姉の友達に焦らされています。
放課後のチャイムが鳴り響く、6限終わりの教室。
ゆったり動き出す人もいれば、部活に向けてすぐに動き出すものも。
そんな中、僕は部活のために今は使われていないB棟へと足を運ばせていた。
軽音部や吹奏楽部が活動する中、空き教室の扉を開ける。
「あ、やっときた」
誰もいない教室に座って、ギターの練習をしているのはいろはさん。
僕の姉の友達で小さい頃からよく遊んでもらっていたっけ。
「いろはさんがはやいんですよ......」
「ねぇ、昔みたいにいろはちゃんって呼んでくれないの?」
「よ、呼びませんよ!」
いろはさんはこっちの気持ちに気づいて、最近は弄んでくる。
昔からこんな可愛い人に遊んで貰ってたらそりゃ好きにもなるだろ。
「それより......また弾き語り聞かせてくださいよ」
「○○は本当にいろはの歌好きだよね」
いろはさんが好きだから、そう言える素直な気持ちは幼少期に置いてきてしまって今は思春期真っ只中。
「伸ばすとこが好きなんです、それに綺麗ですから」
しっかり目を見て伝えてもちっとも意識してくれてる感が無い。
なんというか、年上の余裕みたいなものを感じる。
「ふふっ、ありがと。でも今日は他にやりたいことがあるの」
「なんです?」
いつもは弾き語りの練習をして、それを聞きに来るという関係だったので少し身構えてしまう。
「○○はさ......いろはのことどう思ってるの?」
突然の言葉に、思考が停止する。
「......は?!」
「そんな驚く?」
向けられたくしゃっとした笑顔にたじろいでしまう。
「そりゃ驚きますよ!」
「ふーん......」
にやにやしながらこちらを見て、いろはさんは髪を揺らしている。
「てか......その......髪切りましたよね......可愛いです......」
恥ずかしいからか声が出にくい。
周りから見たら絶対にダサい事なのに、恥ずかしがってしまう自分が情けない。
「......おそい」
小さな声で呟くいろはさん。
集中しているはずもなく、聞き取れなかった。
「え......?」
「おそい!!みんな可愛いって褒めてくれたのに......」
最近は外見やら大人っぽい所ばかり見てしまっていたので、少し子供っぽい所が見れて思わず笑みがこぼれてしまう。
「ふふっ」
「ふんっ」
そっぽを向いても綺麗な横顔が見えて、思わず見惚れそうになってしまう。
そこを何とか耐えて、勇気を振り絞る。
「......いろはちゃん。」
昔みたいに呼んで見ると、こちらを振り返って真っ直ぐ目を見られた。
「○○......」
「は、はい!」
少しずつ近づいてくるいろはちゃんの尊顔。
こちらも意を決してそっと目を閉じる。
「ん、取れたよ。」
「は......?」
キスされると思い上がっていた事が恥ずかしくなって、ありえないくらい顔が赤くなる。
「顔赤いけど......期待してたんだ?」
「し、してませんから!」
いろはちゃんの笑い声と僕の叫び声が教室に響く。
その日は練習を見ることなく、いろはさんの手のひらの上で弄ばれ続けた。
「○○、いろは来るからね。その姿見られても知らないよ。」
「んぅ......」
姉の咲月が部屋の扉を開けて起こしに来てくれたが、あいにく目が開かない。
「起きろー!」
そう言って上からのしかかられる。
「はいはい......」
軽すぎるからか、あまり眠気が覚めない。
いつものように頭を撫でてやって、退いてもらう。
さっき言っていた事も、頭が回らずあまり聞き取れなかった。
「私はもう準備するからはやく起きなさいね」
そう言って咲月は扉の向こうに消えていった。
そして、僕はもう一度夢の世界へと旅立ってしまった。
数分後、また部屋の扉が開く。
「○○、起きて。」
「姉ちゃん......分かったから......」
土曜日の朝とはいえ、そろそろ起きなくては。
しかし、体を起こそうとした矢先に上にのしかかられた。
「ぐぇ......今日2回目じゃん......」
のしかかられた感じはいつもと同じ。
なのに何故だか感じる違和感。
「姉ちゃん......起きるから退いて......」
いつも通り頭の撫でた瞬間、姉ちゃんの匂いとは違う匂いが鼻を抜ける。
そして、それは知ってる匂いだった。
「○○のお姉ちゃんも......悪くないかもね」
目をゆっくりと開けるとそこにいたのは咲月ではなくいろはちゃん。
「えっ......いろはちゃん?!」
「呼び方戻ってる、嬉しい~」
「そこじゃないでしょ......!」
こっちの意識が覚醒しているというのに、退いてくれない。
「イチャイチャしようよ~」
「布団に入って来ないで下さいよ......!」
お構い無しに布団に入ってきては、勝手に僕の腕をまくらに添い寝しはじめた。
「近いね......」
好きな人がこんなに近くにいては理性の糸にも綻びが生じる。
「いろはちゃん......す......」
好き。そう言いかけた所でいろはちゃんの人差し指が僕の口を閉じた。
「だーめ。」
いたずらっ子のような、小悪魔のような笑顔に朝から心が揺さぶられる。
「なんで......?」
「可愛い顔してもめっ!だよ。」
初恋を彼女に奪われて8年程、その思いが儚くも無惨に散っていったのになんでいろはちゃんはそんなにも笑顔なんだろうか。
「○○知ってる?」
こんな状況でも話しを続けるのか。
少しはそっとしておいてもらいたい。
「......なに?」
「付き合う前がいちばん楽しいんだよ?」
朝だからか、はたまたこんなありえないシチュエーションだからか脳がその言葉を理解できない。
「茉央が言ってたんだ~」
いや、本当に理解できない。
それでも、付き合う前という言葉に期待とワクワクを隠すことが出来なくなる。
「いろはちゃん、その......」
「ふふっ、いいよ」
布団の中でそっといろはちゃんを抱きしめ、もう一度頭をゆっくり撫でる。
「ちょっと恥ずかしいね......」
「外ハネ、むちゃくちゃ可愛いよ。」
「ばか......なまいき......」
しかし、この時2人は忘れていた。
部屋の扉が空いていたこと。
そして、この家にはもう1人いることを。
「○○、もっといろはを照れさせて。」
「は?!姉ちゃんなんでいんの?!」
スマホのカメラを回しながらひっそり入ってきてた咲月にびっくりして離れてしまう。
「離しちゃだめ......!」
急に抱き寄せられ、顔が自分の体じゃないみたいにあつくなる。
「いろはちゃん?!」
「えへへ~」
とっても可愛らしい表情に何もかも許してしまいそうになる。
「ほら○○もぎゅーしてあげなさいよ!」
「姉ちゃんうるさい!」
中学生になってからたまーに家に来てたまおさんといろはちゃんと姉ちゃんで、さつまいもだかさつまいろだかなんだかわかんないくくりにされてるのが解せない。
少なくとも姉ちゃんはおかしいと改めて思った。
「こら、今はお姉さんの方しか見ちゃだーめ。」
「う、うん......」
視線がいろはちゃんに奪われ、いつも以上に可愛さと美しさを感じる。
押し入れの中の絵の具のパレットには、黄緑とピンクの絵の具がうっすらとこびりついていた.......
fin......
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