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ドキドキさせてくる幼なじみとひと冬のきせき。(後)




一人で歩くこの道も、いよいよ片手で数えられるくらいしか歩けないんだと思うと悲しい。






やっぱりだめだ。




一人になるとだめだ。




目の前がぼやけて、まだ現実を受け入れられていない自分が出てきてしまう。









やっとの思いで視界をクリアにし、家の扉を開ける。



「ただいま。」




「おかえり...!」


俺の家のキッチンでエプロンを付けて料理をしているのはアルノだった。


「母さん達は?」



「私の家にいて○○を集中させてあげようってさ。」


あぁ...気を使ってくれたんだなって。



感謝してもしきれない。





「そんなことより、アルノ料理できるの?」



今はこの時間を楽しむだけだ。




「失礼な、私の得意料理を作って上げてるんだからね?」


アルノの得意料理、はじめて聞いた。



「なんだろう、カップ麺とか?」



「黙って待っててくださーい。」




待つこと数分、アルノの「できたよ~」という声と共に料理が運ばれてきた。


「じゃん、親子丼...!」


かなり美味しそう。というかアルノのドヤ顔がちょっと面白い。


「ぷっ」と吹き出してしまうとアルノが


「まぁ、食べて見ればわかるよ。」


とまだドヤ顔を続けるので「いただきます。」


と言って食べてみることに。



「んまっ...!」


「どうだ!見たか~」


アルノも自慢げで嬉しそうだった。


「食べさせてあげようか?」


とノリノリだからか聞いてきた。


からかっているつもりなんだろう。



でも、それすらも愛おしく、嬉しく感じる。



「じゃあ、お願いしようかな。」


「え...まじ...?」



「うん、まじ。」



もうちょっと煽ってみようか。



「恥ずかしいの?」


「で、出来るし!」


こうやっていじっぱりなのも可愛い。



「あ、あーん...」


「あーむっ...うん、美味しいよ。」


真っ直ぐアルノの目を見て、伝えた。



「あ、ありがと...」


照れてる。


そんなアルノに食べさせてもらって、全部食べきった。




「お風呂入る?」


と言われたのでアルノは?と聞くと


「私はもう入ったよ。」


と言われた。














風呂に入っても考えるのはアルノのことばかり。



死ぬかもしれないこと。


明日決勝があること。


そんなことよりもアルノのことを考えている。















「出たよ。」


「ドライヤーやってあげる、おいで?」


「ありがと。」


ブオーンと大きい音を出しながらドライヤーを使ってアルノが髪を乾かしてくれた。


人に頭を触られるのってなんだか気持ちよくて、ゾワッとする。




「はい、終わったよ。」


心地よい時間はあっという間でお互いに何も無い時間が出来てしまった。




「○○、はやめに寝る?」


明日試合だから、気を使ってくれているんだろう。



それでもアルノとの時間を無駄にしたくなかった。


「ううん、アルノと話したい。」



「うぅ...じゃあ○○の部屋行こ。」



ちょっと恥ずかしがっているのか、すぐに移動して行ったアルノを追いかけて俺も二階の自室へと向かった。





俺の部屋につくとアルノは我が物顔でベッドに座った。



「ほら、隣座ってよ。」


アルノに手招きされて広いベッドの真ん中に座った。




「昨日ぶりだね。」


アルノはそう言うけど、俺は昨日のことよりも今を目に焼きつけることに必死だった。


「一緒に寝るなんて久しぶりだったよね。」





「○○の腕の中、結構落ち着くんだ。」


ちょっと恥ずかしそうに、嬉しそうに言うアルノが可愛くて思わず抱きしめた。



「アルノ...」


「○○…」




長年の幼なじみの雰囲気と初々しい雰囲気。


その二つが混ざっている。



「○○。」


「なに?」


「私ね、○○のこと…」



何を言われるかはなんとなく雰囲気とアルノの表情で想像できた。



でも、それを言われてしまったら余計にアルノを傷つけることになる。





そう思った俺は咄嗟にアルノの唇を奪った。




「んっ...」


「ん...」


「○○...?」


アルノが紅潮した顔で○○を見つめる。



そんな顔をされたら男子高校生にはどうすることも出来ない。




ましてや、明日死ぬかもしれない○○に選択の余地は無かった。




「○○...」


「アルノ...」


お互いがお互いを求めて、愛し合う。

二人の間に心の距離は無くても、「好き」とはどちらも言わなかった。


















そしてその夜、俺たちは泥のように眠った。















朝、アラームの音で目が覚めるとアルノは目を覚ましているものの○○にくっついていた。







「おはよ...。」



なんだか照れくさいような挨拶。



「おはよ。」



俺もそんな感じだった。



とはいえ、あまりゆっくりもしていられない。






アルノが下に降りた後に着替えて、準備をした。



