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推してるアイドルは同級生で1人の女の子でした。




「そろそろかな。」


軽めの夜ご飯の準備をして、ソファに腰かけ録画していた深夜番組を見る。


見始めて数分が経ったところでインターホンが鳴る。


玄関へ向かい、扉を開けるとそこにはマフラーにくるまった瑛紗がいた。



「さむい......!」


「どうぞ、ご飯出来てるよ。」


「エビフライだ!!」


「手洗いなよ?」


「うん!!」


瑛紗を洗面所と向かわせ、盛り付けに取り掛かる。


終わる頃にはもう食卓に瑛紗は座っていて、お腹を空かせていた。


「いただきます!」


「うん、どうぞ。」



「美味しい~」



目を細めて口角をあげ、美味しそうに食べてくれる。



「そういえば、鍵持ってるのになんでインターホン押したの?」


「いや......女の子とかいたら申し訳ないし......」


「いや、出来るわけないでしょ。」


「○○、かっこいいのに。」


推しだけど、好きな人。



好きな人だけど推し。




そんな人からかっこいいなんて言われたら照れてしまうに決まっている。


照れを隠すように僕も少し言い返す。


「瑛紗が歯ブラシ洗面所に置いていったくせに。」


そうすると瑛紗は何食わぬ顔でご飯を食べ進めながらこちらを見る。



「魔除けだよ、私以外の女に浮気するの?」


目をバキバキにさせて睨みを効かせてくる。



「ミーグリだって、最初からずっと行き続けてたでしょ?」


「そうだけど......」


僕の心のキャンパスは瑛紗の色でいっぱいだよ。



なんて言えるわけも無く。





君との関係を記すキャンパスには絵の具は1色だけ。









そんな本当の君との出会いは濃かったな......





















                             ・・・





高校2年生の3月19日。


その頃は藝大に向けて予備校に通いつめ、現役合格をめざしていた頃。


YouTubeに流れてきた君を見て、乃木坂46の事を知った。



「綺麗......」


思わず口に出してしまう程の美しさ。


学校にいた僕は周りの友達に少しいじられながらも乃木坂46のことについて知った。




あまりに心を奪われたものだから、年齢を調べて大学の同い年にはなれないと分かった時は少し悲しくもなった。



はじめてのミーグリでは後ろに置きっぱなしにしていた絵から覚えてもらったり、可愛い笑顔に夢中になって。



受験が近くなるとミーグリには来れないことを伝えると



「絶対受かって来てね?私も頑張るから......!」




そこから死ぬ気で勉強した。




合格発表の日、緊張して開いたページに書かれていたのは合格の2文字。




それから数日後、あるニュースが舞い込んでくる。




乃木坂46 池田瑛紗 藝大合格


いてもたってもいられなくなってレターを送り、ついに迎えたミーグリの日。







「僕、受かりました!」



「おめでとう!これからは同級生だね!」







入学式では席は来た順で学科ごとに並ぶ。



僕は時間ギリギリに席に着くと、後ろから聞き馴染みのある声がする。



「○○、ほんとに同級生になっちゃったね。」



瑛紗が隣の席に座る。



心臓が跳ねる。



入学式がはじまり、偉い人のお話を聞いていると横から指が伸びてきて僕を呼んだ。



「退屈だから、少しお話しようよ。」



「いいですけど、あんまり大きい声出さないでくださいね?」



少し意地悪してみると、頬を膨らませてくる。



「もう......ていうか敬語やだなぁ、同級生だよ?」



「ミーグリと現実は違くて緊張するというか......」



「瑛紗って呼んで、はやく。」



「て、てれさ......」



「顔赤いよ、○○。」



少し笑われながらも彼女の口から放たれた名前が更に僕の顔を赤くする。











入学からある程度が経過し、瑛紗とも少しだけ仲良くなってきていた。



授業が同じになった日、瑛紗から声をかけられた。


「あの......○○に提案があるんだけど......」


深刻そうな顔をしていたので、少し心配になる。


「どうしたの?」


「課題が終わらなくて......でも仕事の方も忙しくて......」


「やっておこうか?」


瑛紗の絵はかなりの量見てきたし書き方の癖も真似するのは得意だから行けると思う。


「ほんとに......?」


「うん、お仕事頑張ってね。」


「それでその......事務所の方にも伝えたら......タダでやらせるのは違うかなってなって......」


「別にいいのに。」


「私が良くないの......!」


「だから......○○の家教えて?」



ん?



