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#002|過去の愛車について(プジョー306)①

「愛車」という言葉は、少しナルシスト的な匂いがして抵抗を感じるが、でも当時の僕はこのクルマを間違いなく愛していた。プジョー306のことだ。

1994年型の1800XT。2002年から2007年まで、まるまる5年間を共にした。このクルマを初めて知ったのは、1994年の3月、桜の咲き誇るころに手にとった、雑誌「NAVI」誌上でのことだった。

「こんな小型車を私たちは待っていた」と題されたその記事を読んだ時の衝撃は、今でもよく覚えている。当時、大学受験に失敗して浪人が決定したばかりで、自分の未来に関する一切を考えられなかった僕だが、それでも「自分はいつかこのクルマを買うな」と直感した。

大げさに言えば、その日から僕の生活は一変した。自分の未来についてなんらポジティブなイメージを持てず、敗北感にまみれた灰色の日々が、306との邂逅によって、急に色を帯びはじめた。
目の前の視界が急に開けた気がした。自分のなすべきことをはっきりと意識できて、将来を切り拓いていく、自分にはそれができると思うことができたのだ。たかが一台のクルマ、正確には、雑誌に載った一葉の写真が、18歳の僕にそんな勇気を与えたなんて、ほんとうに不思議である。その時のNAVIはどうしても捨てる気になれず、いまでも大切に保管している。

それから僕は、翌年に無事に大学生となった。それと同時に、いろんなクルマに心を奪われ、実家のクルマ(マークⅡ2.5L)に長いこと乗ったりして、実際に買うまでには8年かかったけれど、2002年6月、板橋区の中古車店で5万km走行の個体に出会い、諸経費込みで70万円を払って、僕は306のオーナーになった。

僕は、306の保守的な外観、大きすぎないボディサイズ、1.8Lのエンジン、グレーの内装など、どれもみんな大好きだった。特にボディデザインにはほんとうに惚れ込んでいた。いまでも、格好良いというレベルを超えて、美しい、奇跡のデザインであると思っている。

306を手放してから、もう14年が経過した。街中で306に遭遇することもだいぶ稀になってきた。あれほど気に入って乗っていた306だが、いまでは記憶も薄らいできている。
年に数回、僕の住んでいる地元の駅で、シルバーの306を目にすることがある。そんな時は、306に愛を感じながら乗っていた当時の日々があふれるように思い出され、つい視界から消えるまで、その場に呆然と立ち尽くしてしまう。あの特徴的なリアビューを、いつまでも目で追ってしまうのである。

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