準備が終わり次第下に降りると、テーブルには試合前のいつものメニューが置かれていた。



「はい、召し上がれ。」



おそらく、人生最後の食事。




それがアルノの手作り。




母さんも粋なことをしてくれる。




一口一口、一瞬一瞬を噛み締めながら橋を進める。




「どう?」




「美味しいよ、世界で一番。」





「そ、そう...」



アルノは照れていたけど、俺は恥ずかしさもなくなっていた。







全てがこれで最後。



そう思う度に出発の時間が来るのを拒んでしまう。





一生この時間が続けばいいのに。





その一生が短いくせに、そんなことを考えてしまう。











「ごちそうさまでした。」



「お粗末さまでした。」



「そろそろ行く?」



アルノにそう聞かれるた。


「あと10分で行くよ。」









あと10分。






あと10分しかない。






そう思うと気づいたらアルノを呼んでいた。



「アルノ...!」



「なに?」



アルノの返答の後、すぐにアルノを抱きしめた。



「なんだよ...甘えんぼかい?」




「怖い...」




意識せずとも口に出てしまった言葉。




それでもアルノはそっと頭をなでてくれた。


「そっか、よしよし。」










深くは聞いてこない。




これもアルノの良さだ。



俺もアルノとの最後のハグを精一杯噛み締めた。


























アルノを抱きしめていたがとうとう出発の時間が来てしまった。





名残惜しいけど、最後のハグの時間も終わりを告げた。





温もりがなくなる瞬間、ふと涙が出そうになる。



アルノの前では極力弱さは見せないように振舞った。






「じゃあ、行ってくるね。」




その言葉とともに俺はアルノを目に焼きつける。




「うん、頑張ってね。」



「優勝して帰ってくること、いい?」



「うん。」



そんな会話をして、玄関まで見送ってもらう。



そして最後にもう一度だけ唇を奪った。




一秒にも満たない一瞬だったけど、二人の間には永遠に感じるようなひと時だった。



「じゃあね。」




「うん、じゃあね。」





俺は見えなくなるまでアルノに手を振ったし、アルノも見えなくなるまで手を振ってくれた。






この道を歩くのも、本当に最後。





今考えると、やりすぎちゃったな。なんて思ったり。



でも、どうせ最後なんだから許してほしい。









頭をアルノに支配されていると、いつもの分かれ道で和と会う。



「良かった...」



「言ったでしょ、約束って。」



「うん、じゃあ行こっか。」



「うん。」






和にも高校に入ってからは結構支えられたな、なんて思っていると



「優勝、できるかな。」



なんて和からの一言。








「信じて、俺を。」



真っ直ぐ和の目を捉える。



「うん...」



和は耐えられなくなったのか違うところに視線を移してしまう。



「じゃあ、約束しようよ。」



「約束...?」



「うん、絶対優勝してくるから。」



「出来なかったら...?」



「うーん...私のお願い、一つ聞いてね。」



「なんでも?」



「うん、何でも...。」



「まぁ、優勝するから関係ないけどね。」


ちょっとバカにしたような表情を和に見せると、なんだか悲しげな表情を見せた。








その後も談笑をし、学校にたどり着いた。



まだ、俺の心臓は機能している。




止まるな。




動け。





そう願ってバスに乗り込む。








バスが出発しても、景色を見ることは無くずっとまぶたの裏に焼き付いているアルノを思い浮かべていた。









ずっとだ。













そうしているうちに、バスは国立へ到着した。



監督の指示通り、着替えてウォーミングアップの時間まで待つ。



ロッカールームでは昨日のスカウティングの確認がされていた。





それより、俺はずっとアルノから貰ったお守りを見ていた。




耳には一切作戦は入ってこなかった。








アップがはじまる。



幸運な事に、まだ心臓は動いている。



鼓動もまだはやい。



パスにシュート、いい精度で出来ている。




病院で言われたことは嘘だったのか、と言われても不思議じゃないレベルだった。
















でも、試合前にメンバーチェックをしている時なんとなく感じた。













なんとなく、なんとなくだけど。







最後の試合の予感がした。





いや、してしまった。






急に泣きそうになる気持ちを抑えて、ピッチに入る。







円陣もあまりしっかり出来ていない。













そして、試合開始のホイッスルは吹かれた。



甲高い音と共に俺のスイッチが入った。




マイボールからのスタートだったので俺にボールは回ってくる。




俺は最後の試合という予感からみんなとボールを回しはじめた。




パスをするごとに、そいつとの思い出をなぞる。





センターバックのこいつとは、バー当て対決したな。とか