「ごめん、なんて?」


「だから、○○の家教えて?」


「はー!?!?」


「しー!目立っちゃうよ!」


驚くなということの方が無理だろう。



「ご、ごめん......でもなんで?」


「わ、わたしが癒してあげるというかなんというか......」


「事務所の人、ほんとにいいって言ったの......?」


「うん......アイドルでもあり、1人の女の子だから応援するって。」


「応援......?」


「こ、こっちのはなし......!」








                             ・・・


そこからアイドルが家に来るという不思議な事が起こったのだけど......



「○○、100ドロ順調?」


正直、馴染みすぎている。


今も洗い物をしている僕を見ながらソファでパンダのクッションを抱いている。



「順調だよ、大変だけどね。」



100ドロというのは100枚の絵を1ヶ月で書き上げる課題のひとつ。



「......」



いつもなら、夜ご飯を食べて少しお話したら帰る瑛紗だけど、今日はなかなかソファから動かない。


家に来た時からも少しおかしいなとは思っていた。


付き合いも長くなってきたし、空元気気味なのも分かった。


すると瑛紗から衝撃の一言が放たれた。



「今日、泊まりたい。」


「......大丈夫なの?」


「今日はそんな気分。」


「そっか、僕はもう風呂入ったからおいだきして入って来な?」



「うん。」



「着替えは?」



「借りてもいいかな?」



「うん、ちょっと大きいかもだけど。」


僕は部屋着を瑛紗に渡して、ソファに座る。




仕事で上手くいかない事があったのか、そうだったらどうすればいいか。





考えていたら時間はすぐに経過してしまって、瑛紗はドライヤーを持ってリビングに出てきた。



「やって?」


「いいの......?」


「うん、お願い。」



恐る恐るドライヤーを手に持ち、瑛紗の綺麗な髪に触れる。



妹にドライヤーをしてあげた経験はあっても、好きな人にするのは訳が違う。



「どう?あつくない?」



「うん、気持ちいいよ。」



たまごを扱うかのように優しく、丁寧に髪を乾かしていく。



終わると瑛紗はまたソファに座った。




「作業部屋で絵書いてくるね。」


そう言い残して作業部屋に行こうとすると袖を摘まれる。


「今はひとりになりたくない......。」


今にも消え入りそうな声で言われたので、作業部屋まで着いてきて貰うことにした。



絵を描こうとすると後ろから瑛紗に抱きつかれる。


「て、てれさ?!」


1人でアタフタしていると瑛紗が話し始める。


「私、今日だめだめだった......」


「ネットでもダンスが1人だけ下手くそだって言われてたし......」


「アイドル、無理なのかな......」



初めて見せてくれた瑛紗の弱い部分。



そりゃ思いつめることもあるよな。


でも、瑛紗には笑っていて欲しい。


「瑛紗、一旦離して?」


「やだ......」


「じゃあ、そのままでいいから着いてきて。」


作業部屋の隣の部屋にある作品部屋へ向かい、そこに置いてある1枚の絵を手に取る。


「これは......?」


「これはね、瑛紗の笑顔。」


100ドロで1番最初に思いついた、大好きな人の笑顔。



「瑛紗は笑顔が似合ってる。」


「今は辛いこともあると思うけど、俺に出来ることならなんでも言ってね。」



すると瑛紗は正面から抱きついてきた。


「○○......ありがと......」


瑛紗の涙を文字通り体で受け止める。


こちら側から手を回していいか悩んでいると


「○○も抱きしめてよ......」


と言われる。



恐る恐るか弱い体を抱きしめた。



数分が経つと瑛紗が僕の胸の中から瑛紗がひょこっとこっちを向いた。


「も、もう落ち着いたから......」


「ご、ごめん......!」


なんとも言えない空気感になって、作業部屋の椅子に座り絵を描こうとすると瑛紗が肩に顎を乗せてきた。


「何書くの......?」


正直、気が気じゃない。


それでも僕はこの感情ごと描きたいと思った。


「リナリアを描こうかな。それかコリウス。」


花を書く時は花言葉を調べるので、意味も知っている。


自分の作品に今の気持ちを乗せる。


「ふーん......ちょっとお花摘み......!」


そう言うとトイレへ小走りして行った。


「そんな言い方するアイドルいないでしょ......。」


鉛筆を取り出し、いざ描こうと思ったところで瑛紗が戻ってきた。


「ねぇ○○......赤い薔薇にしない......?」


