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感想文「宇多田ヒカル”BADモード” 」

今月19日に配信リリースされた、宇多田ヒカルの最新作「BADモード」ですが0時になった途端、僕のツイッターのTLが宇多田ヒカル一色になりました。まじで宇多田ヒカル以外の話題が流れてこなかったですもん。
まあ僕自身、解禁と同時に聴きながらツイッターしてましたけどね…笑


しかし正直、実は不安もあったんですよね。毎回最高傑作を更新し続けてきて前作があの「初恋」ですからね、さすがに厳しいかなって思ってましたが大きなお世話でした。
「前作を超える/超えない」の概念じゃなかったです。ほんとごめんなさい。

嵐のようなストリングスが前面に出ていた作では、それぞれの曲が独立してそれぞれの魅力を放っていました。結果としてそれがアルバムとしての輝きになっていた。それに対して今作はアルバム作品としての力でリスナーに訴求している。2008年作「Heart Station」にもマジックが宿っていましたが、今回はより明確な意思を感じます。

かといってそれぞれの楽曲のクオリティももちろん半端なく、一曲目「BADモード」から凄い。軽快なハウスビートに瑞々しい歌詞が乗っており瞬間的に「あ、宇多田ヒカルの曲だ」とうれしい気持ちになるけど、持ち味の毒というか棘もしっかり歌詞にしのばされていて、「ネトフリ」「ウーバーイーツ」という単語はパンデミック下にある今現在の日常を描いていますし、「diazepam」「roll one up」などの英語詞では主人公の不安定なメンタルを描写していると思います。日本語と英語の二重構造になっているんですね。間奏で一回チルさせておいて後半でビートがさらに跳ね、ブラジル音楽風になるのも実にニクイ。

続く既発シングルのラッシュも凄いですよね。
まず「君に夢中」

このタイトル、英語にすると「Addicted To You」なんですね。あとこのアルバムにも収録の「誰にも言わない」「Can You Keep A Secret?」だと思うんですがどうでしょうか。

また、シンエヴァの主題歌「One Last Kiss」A.G.cookの参加楽曲ですがハイパーポップになりすぎず、彼の持ち味と実に自然にマッチしています。

これら既発のシングルで畳みかけながら前半のハイライトである6曲目「気分じゃないの(Not In The Mood)」を迎えるわけですが、一気に世界が閉じヘヴィなムードになります。ここまでの道のりはこの曲のヘヴィネスのためにあったんですね。
ここがこのアルバムが「アルバム作品」たる所以かと思います。

曲中盤のアンビエンスの中から立ち上る無垢で真っすぐな歌声が印象的です。これは宇多田ヒカルのお子さんが歌っているそうですね。
ちなみに、

一瞬の無音を挟んで続く「誰にも言わない」では美しいとしか言えない、獰猛・セクシー・有機的なビートを堪能できます。

そして「Find Love」。これはおなじみ小袋成彬の参加楽曲ですが、後半のビートが彼の昨年発表の楽曲「Parallax」(宇多田ヒカル参加)に似てるんですよね。

続く「Face My Fears」はアルバム中最も古い曲(2019年)であり、Skrillexの参加楽曲ということでダブステップ/フューチャーベースのサウンドがアルバムにそぐわないのではという思いもちょっとありましたが全然杞憂でしたね。アルバム中で浮くことなく、あくまでスパイスとして華を添えています。

そして実質アルバムのラストである「Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー」は宇多田ヒカルのキャリア史上ずっと語られ続けるであろう楽曲となっています。だってUKの重鎮ハウスアーティストが手がけたクラブミックスかと思うような、幽玄で激シブいディープハウスが12分間ですよ、完全にJポップの枠から逸脱してるかと。また、この曲と「BADモード」「気分じゃないの(Not In The Mood)」はUKのFloating Pointsと共同で制作されたようですね。Floating Pointsといえば昨年のこれです。僕の2021年年間ベストアルバム1位のうちの一つです。

このアルバムは凄かったですね。未聴の方は是非聴いてみてほしいです。

やはり歌詞に注目するとどの曲も今だからこそ歌える、社会的な事柄を宇多田ヒカルというフィルターを通して歌われているな、という感じがすごくしますし、こういう深読みを許してくれる懐の深さも感じます。
本来であればこの曲で幕引きをしてしまえばすごく綺麗なんですが、この後に4曲もボーナストラックが収録されています。あえて隙を残すことで非の打ちどころのない、完成されたアルバムになることを自ら拒絶しているようです。
アルバム収録時間は実際は1時間13分もありますが、体感としては「あれ?もう終わっちゃった?」という感じがすごくしますね。また1曲目からリピートしたくなります。最後にあえて隙を作ったことが良い作用をしている気がします。

宇多田ヒカルはUtada名義の2作の時からめちゃめちゃ成長してますよね(これらも僕は好きですが)。A.G.Cook、Floating Points、Skrillexなど海外アーティストの起用は基本的には楽曲のクオリティを引き上げ、化学反応を期待してのことだと思いますが、今回はサブスクリプションでの海外リスナー獲得という側面も大きいのではないでしょうか。
「海外で評価された/評価されない」で作品の魅力は変わりませんが、まさに世界に聴かれてほしい名盤ですね。

色々思いつくままに書き散らかしてしまいましたが、以上で僕の感想文を終わります。ありがとうございました。

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