インサイドハーフのこいつとは結構息合うんだよな。みたいな




試合中だと言うのは分かっているけど。




なんとなく、みんなも俺との思い出をなぞっている気がして。









必死でパスを回したし、必死でボールを奪った。





どこかでアルノも見ているんだから、恥ずかしいところは見せられない。





どうせなら死んだ後も語り継がれて欲しい。




そんな気持ちで最後のサッカーを楽しんでいた。










前半終了間際、ベンチ側のサイドで相手がボールを持った。




俺は相手が蹴り出してスペースにドリブルして行くボールを外へ蹴り出した。




いや、正確に言えばパスをした。



ボールはたしかにタッチラインを割った。




しかしボールは和のところへ届いた。




「○○...」



今までの感謝をこめたつもりだが、これでも足りないくらい感謝している。











そして前半終了の笛が吹かれた。



心臓はまだ、動いている。





0-0の状態が続いているが、決して状況が悪いわけは無い。



ピッチからロッカールームに戻ろうとすると和が涙目でこちらを見ていた。




何も言ってくるわけではない。





ただじっと涙を堪えてこちらを見ていた。















ハーフタイムもミーティングをする。




改善点を伝えられ、それを取り組む。





俺はトイレだと嘘をついて、アルノに連絡していた。




「どの辺にいる?」



と聞くと、すぐに既読が付き


「こっちの応援席の前から7列目だよ。」


「わかった、ありがと。」





あまり長居してもミーティングに参加できないので戻る。




ロッカールームに戻ると和が待っていた。




「アルノでしょ?」








「なんで分かったの?」


「女の勘。」


ミーティングをして、後半までの間もアルノを探すために誰よりもはやくピッチに戻った。


ピッチでアップしているメンバーに声を掛けるフリをして、応援席を見渡す。



たぶん、ベンチに入れなかったチームメイトの後ろあたりなんだろう。






そうやってアルノを探していると一瞬、違和感を感じる。




自分のリズムが狂うような、そんな感じ。




これは試合終了まで持つかわかんなくなってきたな。










ふぅと息を吐いて、目を閉じる。




瞼の裏に焼き付いたアルノのことを考えていた。








次に目を開けた時、俺は応援席のアルノを見ていた。




あれだけ見つけられなかったはずなのに。



これも最後だからなのか。





ゾロゾロとチームメイトと相手がピッチに戻ってくる。



最後まで集中しよう。


と声をかけているけど俺も最期まで集中しようと思う。




もう一度円陣を組み、声をかける。







チームメイトにも、チームにも助けられたな。


なんて思ったりしているうちに、輪は解かれスタートのポジションに着いていた。



主審がホイッスルを吹く直前、アルノの方を見た。




遠いけれど近いような、不思議な感じ。




物理的な距離はあるけど、心の距離は無い。




遠いけれどアルノと目があう。



目が合った瞬間、これまでのアルノとの思い出を振り返った。





やばい、泣きそう。





一瞬が永遠のように感じた。





甲高い主審のホイッスルの音が無ければ死ぬまでこのままだっただろう。








後半もかなりタフな戦いだ。



前半と同様、お互いに決定機という決定機を作り出せずゴールまでが遠い。



俺もパスを供給したり、相手を潰したりしているけどいかんせん試合は動かなかった。




気のせいか、心臓の鼓動も少しずつ、緩やかに弱まってきている。




まだ気のせいだと思いたいのは、俺に生への執着があるからだろうな。








そんな中、勝負が動いたのは後半17分だった。




比較的、高い位置でボールを貰った俺は何かに導かれるようにしてドリブルを開始した。



味方も相手も少し虚をつかれたような反応で対応が後手に回っている。




一人を重心の逆をつき躱すと二人目をシザースで躱す。



ペナルティエリアに侵入し、ゴールから20°くらい。









普段ならここで走り出しているフリーのフォワードを使うし、味方も来ると思っているだろう。




でも俺はシュートを選んだ。




くるぶしの真ん中でボールを押し出すように放つ。



いつもとは違う蹴り方で打ち出されたボールは回転せず、綺麗な無回転でゴールへと迫っていく。




無回転と言えば不規則な軌道のイメージを持つかもしれないが、本当に芯を捉えた無回転は横には動かない。





ボールは相手のキーパーが枠外だと思うクロスバーの少し上まで上昇し、そこから急激に落ちゴールネットを揺らす。





かなりのボールスピードだったため、一瞬会場は静まり返った。




そしてワンクッション置いてから割れんばかりの歓声が挙げられた。





思わず俺は自分たちの応援席の方へ駆け出していた。





「すっご!」

「プスカシュ賞レベルだろ!」

「しゃぁ!」



チームメイトが走り込んでくる。


他のチームのように俺に覆いかぶさったり出来ないのでハイタッチ。



