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ストーカーだと思ってたら、あの時の狐さんだったみたい。




学校への通学路。





大通りから少し逸れた閑静な住宅街を歩く。




「あれ......まただ......」



直接見た訳では無いが、確かに感じる何かの気配。





ここ最近、通学路でずっと感じる。




一歩。



また一歩とじりじり近づいて、首筋にヒヤリと汗をかく。






意を決して後ろを振り返ると、そこには隣のクラスの菅原さんがいた。




「○○君......○○君だよね......?」



少し茶色の髪。


綺麗な鼻筋。


可愛らしい顔。




男心をくすぐる要素から絶対な人気を誇っている。



それでいて、時に大人のような雰囲気も。



僕なんかには手の届かないような高嶺の花とみんなが口を揃えて言う。





こんな子と付き合えたら、幸せなんだろうな。



「おーい......聞こえてる......?」



「ご、ごめんなさい!なんの用ですか......?」



「もう......せっかくまた会えたのに......」



頬をふくらませる菅原さん。



とても可愛らしい。




ん?


ちょっと待て、また会えた?



「また......?」



「まぁこの姿だから覚えてないのも無理ないか......よっと。」




次の瞬間、菅原さんの姿が狐に変わる。





「は......はー?!」


閑静な住宅街に響き渡る僕の声。



驚きのあまり腰が抜けてしまった。



「クーン......」



狐......もとい菅原さんが僕の首筋をペロッと舐めてくる。



「ちょっと......」



幸せそうな顔で1回、2回と舐められる。



少しすると満足したのか、もう一度人間の姿に戻った。




「私の事......ほんとに覚えてないの......?」




「もしかして......あの時怪我してた子......?」




「そう!あの時の!」













あの時、それは10年以上前に遡る。




まだ僕が小さくて、小学校低学年の頃。



桜が咲いてる季節の出来事だった。




「あの雲、まっくろだね?」



「ほんとね、洗濯物取らなきゃ」



当時小さかった僕は、春休みに少し離れたおばあちゃん家に来ていた。



山の方は天気が変わりやすく、先程まで晴れ渡っていた空も次第にしかめっ面になる。




「わっ!」



雷が落ちると共に雨の音がした。


すごく近くに落ちる時もあれば、遠くに落ちる時も。






しばらくすると、次第に声が聞こえた。



「クーン......」



「玄関からなんか聞こえるよ!まま!」



「こら!外は危ないわよ!」




母の言葉を無視して玄関の扉を開けると、足に傷を負った狐が1匹。




「まま、助けないと!」



僕は狐を抱っこして、そのまま家の中へと招き入れた。



「もう.....びちゃびちゃじゃない。」



少し開けただけで頭からつま先までびちゃびちゃ。


そんな時にこの子は1人で外にいたんだから助けるに決まっている。








足の傷を消毒して縛り、一緒にお風呂にも入った。




お風呂に入ると綺麗な茶色の毛並みが見えて、とても幸せそうな顔。



それを撫でてやって、お風呂を出る。





そして狐は油揚げを1つ食べた後、忽然と姿を消してしまった。


















                              ・・・




「あの時の子だったんだ......」



「そうだよ、気づいてもらえないかなって最近ずっと見てたのに......」



ここ最近、気配を感じてた理由が分かったところで1つ疑問が思い浮かぶ。



「どうして最近になって出てきたの?」



「○○君に会いたいって神様に相談したら、一人前になってからだって言うんだもん」



狐は神様の使いってのは本当だったんだ......



