年上の幼なじみと初恋を叶えました。
夏の訪れを感じる7月。
私たちはホームルームを終えて廊下を歩いていた。
「彩ももう先輩か~」
「もう......奈央だってそうでしょ」
高校2年生になって数ヶ月経つのに、周りは子供扱いしてくる。
普通ならおかしいが背も低く童顔な私には仕方ないのかも。
「はぁ......」
ため息をつきながら廊下を歩いていると向かいから背丈が大きくてキリッとしている男の子が歩いてきた。
「......」
顔は整っていて俗に言うイケメンってやつなのかな。
女友達しかいない私には縁がない青春に少し憧れる。
「......」
思考に集中してしまったせいか、歩いてきてる彼のことをじっと見つめてしまった。
「彩?」
「な、なんでもない.....」
奈央の言葉で我に返り、そのまま歩いていると向かいから来ている男の子が私の前で止まった。
「なんの用ですか......?」
大きい男の人は少し怖くて怯えてしまう。
「小川彩さんですよね.....?」
「そうですけど.....」
「やっぱり!那須○○って覚えて無いですか?!」
「え?!もしかして○○なの?!」
「はい!お久しぶりです!」
「えっと......どういう関係?」
1人置いていかれてる奈央が切り出した。
「○○は私が小学生の時公園でよく一緒に遊んでた子なの」
「トマトとかよく貰ってましたね」
懐かしい思い出が蘇って来るほど、○○の変貌に目を疑ってしまう。
「ていうか、○○いつもため口だったじゃん。そのままでいいよ?」
「失礼な、敬語使えるようになったんですよ俺も。」
「俺?!前まで僕だったじゃん!」
「......か、かっこよくなりたかったんですよ」
話もひと段落した所で、ひとつの疑問が浮かんできた。
「そういえば、なんでこっち側に歩いてたの?」
「あ!委員会行くんだった!」
「ふふっ、じゃあまた今度ね」
「あ、待って......ください」
一瞬昔みたいな感じが出て来たのもつかの間、○○は片手を出してきた。
「懐かしいね」
そう言って私は○○とハイタッチをする。
「よし、じゃあ行ってきます!」
「あや、にやにやしてるよ」
「昔からバイバイする時はハイタッチしてたけど、今も覚えてるとは思わなかったんだもん」
あの頃の○○じゃなかったけど、懐かしくて少し嬉しくなった。
「彩がお姉さんしてるとことか新鮮だったね、この前奈央が食べたブロッコリーみたい!」
「ちょっと、バカにしてるでしょ。」
そんなくだらいことで笑いながら2人で帰り道を歩いた。
・・・
翌日、奈央から寝坊したとの連絡を受け1人で学校を歩いていると後ろから声をかけられた。
「おはようございます」
「○○じゃん、おはよう」
朝から○○に会うなんてちょっとびっくりしたけど、1人より退屈しなそうで少し心があったかくなる。
「小川さん......その......連絡先交換しませんか?」
歩いて少し経ったところで○○が緊張している様子で言ってきた。
「そんなので緊張してたの?」
○○のことを笑っていると○○は胸をなで下ろし反発してきた。
「そんなのって......大事なことなんです!」
「ふふっ、なんならSNSも交換する?」
「えっと......」
喜んでくれると思いきや、意外にも目が泳ぎ出してどこかに行ってしまいそうな○○。
そんなに分かりやすく動揺されたら気になってしまう。
「なに、彩には見せられないの?」
「そうじゃないですけど......」
「はい、これ読みとって」
QRコードを差し出して○○からフォローされると、共通のフォロワーの所に奈央のアカウントがあった。
「あれ、奈央のことフォローしてるじゃん」
「......まぁ」
明らかにそっぽ向いたから怪しい。
「なんで奈央のことフォローしてるの?」
繋がりがあるようには見えないし、知ってる人同士の関係は少し気になる。
「......」
「○○?」
「か、可愛いと思ったから!それだけです!」
「あ、ちょっと!」
○○は逃げるように学校へ走っていってしまった。
「あれ......?」
○○が奈央のこと可愛いと思ったって聞いた時から心に針が刺さったみたいにチクッとしている。
「まぁいいや」
そんな事考えてもどうしようもないので、カバンからイチジク味のグミを取り出しつまむ。
「わ、美味しい」
そうしてゆっくりと○○を追いかけて学校へと向かった。
「ってことがあったんだよね」
先程のことを説明すると奈央は呆れたような顔でため息をついた。
「もう......いや、どっちもどっちか......」
「なにが?」
「こっちの話だから気にしないで、それより今日部活あるから先帰ってていいよ」
奈央は写真部に所属してて、こんな雰囲気なのに素人目から見ても凄い写真を撮る。
「分かった、頑張ってね」
「○○君と一緒に帰れば?」