そのやり方に温かさを感じる。





自陣のピッチに戻る前に、アルノの方を確認した。





親指を立ててグッドポーズをしている。



それにそぐわないように涙目にもなっている。





アルノが泣きそうだと俺もちょっと来るものがある。





俺の中でアルノの存在が大きくなればなるほど、死を実感させてくるんだから。






残酷な話だよ。


本当に。









そこからのプレー中は緩やかに鼓動が弱まるような





命をゆっくり燃やしていくような感覚。








後半43分、相手の選手が右サイドでボールを持った。


味方がが一人躱されカットインし、左足でシュートを放つ。




そのボールはセンターバックの選手に当たり、ふわっとペナルティエリアのギリギリ外の相手選手の元へ。



俺はすかさずプレスをかけた。



相手選手はダイレクトでシュートを打とうとしていたので俺は手を後ろに組み、ブロックしようとした。




相手選手は俺のブロックがあっても少し遅れたのでシュートを打てるコースはあったのに俺の顔を確認するとパスを選択した。


結果的にパスを受けた相手選手がシュートを放ち、キーパーが弾いてコーナーキックになった。







相手選手の顔を見る限り、俺の心臓を避けたのだろう。






だが、それをされるのを俺は許せなかった。





「なぁ、今シュート打てたんじゃないのか?」



相手に試合中に話しかけることなんかないけど今だけは別。



「……」


相手は黙り込んでしまっていた。



とても優しくて、良い奴なんだろう。



「気、使わなくていいよ。」



「ユニフォームを着てピッチでプレーしてる時点で、いつ死んでもいい覚悟は出来てるから。」



実際、この試合中も死ぬかもしれないし。



段々鼓動は弱くなってるし。




その言葉を受けた相手選手は申し訳なさそうに詫びてきた。


「すまん...失礼な行為だったな...」



「いいよ、最後までしっかり戦おう。」


と言い、握手を交わした。










相手のコーナーキックを味方がクリアした所でアディショナルタイムが発表された。






電光掲示板には5分の文字。




「はぁ...はぁ...」



呼吸も不自然に荒くなり、意識も少し朦朧としてきた。




明確に死を感じる。





それでも、最後まで倒れる訳にはいかなかった。









後半49分からもう50分にさしかかろうかという時間。



もはや気力だけでフィールドに立っていた俺は



明らかにおかしかった。




緩やかに燃やしていた命ももう燃料を切らしはじめていたし、



いつ意識が無くなっても




心臓が止まってもおかしくなかった。





朦朧とした意識でまわりを見るとベンチでは交代の準備が進められていた。





もう、ラストワンプレーかといったところで




相手選手と俺、なんとも言えない位置にボールがこぼれてくる。




浮腫んだ足を正真正銘最期の力を振り絞って動かし、ギリギリのところでボールをクリアする。














ボールを応援席側に蹴り出した...いや、パスをしたところで主審の笛が吹かれた。

相手との接触で倒れ込んだ俺はそのままホイッスルの音を聞いた。




















俺の心臓はそれに安心したように止まった。





























脳からは快楽物質が溢れ、緩やかに人生を振り返る。



















思い出されるのは色んな表情のアルノ。



俺の先の短い人生を彩ってくれた笑顔。





悔いはない、なんて思っていたけれどアルノのことを考えるたびに




死にたくない。




そう思ってしまう。





一番の心残りは





アルノに直接好きと言えなかったこと。









あぁ...もう何も考えられなくなってきた。




視界もぼやけている。









次、もし出会えたなら...その時は...アルノに好きって伝えたいな。





















そして1月8日、18歳で俺の人生は幕を閉じた。












フィールドには冷たい風が吹き込んでいた。


















































今朝彼を家で送り出した時からいや、その前の日くらいから。



私は○○に少しの違和感を感じていた。




だからこそ何も言わなかった。




試合に出ていても前半はそんな素振りなかったし、


心配無いのかなとも思っていたけど



後半、少しずつ○○の動きがおかしくなった。



心配して見ていたけど、止めることは出来なかった。







なんだろう、なんとなくだけど。








目に焼き付けないといけないと思った。















泣きそうになりながらも○○から目を離さなかった。




点を決めた時も、辛そうな時も、どんな時でも。










試合終了直前、○○が外に蹴り出したボールは一直線に私に向かって飛んできた。




少しだけ強さのあるボール。




運動神経が壊滅的な私には取るのは難しいだろう。 