「ずっと○○君にお礼が言いたかったの......」



じりじりと近づいてくる菅原さん。


今でも夢なんじゃないかと思う。



「ち、近いよ......」



「ん......」

菅原さんは舌をぺろっと出してさっきみたいに首筋を舐めた。

「ひゃっ......!」


情けない僕の声が響く。


「あ、人間のままだった」


舌を少し出して微笑む姿がとても可愛らしい。



狐だと分かっていても、好きになってしまいそう。











「菅原さんはどこに住んでるの?」



「やだ、咲月がいい。菅原は取ってつけた名前だもん。」


いきなり女子を下の名前で呼ぶ事のハードルはかなり高い。


ましてやこんなにも可愛い子。




人間だとか狐とか気にしている場合では無い。



「さ、咲月......」



「はーいっ」



元気よく返事をする咲月から目を切って、何とか意識を保つ。


「どこに住んでるの......?」




「和のお家、代々神様と縁がある家庭らしくて。ホームステイみたいな感じだよ」




井上さんのお家に咲月が住んでるなんて、学年の男たちは盛り上がるだろうな。




「和、可愛いよね」




「うん」



僕がそういうと、咲月少し不機嫌そうになる。



「ああいう子が好きなんだ......」


「そういうわけじゃ......」



「せっかく綺麗な姿に変身出来たのに......」



井上さんももちろん綺麗だけど、咲月も当然可愛い。



しゅんとしてる彼女に、本心を包まず伝える。



「昔からずっと......咲月はか、可愛いよ?」



「えへへ......」




笑うと狐の時の面影が少し残ってて、やっぱりあの時の子だた確信する。



思い出話や高校の話などをして、僕の家までの話に花を咲かせた。






「僕の家着いちゃったけど、咲月は帰る?」


「もう和に泊まるって連絡したよ~」


泊まる......泊まる?!


