あべせんせいと、こどもたち②

〇「某マスク」の話

 とてもこわい「ウイルス」が、せかいじゅうにちらばってしまいました。これをすいこんだ「おとしより」は、しんでしまうことも多いようです。こどもたちや、わかものたちは、あまりしぬことがないというのは、ひとつのすくいかもしれませんが。
 その「ウイルス」をふせぐためには、「ますく」というものがこうかてきだということです。でも、あまりにみんながつかっているので、たりなくなってしまいました。それをどうにかしようとして、あべせんせいは、みんなに2まいずつ、くばることにしたのです。でも、そのなかには「ふりょうひん」もたくさんまじっていました。とくにあかちゃんがおなかにいる、「にんぷ」さんたちにくばったものには、「カビ」がはえていたり、「むし」や「かみのけ」がはいっていたりしたようです。みんな、おこっていました。

 こどもたちは、せんせいにつめよりました。
「ねぇ、せんせい。どうしてこんなにヘンなますくをくばったの?」とおとちゃんがいいます。しょうくんも、おこっていました。
「ぼくのおかあさんは、いま『にんしん』してるんだ。おとうとがうまれるんだって。すごくおなかもおおきくて、まいにちたいへんそうだよ。それなのに、そんなにあぶないますくをくばるのなんて、おかしいなぁ」
 りっくんだけは、ひとりだまっています。
 せんせいは、こまったようなかおでこたえました。
「えーっと……、たしかに、そういうものがまじっていたのはもうしわけないとおもっています。でもね、わたしたちは、ぜんぶのますくを目でみているわけじゃないんだ。だから、すこしはそういうものがまじっていることもありえる。だから、そういうものはぜんぶ『かいしゅう』することにしました。幼稚園のおかねをしっかりとつかって、『けんぴん』もします。そしてもうひとつ。いまのせかいでは、ますくがずーっとたりていません。そういうひとたちのために、どうにかしようと、いそいで『ちょうたつ』してしまったけっか、そういうものがまじってしまったんです。でも、これからもわたしたちは、そういう『よわいひと』たちをみすてることはないってことは、わかってほしいとおもっています」
 おとちゃんは、すこしあんしんしました。
「そうか、やっぱりせんせいは、みんなのことをかんがえてるんだよね」
 しょうくんは、まだなっとくいきません。
「おとなって、もっとそういうこと、ちゃんとできるとおもっていたけどなぁ」
 りっくんは、ここではじめてくちをひらきました。
「ねぇ、せんせい。そのますくをつくった『かいしゃ』というのは、ぜんぶわかっているんでしょう? どうしてそういうことがおこったのか、ちゃんとかんがえなきゃダメなんじゃないの」
 せんせいはこたえます。
「うーんとねぇ、そのますくをつくったかいしゃは4つなんだけど、とんぼ社と、こおろぎ社と、ほたる社ということはわかっている。もうひとつは、またこんどおしえてあげるね」
 りっくんはいいました。
「どうして? わかってるんでしょ、いまおしえてよ」
 せんせいは、あいまいにほほえんだまま、
「もうかえるじかんだよ」といって、こどもたちをかえらせました。

 つぎのひ、せんせいはどうどうといいました。
「ますくをつくったかいしゃをおしえてあげる。あとの2つは、むかで社と、くも社だったよ」
 しょうくんはききました。
「あれ? のこりはひとつだっていっていなかったっけ? なんで2つなの」
「よくしらべたら、2つだったんだ」
 せんせいはこたえました。
 りっくんは、にらむようなかおをして、せんせいにききます。
「ねぇ、『むかでしゃ』って、おれはきいたことがないんだけど、どういうかいしゃなの?」
 せんせいは、こまったようなかおをしてこたえます。
「それは、こどもにいってもわからないとおもうなぁ。でも、ちゃんとした、りっぱなかいしゃだよ。『ベトナム』というくにで、ますくをつくってくれているんだ」
 おとちゃんはそれをきくと、いいました。
「『ベトナム』! わたし、きいたことある! 『フォー』っていうりょうりをたべたことあるよ」
「え、ふぉー? なにそれ、おいしそうだなぁ」
 くいしんぼうのしょうくんもすぐにくいつきました。
 でも、りっくんは、そんなことではだまされません。
「せんせい。そのますくをつくるのに、おかねがたくさんかかっているんだよね。それなのに、『むかでしゃ』とかいう、きいたこともないかいしゃにたのんで、よかったの?」
 せんせいはこたえます。
「ゆうめいであればいいってことじゃないんだよ。みんなにしられていなくても、『いいしごと』をしているかいしゃはたくさんあるんだ。そういうことは、わすれちゃいけないよ」
「はーい」と、おとちゃんはいい子ちゃんらしく、こたえます。
 でも、しょうくんは、ちょっとひっかかって、ききました。
「ねぇせんせい、そのかいしゃは、カビのはえてるようなのをつくったんじゃないの?」
 せんせいは、どうどうとこたえます。
「そのかいしゃでは、『ふりょうひん』はつくられていないんだよ」
 りっくんはくいさがりました。
「せんせい、そのかいしゃのなまえは、きのうはおしえてくれなかったよね。それなのに、それがどういうますくをつくったのかは、すぐにわかったんだ。どうして?」
 せんせいは、ちょっとほほえみながらこたえます。
「それは、きちんとしらべたからだよ。きみたちにおしえるのがおそくなったのは、きちんとしらべていたからさ」
 りっくんは、もっときになってしまいました。
「となりのせんせいがいっていたけど、そのますくをつくるのに、ひとり400えんくらいかかるっていっていたのに、ほんとうは90えんですんだんだって。そんなにてきとうなことでいいの?」
 あべせんせいは、にこやかにこたえます。
「さいしょに、あるていどの『おかね』をよういしておいて、じつはそこまでかからなかったっていうのはよくあることなんだよ。あまったぶんは、幼稚園にかえせばいいんだから」
 りっくんはまだなっとくしません。
「でも、ひょっとしたら、そのますくのおかねをわざとたくさんあつめておいて、それを、『むかでしゃ』とかいうヘンなかいしゃにわたそうとしたんじゃないの? それって、ずるだとおもうけど」
 おとちゃんはすこしまゆをひそめていいます。
「りっくん、なにをいってるの。せんせいがそんなことするわけないじゃん」
 しょうくんは、なにかをなやんでいるようなかおをしていました。でも、ほんとうはただおなかがすいていただけかもしれません。
 せんせいは、もっとえがおをうかべていいました。
「ふふふ、となりのせんせいになにをいわれたかしらないけど、そんなずるはわたしたちはしないよ。そういうのを、げすの……、あ、これはきみたちにはしげきがつよいからいわないほうがいいかもな。とにかく、わたしをしんじてください」

 そのひ、りっくんはたくさんのほんをよみました。「ウイルス」たいさくには、その「ぬの」のますくは、かならずしもこうかてきではないこと。うみのむこうのひとたちは、みんなそういうものはつけていないこと。そして、おなじようにひとり400えんのおかねを出すのなら、ぬののものじゃなくて、「ふしょくふ」という、つかいすてのますくをたくさんつくるためにつかうこともできること……。りっくんのなかでは、あべせんせいのことはしんじられないかもしれない、というおもいがすこしずつふくらんでいきました。

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