだろう。その時は、何のクルマで行くのだろうか。体力はいざ知らず、運転することに対するモチベーションは、2005年の当時と比べていささかも衰えていない。

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