やはり人間の常識は通じないみたい。


「え?!」


「何よ、嫌なの?」


「そうじゃないけど......」


「じゃあ入るねっ、おじゃましまーす!」


「あ、ちょっと!」





いつの間にか手に持ってた鍵を奪われ、自宅への侵入を許す。



「あれ、○○ママ達は?」


「お父さんが転勤になったから、僕だけ残ったんだ」


「そっか......お礼言いたかったんだけどな......」






それからは咲月のこと、井上さんのこと、神様のことを聞いた。




奇想天外なことやびっくりすること、それ話していいの?なんてことまで。








気がつくと太陽はタイムカードを切る寸前、咲月のお腹が鳴った。



「お腹空いた......」


「咲月は普通にご飯食べれるの?」


「うん!」



僕はキッチンへ向かい、お湯を沸かす。


冷蔵庫からうどんと油揚げを取り出し、準備に取り掛かった。



「その油揚げ!あの時の!」


「そうだよ、おばあちゃんから貰ったやつ。」



「楽しみ~」




心做しかしっぽをブンブンと振っているようにも見えた。













うどんにねぎを少し入れ、咲月の所へ持っていく。



「はい、どうぞ」



「いただきます!」




長い髪を耳にかけ、箸を器用に使ってうどんを食べる。



あまりにも美味しそうに食べるので、こちらも少し笑顔になった。



「美味しい!」



油揚げも、昔のように少しづつ端っこから食べていてどこか懐かしさを感じる。


「やっぱ最高......あれ、○○君は食べないの?」


「た、食べるよ」



咲月に見惚れてたせいか、いつものように箸が上手く扱えない。



「○○君、私より下手なんじゃない?」



咲月にまで笑われてしまった。



「う、うるさいよ」




僕は何とか動揺を抑えてうどんを食べはじめる。



うん、我ながらいい味。



おばあちゃんが送ってくれた油揚げも美味しい。


もう一口、油揚げを食べようとすると視線を感じる。



「欲しいの?」



「べ、別に......」



「遠慮しなくていいよ?」


「ん......」



口を開けて待つ咲月。


ずる賢いんだが、天然なんだか。


恥ずかしい気持ちを抑えて、油揚げを咲月の口に持っていく。


「美味しい~」


咲月の喜ぶ顔にこっちまで微笑ましくなった。

















うどんを食べ終えて食器を洗い、風呂に咲月を促す。


「○○も一緒に入ろうよ」


なんて言われたけど、昔の話だし今そんなこと出来るわけない。



咲月を待つ間、今日のことを振り返る。



驚きの連続で、久しぶりにジェットコースターみたいに感情が動いた。



体の中も少し変な気がして、これが恋なのかな。





そんなことを考えていると咲月はお風呂からあがってきた。



「○○君......ドライヤーがいつものと違くて......」


「いいよ、やってあげる」



胡座で座る僕の間に咲月を座らせ、綺麗な髪をゆっくり乾かしていく。



「○○君に撫でられてから......他の人に撫でさせてないんだからね」



「......なんで?」


僕はよく分からなくて、思わず聞き返してしまった。



咲月の表情は見えないけど、少し怒っていそうな気配。


「別に○○君は知らなくていいし」


咲月の声はドライヤーにかき消されて、そのまま空へと飛んでいった。




















僕が風呂からあがると咲月はリビングで寝てしまっていた。



「咲月......風邪引くよ」


ブランケットをかけて、頭をそっと撫でる。



心なしか嬉しそうな表情をした気がして、よほど撫でられるのが好きなんだと思う。



僕は寝室へ向かいベッドで眠りについた。






















翌朝、ベッドから降りようとすると体が動かない。



金縛りにあったって昨日のことがあれば疑えないんだよな。




恐る恐る目を開けると、同じ布団に咲月が入っていて抱きついてきていた。



「はぁ.....金縛りじゃなくて良かった......」



抱きつかれているからか、体はあつく心臓が跳ねる。



「可愛いな......」



無意識に頭を撫でると、表情が緩んだ気がした。



「ねぇ、起きてるでしょ」


「私、可愛いんだ......?」



照れながら、はにかみながら言う咲月。


至近距離すぎて思考がまとまらない。



「か、可愛いと思うけど......」


咲月の方を見ていられなくなって、視線を横に逸らす。


すると首筋に慣れない感覚が襲う。



「ん......あ、またやっちゃった......」


「に、人間の姿では禁止......!」





咲月から離れて、ベッドを出ようとすると足元がおぼつかない。




彼女から離れたというのに、体のあつさは収まらずお腹の奥底からとてつもない痛みを感じる。



「......」



「○○君.....○○君......!」




咲月が僕の名前を呼ぶ横で、なにかが途切れたように意識を手放した。




















                              ・・・



朝、少しはやく起きると私はリビングにいた。



どうやら昨日は寝落ちしてしまったみたい。



かけられたブランケットを見て、○○君の優しさに触れた気がした。



恩返しがしたい、その一心で彼の所に来たけど優先してしまっているのは私の気持ち。




何ができるか考えた時、ひとまず彼の部屋を探した。



寝室を見つけると、○○君はぐっすり寝ていて布団がしっかりかかっていなかった。




私はこれだ、と思いベッドに潜り込み布団を上まであげて添い寝をはじめた。












○○君が起きた時には可愛いと言ってくれたし、とても幸せな気持ちなった。




しかし、○○君がベッドから出たところで倒れてしまった。


「○○君......○○君......!」


どうすればいいか分からず、和に連絡して救急車を呼んでもらい病院まで向かった。














救急車の中でもずっと彼の手を握って、無事であることをただ祈るしか無かった。









病院での検査が色々行われている間に和が到着し、色々話を伝える。




「和......」



「咲月は彼の事1番に信じてあげないと」



「そうだね.....」







数十分後、病室に呼ばれた。




病院の先生が言うには、エキノコックス症。



簡単に言うと、エキノコックスに寄生されたキツネやそのフンからかかる病気らしい。



潜伏期間は5年から10数年。




○○君と出会った頃の私は神様に仕える前で言わば野生の状態。




神様に仕えはじめてからは高天原に許可のない生物の侵入を拒むから、多分その虫もいなくなっているはずだけど......






