マドンナ彼女に映画館でいじわるしました。
雨が降り、低気圧に頭を悩まされる6月。
梅雨前線もまだ出来たばかりで、まだまだ元気そうに雨を降らせている。
「はぁ......」
ため息とともに気分も落ちていってしまう。
週末の彼女とのデートも、雨だと行く場所が限られる。
今はただ、ぼーっと彼女の美しい所作から放たれる矢を見ていた。
「なんか浮かない顔してる......」
袴に身を包んだ和が自主練を終えて、向日葵の香りと共にこちらに向かって歩いてきた。
「低気圧だし頭痛いだけだよ、あとは週末どうしようかなって。」
元々、公園へピクニックに行こうとしていた俺たち。
和のお弁当が楽しみだっただけに天気予報が悔やまれる。
「あ、映画見に行こうよ!」
落胆している俺を他所に和が閃く。
「映画?何か見たいのあるの?」
「昔の映画をレイトショーで見るのって、何か憧れない?」
正直、袴姿も相まってか可愛いしか出てこない。
「井上さんってそういうとこあるよね。」
少しいじるような言い方で笑いながら言うと和は少し頬をふくらませた。
「もう......ピーマンの肉詰め作ってあげないから。」
「わー!ごめんってなぎ!」
「しーらない」
いたずらっ子みたいに笑って、そのまま着替えに行ってしまった。
和が着替え終わり、こちらに向かって歩いて来た。
「お待たせ、いじわるな彼氏さん」
「和、ごめんってば」
さっきのこと、まだ根に持ってるみたい。
「○○、傘は?」
「あ!教室だ!」
取りに戻ろうとした矢先、最終下校のチャイムが鳴り響く。
「......」
無情なチャイムのタイミングに、ガックリとうなだれる。
「私の傘に入らせてあげないこともないけど......」
「和、お願いしてもいい?」
「ん......恥ずかしいから早く入って」
少し小さな傘に、2人で入る。
おのずと俺の肩は外の方へ出て、左肩が雨に打たれる。
「○○、私のためだからってそっち行きすぎ。風邪引いたらデート行けないよ?」
珍しく和が素直なのでちょっとびっくり。
「珍しいね、和もデート行きたいんだ。」
ニヤニヤしながら尋ねると、和は照れくさそうにしていた。
「私だって......○○の事好きだもん......」
「好き、和ほんとに可愛い。」
「こら、ちょっと汗かいたからくっつかないで。」
気持ちが押されられなくなってくっつくと、和から拒絶されてしまった。
「ごめん......」
「手繋ぐのはいいから......ほら......」
付き合って1ヶ月のようなやりとりに恥ずかしくなるが、そんな気持ちを他所に恋人繋ぎをする。
「ふふっ」
2人で微笑みあって、そのまま家までの道を歩いた。
・・・
週末のデートの日。
俺は待ち合わせ場所の駅で和を待っていた。
「毎回家まで迎えに行こうか?」と聞いても「待ち合わせるのがいいんじゃん」と言われる。
今回もそんな感じだが1つ懸念点がある。
それは足がかなりの筋肉痛に蝕まれているということだ。
雨の影響か、筋トレ、ランメニューがかなりの量でここ最近は足にきてしまっている。
先程の駅の階段も少し辛かったのはここだけの話だ。
「あ、いた」
気がつくと、大人っぽい装いの和がもう目の前まで来ていた。
「その服好きかも、可愛い。」
「あ、ありがと......」
学校のマドンナだと言うのに、可愛いと言われるのに慣れてない所も可愛い。
少し目を伏せて照れ隠しをする和の手を取り、駅の商業施設の中にある映画館へと向かう。
「恋人繋ぎしてるとさ、和の手がちっちゃくて可愛いなって思うんだよね。」
「うるさい......」
言動と言葉が綺麗に違く、頬を染める和。
熱が冷める前に、俺たちは映画館にたどり着いた。
「高校生2人でお願いします。」
「はい、座席はどうなさいますか?」
「和、どうする?」
「ここがいいな。」
和が選んだのは1番後ろの席。
昔の映画のレイトショーということもあって、席はまばらにしか埋まっていなかった。
2人でイチゴ味のポップコーンを買い、お手洗いなどを済ませて席に座った。
独特の雰囲気に、どこか引き込まれる。
「なんか、ワクワクして来ちゃった」
和もテンション高めで可愛いらしい笑顔が咲いている。
「そうだね、映画館久しぶりだし俺も楽しみかも。」
階段上がる時筋肉痛凄かったのは言えないけど。
そんなことを思った瞬間、聞き馴染みのある声が耳に入ってきた。
「最近流行ってるらしいよ、こういうの。和が言ってた!」
「美空、ちょっとうるさい。」
「さっちゃんもだよ!」
絶対、というか確信をもって知っている人達。
和の方を見ると焦った表情で口を開いた。
「どうしよう......でも1番後ろは私たちだけだよね......」
「前の方かも知れないし、伏せとこっか。」
2人して頭を下にして、見知った顔が座るのを待つ。
なんの冗談か、見知った2人組は俺たちの1つ前の席に座った。
「良かった......」
「だね......」
ヒソヒソ声でバレないようにし、映画開始の時間を待った。
・・・
映画がはじまり数分後、2人の間にあるポップコーンを取ろうとすると和と手がぶつかった。
「......」
和の方を見るとこっちを見て少し驚いた表情をした後、そっと手を重ねてきた。
指を絡めて繋いだ後、もう一度映画に集中する。
海の生物達の物語で、小さい時に見てたなと懐かしい気持ちになった。
物語も終盤に差し掛かり、ふと和の方を見ると長い髪を耳にかけていたため耳がひょこっと出ている。
前に菅原達がいるスリルとやってみたい気持ちが喧嘩する。
決着はすぐ着いて、和の耳に息を吹きかけた。
「ひゃっ......!」
可愛い声は映画の音にかき消されたため、バレることは無かったが、和はこちらを睨んできた。
それを華麗にスルーし、映画を楽しむ。
そこからはポップコーンの音だけが鳴っていた。
映画が終わると、前の2人組が話しながら外へ出ていった。
「なんか和の声聞こえた気がしたんだよねー」
「美空は頭おかしいから、そういう時もあるよ」
「ひどい!」
落ち着いて横を見ると、すごい勢いで睨まれている事に気づく。
「顔が怖いよ、和」
「もう......この後お家来てもらおうと思ってたけど、帰ろっか。」
「ごめんなさい、この通りです。」
誰もいない映画館で、筋肉痛に耐えながら頭を下げる。
「ほら、おいてくよ?」
頭を上げると和はもう下にいて、声は遠くの方から聞こえてくる。
「待ってよ.....!」
家に着くやいなや、和の部屋に寝転がらされた。
「どういうこと......?」
「筋肉痛じゃないの?マッサージしてあげようかと思って。」
「優しすぎる、好きだよ和。」
「......黙ってうつ伏せになってて」
ふくらはぎを程よい力で解してくれて、とても心地が良い。
少し痛気持ちい感じに思わず眠たくもなってくる。
「和.....ありがと......」
「○○の彼女だから.....」
和に改めて言われると、照れる。
「だから、もう岡本さんとイチャイチャしないよね......?」
目がバキバキで、すごい力でふくらはぎを押してくる。
「いたたたっ!痛いってば!!」
「次やったら許さないからね?」
「は、はい......」
「疲れた、ぎゅーして。」
「ん、ありがとね。なぎ。」
「へへ......」
和の部屋には桔梗のフレグランスがうっすらと顔を覗かせていた......
to be continued......
「ふーん......」
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