にやにやしながら聞いてくる奈央を少しだけ小突く。
「○○はそういうのじゃないから」
ふと、昔の可愛かった○○が頭をよぎった。
「.....」
「あや、座んないの?」
「す、座るよ」
放課後、○○には連絡せず帰ろうと校門の方へ歩いていると見たことある男の子が待っていた。
「小川さん......!」
「○○だ」
先程奈央に言われた言葉を思い出した。
私は意識してないし、別にどうってことない。
「一緒に帰る?」
そう聞くと○○の顔に笑顔が咲いた。
「え!いいんですか?!」
「方向一緒なんだし、帰ろ」
「はい!」
朝は気が付かなかったけど、並んで歩くと○○の大きさがよく分かる。
「おっきくなったね」
「中学校で結構伸びたんですよ」
「なんか親みたいになっちゃった、ごめんね」
私がそう言うと○○は一瞬だけ儚い表情をしてすぐ笑顔に戻った。
「こんなちっちゃいお母さんだったら笑っちゃいますね」
「こら、彩は先輩だぞ」
「今更威厳とかありませんよ」
やっぱり小馬鹿にしてくるので、朝のことを問い詰めてみる。
「ていうか、なんで朝走って行っちゃったの?」
「それは......」
「あ、もしかして奈央のこと好きなの?」
今度はこっちが○○をいじってやる。
「好き......」
「じゃないです。」
○○が私の方を見て言った言葉。
変なとこで区切ったせいで好きと言われたかと思ってしまった。
「......」
「小川さん......?」
急に顔があつくなって○○の方を見れなくなった。
心臓が跳ねて顔もトマトのように赤い気がする。
「ちょっと今はこっちみちゃだめ......」
「だ、大丈夫ですか?!体調悪いとか?!」
「そういうのじゃないから......」
本気で心配してくれてる○○に何だか申し訳ない。
○○に照れて、意識してるだけなのに。
あれ、私○○のこと意識してる?
「よし、小川さん今から時間あります?」
「あ、あるけど」
「じゃあ着いてきてください!」
「ちょっと!」
私の手を引いて前を行く○○。
昔は私が手を引いてあげてたっけ。
あんなにちっちゃかった背丈も気づいたらこんなにおっきくなって。
もっと今の○○を見てあげないとな。
○○に手を引かれてやってきたのはたい焼き屋さん。
「なんかあった時は美味しいもの食べるのが1番です!奢りますから」
太陽のような笑顔が私には眩しい。
「奢りは申し訳ないよ」
「無理やり連れてきちゃったので、払わせてください」
頭まで下げてきた好意を無下にもできない。
「じゃあ......お願いしようかな」
「よし、何味にします?」
「んー、あんず入りたい焼きってやつにしてみようかな」
「分かりました、待っててください」
○○が戻ってくると美味しそうなたい焼きの匂いが鼻を抜けた。
「あそこの公園のベンチで食べましょっか」
「そうだね、ほんとにありがとう」
「いえ、これくらいどうってことありません!」
私が申し訳なさそうにすると笑顔を見せてくれる。
こういう所は昔から変わらないな。
公園のベンチに腰掛け、2人でたい焼きを頬張る。
私は頭から。○○は尻尾から。
「ん!美味しい!」
「あんずも美味しそうですね」
「○○のいちごカスタードもね」
食べ進めていく中で、○○が私の方をじっと見てることに気づいた。
「もしかして食べたいの?」
「ち、違います......」
○○はすぐに目を逸らしてそっぽ向いてしまった。
食べたいけど言い出せない時ってあるから、私は○○にたい焼きを押し付けた。
「食べて、美味しいから。」
「で、でも......」
「とりゃ!」
「むぐっ......!」
私は遠慮している○○の口にたい焼きを突っ込んだ。
○○の顔はみるみるうちに赤くなって、たい焼きをひと口食べている。
「お、美味しいです......」
「なんでそんなに恥ずかしがってるの?」
「か、関節キス......気にしないんですか......?」
そのワードを聞いて、とてもびっくりした。
中学校から今まで男友達と呼べる人はいなかったから、食べ物をシェアするなんて当たり前の行為。
しかし、それが裏目に出てしまった。
「ご、ごめん......」
「い、いえ......嬉しかったというかご馳走様というか......」
私たちは無言のまま顔の熱が冷めるのを待つかのようにゆっくりたい焼きを食べた。
帰り道もゆっくり、夕日に照らされながら並んで歩く。
「あ、私の家ここだから......」
「そうですか......」
「じゃあね」
「はい」
いつもより弱めに、手を握るみたいにハイタッチをしてそのまま玄関を開けた。
手、おっきかったな。
翌朝、起きて目を覚ますと1番最初に○○の事が浮かんだ。
恋がどんなものかは分からないけど、○○の事を気になっているのは確か。
少しでも○○に良く見てもらいたい。
○○の1番になりたい。
そんな思いが少しずつ心の底から溢れてくる。