けれど、これだけは取らないといけないと私の本能が言っていた気がした。






ボールを取る。


そして、○○との思い出が頭の中を駆け巡った。








死ぬと分かっていたのに、私に多くの時間を使ってくれたこと。









それがなにより嬉しくて。











○○が優勝した瞬間だと言うのに、私の脳内は○○との思い出で埋まっていて他のことを受け付けなかった。













ホイッスルが鳴り終わった後、急に現実に引き戻される。





○○との思い出がプツンと切れる感じ。






先程からの嫌な予感。






それでも目を離さないと約束した。







○○の方を見る。











試合終了の笛が吹かれたというのに、○○が起き上がらない。











その瞬間。







あまりのショックなのか。








自分の心に穴が空いたような感覚になったからなのか。









私は気を失った。




















「あれ……ここは……?」



気がつくと私は誰もいない国立のピッチにいた。



辺りを見渡して見ても誰もいない。




「だーれだ。」




辺りには誰もいないはずだったのにその声とともに視界を塞がれる。





普通なら怖いことなのに、そんな感情には一切ならなかった。





それどころか、聞いたことのある優しい声。





涙が止まらなくなった。








顔もぐちゃぐちゃだろう。




それでも声を出さずにはいられなかった。




「○○...!」



「アルノ、顔ひどいよ。」



なんておどけて言う。




「だって...」




「アルノ。」





真っ直ぐ見つめてくる○○。









この時、わかった。







○○は死んだんだって。






誰かに言われた訳でもないけど、○○を見ててそう思う。





だったら最後の時間を過ごす相手に私を選んでくれたこと。




それを無駄にはできないと思った。






そこから○○と色んな話をした。







核心には触れない。




思い出話。






話していくうちに止まらなくなった。








そうすると○○が悲しそうに言った。



「アルノ...そろそろ...」



聞こえないふりでもしていたかった。


そのくらい大切な時間が終わってしまう。





それでも、笑顔で見送ってあげたかった。



「○○...またね。」



溢れそうな涙を何とか抑え、笑顔で○○に言う。



「うん...またね。」


○○も私と同じような顔。



二人とも笑顔でその時間を終えた。


















目が覚めると私は病院にいた。



「アルノ...起きた...?」


和がそばにいてくれたみたい。


「アルノ...○○は...」


和も言いにくそうにしてた。


「分かってる。」


もう知っていたのもあるし、口に出されるのが怖かった。






和の方を見ると目は腫れていてとても悲しそうな顔をしていた。



それでも、瞳の奥には希望を失っていない。







「アルノにね、相談があるの。」



こんな時、和の話を聞いてあげれるのは私しかいないからもちろんだ。


「なに?」






「○○の事なんだけど...まだ諦めたくない...。」





私は耳を疑った。





死んだ人間を生き返らせることなんてできるのか。




「えっと...七つの玉を集めるつもり...?」



「まさか、そんなふうに見える?」


「まぁ...手段を選ばなそう。」


「もう...」



和は普通に可愛いので女の私も羨ましいなってどんな表情でも思う。


「現代文の先生が言ってた、オオクニヌシの伝説覚えてる?」




詳しくは覚えていない。受験生にとって授業ほどどうでもいいものは無いから。




「それが何かあるの?」


「オオクニヌシの伝説はね、人が生き返る伝説なの。」


それを言われた瞬間、病院というのも忘れて大きい声を出してしまった。



「詳しく教えて...!!」



「ちょっ!病院だって!」



取り乱してしまった。



「ごめん...でも...!」



「まぁ、気持ちはわかるよ。」



「でも、先生はそれしか知らなかったみたいだからさ。」



「行こっか、出雲大社。」



いきなりの言葉に頭が追いつかない。



「えー!?」




「だから病院だって!」
















要するに、和の話によるとオオクニヌシの伝説は人が蘇るものということしか先生は知らなかった。




だからオオクニヌシに聞きに行こう!ということらしい。



行動力が凄まじい、でも私ももちろん行く。





もう一度○○に会うために。




「そうと決まれば明日、行くよ!」


「飛行機は?」



「もう取った。」



和のこういう所は見習わないとな。







気を失っていただけの私はすぐに退院。



○○の遺体は


和と私のお願いで少しの間保存してもらうことになった。




よくこんな訳の分からないお願いを聞いてくれたと思う。




○○の両親のためにも、私たちは出雲大社へと向かった。
























 翌日...