「かなり危険な状態なので、手術に取り掛かって摘出したいと思います。」




「......はい......よろしくお願いします......」




私のせいだ......。




私は○○君に助けて貰っただけじゃなくて、○○君を命の危険にも晒してしまったんだ......。





恩返しとはかけ離れた事にひどく絶望する。






「さっちゃん。」



泣くのを我慢していると、和から声をかけられた。



「今、○○君を支えられるのはさっちゃんしかいないよ。」




「でも......私のせいで○○君は......」




「ずっとそばにいてあげるだけでも、○○君は嬉しいと思うよ?」



「私がいたら悪いことしか起きないよ......」



「○○君を支えられるのはさっちゃんだけだよ?」



「分かった......」





○○君の手術が終わるまで、私は自責の念にかられ続けた。


















手術が終わると、病室に呼ばれた私たち。




「手術はうまくいきましたよ、あとは彼の体力次第です。」




先生が病室から出た後、私は横に座って○○君の手を握った。



「○○君......」



















翌日から数日間、学校にも行かず○○君の病室に来ては手を握る。




和からも学校の先生からも心配されたけど、私の心は雨模様で○○君が目覚めるまで晴れることは無い。









「○○君......ごめんね......」




自分の無力さに涙が出てくる。



それに呼応するかのように外でも雨が降ってきた。





「うぅ......」



1度マイナスに偏った気持ちは、そう簡単にはプラスに戻らない。



私はただ、○○君のベッドを濡らし続けた。

















「......月......咲月......」



「んぅ......」



気がつくと寝てしまっていたみたいで、私を呼ぶ声に起こされた。



「おはよ」



頭が回っていない状態で、1番安心する声が聞こえる。



眩しい笑顔に、心の雨雲も退かされた。



「○○......!」



抱きつこうとした矢先、体が硬直する。



私が彼を苦しめたのに。


ナースコールを押して、ひとまず看護師さんを呼んだ。


「咲月?」


「その......ごめんなさい......」



状況を理解出来ていない彼に説明をした。


エキノコックス症だったこと。


恐らく昔の私のせいだということ。



そして、倒れて数日間入院してたということ。





「なるほどね......」



「私......○○君の近くにいる資格なんて無いから......もう目の前に現れないから......」



違う。


こんなことが言いたいんじゃない。



無事でよかったって、伝えたいのに。



「咲月がいなくなっちゃうのは嫌」



そう言って私の心を見透かしたように○○君は頭を撫でてくる。



だめだ。

また私だけが○○君に貰ってばかり。


「でも迷惑かけてばっかりだし......私だけが一方的に感情を貰ってばっかり......」



○○君は私を安心させるように背中をトントンと叩き、頭を少し強めにわしゃわしゃと撫でる。


「そんなことないよ。」



「でも......○○君にお礼がしたくって......」



「じゃあ......1つだけお願いというか提案なんだけど」


「うん......」


ここで何を言われても、受け入れるしかない。



文句を言える立場にないのだから。



「その......好きだから付き合ってくれないかな......」



顔を赤くしながら言っている○○君。


嘘のように見えないからこそ、こちらまで恥ずかしくなる。




「ごめんね、こんな時に」



「こんな時って......」



また私は貰ってばかり。


この告白も受け入れていい立場なのかな......



「入学した時から目で追っちゃってて......そしたら話しかけてくれて、凄く嬉しかったよ」




「私は○○君のために.....こうやってこの姿になって会いに来たんだから......」





「不束者ですが......よろしくお願いします......」



「こ、こちらこそ......」



○○君も私のことを好きだなんて夢みたいで、 びっくり。



再会して数日、ましてや狐なのに。



私は助けてもらった時から好きだけど、○○君はどうなんだろう。



「○○君はなんで私のこと好きになってくれたの?」


「うわぁ......それ聞いちゃう?」


「嫌ならいいけど......」



「可愛いなとは思ってたけど......入学式で目合った時にウインクされてから......」



気づいてくれないかなってやった何気ない事。



結果的に○○君の心に届いたみたいで良かった。



「あ、そうだ。キウイとか梨とかあるけど食べる?」



「うん、食べたいかな」



そこへナースコールを聞きつけた看護師さんが来てくれた。



「体調とか大丈夫ですか?」


「はい、問題ないです。」



○○君が簡単な検査をしてる間に和も病室へやってきた。



「さっちゃん、良かったね」


「それが......」



和は付き合ったことを伝えるととても驚いていた。



奥手そうな2人なのにって。




私はそれを他所にキウイと梨を食べやすいよう状態にし、お皿に移した。



「修行のおかげだね」



「修行?」



検査を終えた○○君が会話に入ってきた。



「どうも、井上さん」


「○○君、はじめまして。さっちゃんは○○君のために私の家で花嫁修業してたの」


恥ずかしい情報に、顔があつい。


「ちょっと和......」


「咲月も可愛いとこあるよね」


2人からのいじりに恥ずかしさが止まらない。



病室からは3人の声がギリギリまで響き渡っていた。




























                             ・・・


数週間後、僕は学校への通学路を久しぶりに通っていた。




大通りから少し逸れた閑静な住宅街を歩く。



直接見た訳では無いが、確かに感じる何かの気配。



前までは少し怖かったけど、今は知ってる可愛い気配。




「○○君!行こ!」



「しっぽ振りすぎだよ」



「え、出てる?」 


「うん、ブンブンしてる」


咲月のしっぽがブンブンしてるってことは喜んでくれてるのかな。


「ほら、これ」


「ちょっ......くすぐったいよ......」


「ご、ごめん。」



2人で並んで歩く道。



少ししたところで太陽は出てるのに天気雨が降ってきた。



「ねぇ、○○君」


「なに?」



「改めてだけど......大好きだよ......!」













ハチャメチャな狐につままれたような1週間。



1人と1匹から2人へ。



天気雨はまるで2人の将来を示すかのように雨を強めていた......。

















fin......

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