米企業の株主還元額は大幅減、セクター間格差が鮮明に

■ 米企業の4—6月期の自社株買いは大幅減、配当も減少が目立つ結果に

■ 株主還元策の回復ペースは緩やかで、株価を押し上げるには時間がかかろう

 米S&P500株価指数構成企業の株主還元額が4-6月期に大幅減となったことが明らかとなった。S&Pグローバルの集計によれば、配当金額は1190億ドルと1-3月期(1270億ドル)から約6.3%減少。配当は安定的な株主還元策で、2015年以降2020年1-3月期までの平均は前期比1.6%増であったことを踏まえると、減少幅の大きさが感じられよう。また、自社株買いを行った企業の割合は49%と、1-3月期(79%)から大幅に減少。金額も887億ドルと、1-3月期(1987億ドル)から55.4%減少した。自社株買いに関してはセクター間格差が鮮明となった。自社株買い金額のトップは情報技術セクター(369億ドル)で、1-3月期から37.6%減少したものの全体の41.6%を占めて全体をけん引した。2位はコミュニケーション・サービスセクター(275億ドル)で同37.7%増加。前期比で増加した唯一のセクターとなり、全体の31.1%を占めた。3位はヘルスケア(107億ドル)で、同48.5%減少となったものの、これら3つのセクターで全体の約85%を占めた。全11セクターのうちこれら3つを除いた8セクターは同7割を超える減少幅となっており、なかでも景気動向に影響を受けやすい素材・一般消費財・資本財セクターは同9割を超えた。一株当たり利益(EPS)が1-3月期に前年比12.8%減、4-6月期に同30.2%減となるなかで、株主還元策より手元資金の確保や財務健全性を優先する経営判断は正しいと言えようが、投資家にとっては厳しい結果となった。

 株主還元策の先行きについては新型コロナウイルスの感染再拡大やそれに伴う経済活動の制限に左右される面が多く、不透明感が強い。企業利益に関しては緩やかな回復が見込まれるものの、経営環境の変化に対応するためのビジネスモデルの再構築が優先されるとみられ、株主還元策の回復ペースは緩やかなものにとどまるだろう。また、銀行に対する株主還元制限の行方にも注目したい。米連邦準備理事会(FRB)は四半期ごとに銀行の健全性審査(ストレステスト)の結果を公表しており、前回6月は審査結果と併せて自社株買い禁止と7-9月期の配当支払いの上限設定を公表した。FRBは銀行の自己資本維持のためにこれらの措置を10-12月期も継続するか、9月末までに決定する方針を示しており、規制が維持されれば引き続き金融セクターには重しとなるだろう。株主還元策が米国株を押し上げる展開となるまでには時間がかかるとみられる。

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