私たちは飛行機で出雲縁結び空港へと行き


そこから直通のバスで出雲大社へと向かった。











はじめてきた出雲大社は圧倒されるような雰囲気だった。



しめ縄が特徴的だというのは知っていたけどなんか凄い。



太いしおいなりさんみたい



「本殿、あっちみたい。」


和が教えてくれた。



二人ともはじめて来たのに一直線に本殿を目指す。



あんまり観光客っぽくないまわり方。




観光なんかより、私たちには大切なことがあるから。






本殿にたどり着いた。



「いくら入れるのがいいんだろ...?」



和に言われてたしかに、と思った。



「5円とか...?」



二人で悩んでいると




5円でいいよ。




とどこかから声が聞こえた気がした。





5円を賽銭箱に投げ入れ、二礼二拍手一礼をする。




二礼



二拍手





一礼







神様、○○を生き返らせる方法をどうか教えてください。









この動作を行った後、目を開ける。






目を開けると私たちは真っ白な空間にいた。



「なにここ?!」



「わかんないって!」


二人で慌てていると後ろから



「やぁ。」



という声。



振り返ってみると私たちと同じくらいのとても綺麗な青年が立っていた。


「あの...誰ですか...?」



「私は大国主、君たちは私のことを心から呼んだから招待してみたんだ。」


「えぇ?!」


「神様...ダメ元だったのにいたんだ...」


「ふふっ」


オオクニヌシさんは私たちを見て笑った。



本題に入らなければ。




「あの、人を生き返らせることって出来るんですか?」




私は恐る恐る聞いてみた。




ただでさえ奇跡が起こっているのだが、ここを否定されてしまっては何も意味が無い。






少し身構える。




「できるよ。」



オオクニヌシさんがそう言った。



「ほんとですか...?!」


和と私は抱き合って喜んだ。




また○○に会える。




そう思うだけで心に温かい風が吹いた。





「でも、簡単な事じゃないよ。」


神様の言う、簡単じゃない。


かなり心に来るものがあるけど、可能性が0じゃないなら私たちはなんだってやる。




「生き返らせたいものの魂を49日以内に見つけて、ここに連れてくること。」



「そうすれば生き返らせてあげるよ。」




「じゃあ、頑張ってね。」



そう言うとすぐに私たちは本殿に戻された。



「魂ってどうやって探すんだろう...」


「たしかに...」



「それでも...」



方法がわかった以上私たちはいてもたってもいられなくなった。






そうと決まれば探すしか無い。




その日はすぐに帰って○○との思い出の地を回ることにした。







翌日の朝からは学校、○○の家、そして国立競技場へと行く。


その予定だった。





しかし次の日、私には理解できないようなことが起きた。


「和、はやく○○を探しに行こ...!」


と私は言った。


「○○...だれ...?」


嘘だ。


信じたくなかった。




和はこんな所でふざけるような子じゃない。




「な、なんでもない...。」


とりあえずネットで○○の事を検索してみる。


優勝したんだから出てこないなんてありえないし。




「朽木...○○...っと。」






私は検索ボタンを押した。






「......」







しかし出てきたのは他の人ばかり。



○○の存在自体が消えてしまっている。



信じたくはなかった。



○○が消えてしまうなんて。



なにより和が忘れてしまっていることが私は辛かった。






それでも諦める訳には行かない。



二月二十六日までに○○を私一人で見つける。





その事しか頭になかった。












国立競技場、学校、○○の家、病院など多くの○○と縁がある場所を探した。



そもそも見えないものを探すなんて無理な話だけど行動するしか無かった。





















「これでいいの?」

オオクニヌシが○○に尋ねる。



「いいんです、これで。」


「彼女は?」


「神様の力で忘れてくれないのならどうすることも出来ないでしょ。」


「それもそうだね。」


オオクニヌシは○○に笑いかける。









とても冷たい風が吹いた。














私はどこを探せばいいのかも分からずに日本全国を探し回っていた。










「受験、大丈夫なの?」



「うん、大丈夫...!」


和は私を気にかけてくれるけど、それどころではなかった。




それでも移動時間は勉強したしそれなりに時間もかけていた。




そして迎えた。




いや、迎えてしまった二月二十六日。





私は出雲大社にやってきていた。





精神はボロボロで○○に会いたい。という一心でここまでやってきたけど限界を迎えはじめていた。




ご飯もろくに食べられていなかったし、体調もあまり良くない。






そのせいか、あまりまわりを見れていなかったので通行人とぶつかってしまった。




「ごめんなさい...」


「おい、ちょっと待てよ。」



怖い人に絡まれてしまった。




私の味方はここには誰もいない。





「なぁ、お礼してくれよ。」



そう言って、私の腕を掴む。




「離してください...!」


そう言っても聞いてくれる相手では無い。






映画とかをよく見ていただけに、悪い想像ばかり働いてしまう。



私、終わったな。




どうせ酷い事をされるなら、○○と同じ所へ私が言ってしまえばいいんじゃないか。








そんなことを考える。





「おい...着いてこい!」


男はそう言うと私を引きずって歩く。



やっぱり私は○○と一緒にこの世界を生きたい...



涙が出てきた。




助けて...○○...

















すると突然、傍らの草むらから猫が飛び出して来て、私を掴んでいる男の腕に噛み付いた。




「いってぇ...この!」




男は猫に仕返しをしようとするが当たらない。




華麗に攻撃を躱し、引っ掻く。






どこかで見たような。





私はここで逃げることも考えたけど心がここから動くことを許さなかった。






足がすくんでいるとか、怖がっているとかそういうんじゃなくて。






この猫から目が離せなかった。








なんせ私の昔の思い出とそっくりなのだから。















冬なのに温かい風が吹いた気がした。






すると男は猫を怖がったのか逃げていった。



「くそっ...!」




猫はほっとしたのか地面にぐでーっと倒れ込んだ。




私は猫を抱き上げた。





「にゃあ...」


あれ...



なんでだろう...