瑛紗にそう言われて、びっくりした。



赤い薔薇の花言葉は「あなたを愛しています」



瑛紗の耳まで真っ赤な顔を見れば、花言葉も理解しているのが伺える。


自分の顔もあつくなっていくのがわかる。


顔があつくなっていく中で自分の気持ちも定まった。


「瑛紗、もう寝る?」


「え?ブログ書いてから寝るけど......」


急に聞いたので瑛紗も少し困惑している。


「じゃあちょっとまってて!」


そう言って上着を羽織り、最低限の持ち物で家を飛び出した。


寒い夜を全速力で駆け抜ける。


冷たい空気が顔や肺に打ち付けるがそんなことを気にしている余裕は無い。



「はぁ......はぁ......」





ホームセンターへとそのまま走っていった。















「お待たせ......」


玄関を開けると瑛紗がすぐに出てきて心配そうにこちらを見ている。


「急に行っちゃうからびっくりしたじゃん......!」


「描くからには実物が欲しいと思って......」


袋から赤い薔薇を2種類取り出し、1つを瑛紗へとあげた。


「○○......」


「瑛紗にあげたのは造花なんだ。」


「生花は枯れちゃうけど造花ならずっと枯れないから......」


瑛紗は花言葉を分かっているから、少し涙目。


でも、ハッキリと伝えたい。




「瑛紗のこと、好きだよ。」


「.........」


瑛紗は顔を赤くして俯いてしまった。


「瑛紗にも立場があるから、伝えるか迷ったんだけど......」


「○○っ!」


言葉を遮って瑛紗が抱きついてきた。


「アイドルじゃない時の私は......○○の事......好きだよ......?」



「赤い薔薇の時点でなんとなくは......」


「そういうのは分かってても言わないの......!」


「でも瑛紗はアイドルだから、僕は気長に待ってるよ」


「待たせる私より、他の女の子の方がいいんじゃない......?」



多分、欲しがりだからこんなことニヤニヤしながら聞いてきてるんだろうな......。




上等だ。


「もう瑛紗しか見えない、瑛紗しか愛せない、責任取ってよ。」

そう言って壁際へとジリジリ瑛紗を追い詰める。

「ま、○○......?」


「瑛紗......目閉じてよ。」


「ま、まだはやいんじゃ......」


「いいから、はやく。」



「う、うん......」



案の定瑛紗の顔は真っ赤で口も少し尖らせている気がする。



「ばーかっ。」


そう言って弱めのでこぴんをしてやった。



「○○......?」


でこぴんの直後、気がついたら壁側の瑛紗と僕の位置が逆転していた。



「え......え?!」

目をバキバキにさせた瑛紗の異常な程強い力のせいで身動きが取れない。


「乙女の純情を弄んだ○○には罰ゲームがあります。」


「な、なんでしょうか......」


睨んでるんだろうけど、可愛い顔をしている。



「ちゃんとちゅーして。」



「ふぇ......?」



思いもよらない事で間抜けな声が出てしまう。



「いやいやいや!出来ないって!」



「私の事好きなら出来るじゃん。好きじゃないの?」



「好きだけど?!それとこれとは......」


「ん......」


話を遮って口付けしてきた。


「ぷはっ......どう?現役アイドルの唇は?」


明らかに顔が真っ赤な人が聞く質問じゃない。


「や、柔らかかったです......」


人のことは言えたもんじゃないけど。


またしてもなんとも言えない空気関。


切り裂いたのは瑛紗だった。


「ね、寝る......!」



「うん、おやすみ。」



「私、寝る。」



そう言うと気づけと言わんばかりに袖を引っ張ってきた。


「わ、分かったよ......」





ご機嫌に先に布団に入り、来いよと言わんばかりに見せつけてくる。



「おじゃましまーす......」


「ど、どうぞ......」


いや、緊張してるんかい!と心の中でツッコミを入れ寝る体勢をとる。


疲れもあったのか瑛紗はすぐに寝てしまった。



「好きだよ、瑛紗。」



そう言って頬に口付けをして自分も眠りについた。











「寝たふりしてない時にしてくれれば良かったのに......まぁこれはこれで可愛いか。」



○○が寝たのを確認し満足気に○○の方を向き頭を撫でた後、瑛紗は○○に抱きついて眠りについた。













赤い薔薇の生花と造花は、遜色なくうつくしさを保ち続けていた.........

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