さっきとは違う涙が溢れてきた。






「にゃ...」



私は確信し、この猫を抱えて本殿へと走った。







「はぁ...はぁ...」


体力は無いけど、そんなこと関係ない。




私には○○に無理やり付き合わされた体幹トレーニングで鍛えられた筋肉がある。











やっとの思いで本殿にたどり着くとすぐさま財布から5円を取りだし、賽銭箱へと投げる。





二礼




二拍手






一礼










目を開けると、オオクニヌシさんが居た。





「久しぶりだね、アルノちゃん。」


急に名前で呼ばれたものだからびっくりした。



「お久しぶりです。」


「今日までが○○君の魂の審判の締切だけど、見つかった?」




「はい、ここにいますよ。」



私は自信満々に先程の猫を指さした。



「ただの猫だけど?」



「この猫に○○を感じました。」



「絶対にです。」



私は念を押してオオクニヌシさんに言った。



オオクニヌシさんは神様のくせに、いたずらっ子のように


「じゃあ、違かったら死ぬ?」


と言った。



私はそれに動じず


「はい、命でもなんでもあげますよ。」



と言った。


「はぁ...凄いね、人間の愛は。」



そういうと猫に憑依していた○○がスっと猫から幽体離脱し、アルノ達の前に現れた。



「○○...!」


私は○○に抱きつきに行った。





しかし、触れない。


「触れないよ、俺は魂だけの存在なんだから...。」


○○は少し泣きそうな顔で言った。



「じゃあ、約束通り○○君のこと、生き返らせてあげる。」


「ほんとですか...!」


「うん、記憶も元通りにするよ。」




そうだ、記憶だ。



「なんで○○の記憶を消したんですか?」

オオクニヌシさんに聞いた。



「それは...私じゃなくて○○君の口から聞いた方がいいんじゃないかな。」




私の頭の中には疑問がいっぱいだった。



「ていうか、なんで俺たちの名前知ってるんです?」


すると○○が話題を変えた。


たしかにそれも気になっていた。



「あぁ...もうバラしちゃってもいいかな。」



そういうとオオクニヌシさんは人間の姿へと変わった。



「え!?」


私たちは二人で声をあげて驚いた。



「ははっ」


それもそのはず、オオクニヌシさんは現代文の先生に姿を変えたのだから。



「なんで...?」


「私、人間好きだし。なにより○○君、不憫だったからね。」




「元々、なにかしてあげたかったんだ。」





「雑談で仰ってたのも...そういう事だったんですね。」



「うん、私がそのまま生き返らせては他の神が納得しないからね。」



オオクニヌシさん、いい人だったんだ。



いや、いい神様だったんだ。




「じゃあそろそろ君たちを向こうの世界に返すよ。」


「えっ、俺の体は...?」



○○が少し焦って言うと、


「作り直しておくよ、今度は健康な体をね。」


そう言ってこの世界から元の世界に戻される。


その前に



「あ、待った。」


「記憶もいい感じにいじっておくからね。」


オオクニヌシさんがそう言うと本当にいつもの世界に戻された。















目を開けると、○○の部屋にいた。


横を見ると○○もいる。




私たちは二人で抱き合った。



「アルノ...ありがと...」


「ううん...」



私たちは泣いて、泣いて、もう部屋の中で雨が降っているんじゃないかってくらい泣いた。







少し落ち着いたところで私達はスマホを確認した。



日付を見ると3月8日。


オオクニヌシさん、飛ばしすぎだよ。


なんて思ったけど、どうやら私の受験も終わらせてくれていたらしい。


ありがとう、オオクニヌシさん。



聞くか迷ったけど、私は○○にある疑問を問いかけた。



「なんでみんなの記憶を消したの?」



「俺は、アルノと和に迷惑かけたくなかったんだ。」



「死んだ人間が生き返るかもわからない、そんなアバウトな事で高校三年生のあの時間を使って欲しくなかったし。」




「それに...その...」


○○が言い淀んだのを、私は逃がさなかった。


「なに?」


「このまま生き返ったら...アルノに依存しちゃう気がして...」

「アルノに振られたらやって行けないというか...なんというか...」





私は呆れすぎたせいで思わず大声を出してしまった。


「は...?!」





「私が今更他の男のところに行くと思ってるの?」



私の気持ちは伝えようとしていたし、そんなことを言われたら少し怒ってしまう。



「言っとくけど...好きって伝えようしたら口塞いできたの○○なんだからね...!」



「それはアルノが俺に縛られないように...」


「そんな言い訳聞きたくない...!」


私はぷいっとそっぽを向いた。


これで○○から気持ちを伝えてくれなかったら本当に怒る。








私がそっぽを向いてわずか数秒、○○は私の顔をムギュっと持ち自分の方を向けと言わんばかりに目で訴えてきた。




「にゃにすんだ。」


上手く喋れない私。


それをバカにするように


「ふふっ。」


笑ってくる○○。




すると急に彼の瞳が私の目を捉えてきた。


「ねぇ...アルノ。」



「好きだよ。」


私は待ちに待ったその言葉を言われ、目頭を抑えようとした。


でも○○が私の顔を優しく潰しているので溢れてきてしまう。


言えなかった言葉。





言わせて貰えなかったその言葉。





そして、待ちに待った言葉。





今の私たちを止められるものはない。




「私もす...」




私も好き、そう言いかけた所で○○が唇を奪ってきた。




「もう...ずるいぞ...!」


「へへっ」


○○の笑顔。


裏表のないこの笑顔が見れるのも久しぶりだし、許してあげてもいいかな。











「俺、アルノの彼氏になれたんだよね...?」


子猫のような目で不安そうに聞いてきた。


ナチュラルあざといじゃん。かわい。とか思った。


「私はもう○○の彼女だけど。」







色んなことがあったけど、とりあえず明日は卒業式らしいからコンディションは整えておきたい。


いっぱい写真を撮るのに浮腫んだりしたら嫌だから。



「○○、一緒に寝よ?」


○○は奥手だから、私から言ってあげないと。


「寝よっか、おいで?」


たまにこういうことやってくるんだからずるい。


「ずるい...!」



そう言って彼の事をポコっと殴ってみる。


「アルノなりの愛情表現?」


とか言ってくる。


心臓が健康になったからこうやってじゃれ合うのもはじめて。



十数年一緒にいるのにはじめてのことを経験出来るなんて。



ムカつくから、○○の腕の中に飛び込んだ。



「私のこと、離さないでね?」


「うん、ずっと一緒だよ。」




○○の心臓の音を聞きながら。○○の腕の中で私は寝た。



















目が覚めても、まだ私は○○の腕の中にいた。


「ほんとに離さなかったんだ。」


これ以上抱きついていると好きが溢れて事故ってしまいそう。


「○○、起きて。」


「ん...おはよ...」


目を擦りながら頭を撫でてくる。


「ほら、私自分の部屋戻るからね?」


「待って。」


○○に引き止められ、振り返る。


「目つぶって。」


まさかと思い、せめてものお願いをする。


「ねぇ、せめて歯磨きだけでも……」


私が言い終わる前に○○の用事は終わったみたい。


「まつ毛に埃ついてたよ、ほら。」


そう言って埃を見せてくる。


私は恥ずかしくなって逃げるように自分の部屋へ窓伝いに帰った。













朝ごはんを食べ、洗面所で支度を整える。





卒業式だし、○○の彼女になったし、ちょっぴりメイクを頑張った。






支度を終えて○○のことを玄関の前で待つ。




するとすぐに○○の家の扉が開いて、○○がやってきた。




「この道も思い出深いよね。」



○○が何となく言った言葉にノスタルジーを感じているといつもの分かれ道に着いた。



「おはよ、二人とも。」



和はもう待っていて、笑顔で私たちを迎えてくれた。






「聞いてよ、○○がね?」


朝のエピソードを和に話してやろうと思ったけど


「ちょっ!アルノ!」


○○は照れ屋さんだからやめてあげるか。


「イチャイチャしちゃって。」


和は可愛いのに彼氏が出来ないんだから、そんなこと言われてもだよ。


口が裂けても言えないけど。








和にバレないように私たちはどちらかともなく手を繋いで学校への道を歩く。







卒業式。



私たち二人にはぽっかりと記憶がない期間があるからあっという間だった。


それでも長ったらしい話を聞き、それっぽい歌を歌う。











卒業証書をもらって、担任の話を聞いたあと私たちは現代文の先生を探した。



職員室で聞くと、体調不良できていないらしい。


今度挨拶に来ようか、と二人で話して和と合流する。



「写真撮ろうよ!」



和が言い出したのがなんか可愛くて、仕方ないな~と照れ隠しで言った。


「嬉しいくせに。」


○○に核心をつかれた。



「うるさい!はやく撮るよ!」


「嬉しかったの?」


「ほら、和までいじってきたじゃん...!」


二人して...


「○○、撮ってよ。」


「たしかに、デカいし。」



「じゃあ撮るよ、はいチーズ。」





後で見て思ったけどこの写真、青春すぎるんだよね。





いつ見ても思い出が...特にこのひと冬の思い出が蘇ってきて。











学校にいられる時間もそろそろ終わりを迎えてしまう。


帰り道はいつもよりゆっくり歩いた。



三人とも口に出すのは悲しくなるから出さなかったんだと思う。



いつもの分かれ道に着くまでに和が泣き出したりして、ちょっぴり大変だったけど


絶対にまた三人で会う。



そんな約束をして和とは別れた。


分かれ道から見える家のところには5本のバラが置いてあって、温かい風に吹かれていた。











「二人きりだね...。」


○○がそう言うから変に意識してしまう。





○○は高校を卒業したらサッカー選手に。


私は大学生に。


私たちの進路は全く違うけど、同じ方向を向いている気がする。
















家に帰って夜ご飯を食べたあと、○○の部屋に遊びに行く。


これもいつもの流れ。





卒業祝い!とか言ってお寿司を食べすぎたせいでちょっと眠たい。


「○○は夜ご飯なんだった?」


「肉、美味しいやつ。」


お腹いっぱいのはずなのによだれが出そう。


「あ、そうだ。」


何かを思い出したかのように○○はこっちを見る。


「アルノ、そろそろ誕生日だよね。」


「うん、もう18歳になっちゃうよ。」



「ちょっと早いんだけどさ。」


「うん。」



なんだろう、祝ってくれるにしてははやいし。




「俺と結婚してくれる?」



そう言って○○はポケットから指輪を取り出した。




「......」


理解が追いつかない。


頭が情報を処理出来てない。


この間付き合ったばかりなのに。


「はやいと思うけど、これからも俺の隣はアルノがいいんだ。」


○○がそう言うから私の涙腺はあっという間に破壊された。





泣き止むまで優しく抱きしめてくれて



契約金を使って買ったのかなとか思うと可愛い。



「あの...返事は...」



「○○は私がいないとだめだから、おばあちゃんになっても一緒にいてあげる。」


そう言うと○○も泣き出してしまった。















それを見て笑うアルノ、その左手には指輪が嵌められていた。










指輪のダイヤモンドよら眩しい二人の未来には温かい風が吹き始めている。









fin............

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