「よし。」
私は姉の部屋を訪れた。
「お姉ちゃん、起きてる?」
「起きてるよ」
姉の美空は私よりメイク道具も持ってるし知識も豊富。
いつも軽めのメイクしかしない私にとってはそういう点で尊敬している。
「お姉ちゃん、彩にメイクして?」
「珍しい......好きな子でも出来た?」
「ち、違うから!」
美空にメイクしてもらうと周りからの評判がいい。
少し癪だけど背に腹はかえられ無い。
メイクしながら美空は話しかけてくる。
「彩にもとうとう好きな子か~」
「だから違うってば」
にやにやしてる美空に反抗しながら時間が経過する。
「どう?髪もアレンジしてみたけど可愛い、やっぱり私の妹なだけある!」
「ありがと、今度一緒にカフェでも行こうね」
「あやー!!」
「ちょっと、くっつかないで!」
美空を引き剥がし、玄関出て携帯を確認すると奈央から少し遅れるとのメッセージが。
「少しなら待つよ......っと。」
メッセージを送り終えると、後ろから声をかけられる。
「お、おはようございます......」
「あ、○○おはよ」
「か、可愛いです......」
「あ、ありがと......」
顔を見られるのが恥ずかしくなって、髪で顔を隠す。
「可愛すぎる......」
○○からの言葉に、私も照れてしまう。
「そんなに褒めてもグミしかあげないんだから......」
気になってる人から褒められて、嬉しくならないわけが無い。
私はカバンから梨味のグミを取り出して○○にあげた。
「ありがとうございます!」
そんなやり取りをしていると奈央がやってきた。
「お待たせ、○○君もいたんだ」
明らかにニヤニヤしてるし怪しい。
「てか、彩しっかりめにメイクしてるじゃん!可愛い!」
「まぁ......」
「○○君もそう思うよね?」
奈央はちらっと○○の方を見ると○○は私の方を見ていた。
「はい、可愛すぎます。」
「2人してやめてよ......」
2人からの言葉は嬉しいけど、やっぱり○○から言われると顔があつくなる。
夏のせいじゃなくて、多分知らないうちに○○の事好きになってたんだと思う。
そんなことを考えていると奈央が変なことを聞いてきた。
「で、2人は付き合ってるの?」
「な、なお?!」
奈央か何を言ってるのか理解するまでに時間がかかった。
○○と私が付き合う?
いつかはそうなれたらいいかもしれないけど......
そう思っていると○○が焦った様子で口を開いた。
「お、俺が小川さんと付き合うなんて......」
それを聞いて私は落胆した。
ようやく好きだと分かったのに、○○は私の事好きじゃなかったんだ。
「先行くね」
「あ、ちょっと!」
奈央の言葉に気付かないふりをして、学校へと歩き出した。
学校へ着くと、みんなからは可愛いと言われる。
「ありがと」
いまいち気分が上がらない今の私には嬉しく感じられなかった。
「あや」
少し経つと奈央が教室に入ってきた。
「奈央......」
さっきのこともあってか、少し気まずい。
「彩、○○君と向き合ってあげな?」
「でもあんなこと言われたら......」
「その時の○○君の表情も見てたの?」
「見てないけど......」
そんな余裕は確かになかった。
「○○君、顔真っ赤で彩のことずっと見てたよ。」
「......」
「○○君、放課後屋上で待ってるって。」
○○や奈央に対しての罪悪感が放課後まで頭を駆け巡った。
「あや......あや!」
「な、なお......」
ずっと考え事をしていたせいか、奈央の声が耳に入らなかった。
「ちゃんと向き合ってあげなね。」
「うん。」
私は屋上への道を歩き出した。
屋上の扉を開けると、○○は柵に手をかけ外を覗いていた。
「○○......」
「小川さん、来てくれてありがとうございます。」
いつもとは打って変わって真剣な、表情にこちらも緊張が走る。
「ううん......」
「朝のこと、ごめんなさい。傷つけるつもりはなくて誤解なんです。」
「うん......」
「小さい時、小川さんがかっこいい子のお嫁さんになるって言っててそこから頑張りました。」
いつの話かもいつ言ったかも覚えてないけど、○○にはそれが重荷になっちゃってたのかな。
「うん......」
「俺......小川さんの事が好きです。」
○○の口から放たれた言葉に、全身があつくなる。
「一緒に遊んでもらってた時からずっと好きでした......付き合ってください。」
私が○○のことを可愛がってた時から○○は好きでいてくれたなんてちょっとびっくり。
それもこれもこうしてちゃんと向き合わないと分からなかった。
あとは彼の真っ直ぐな思いに答えるだけ。
「はじめての彼氏が○○であやも嬉しいな」
「それって......」
「彩も○○のこと好きだよ」
緊張したけど、伝えたいことは伝えられた。
○○は嬉しさからかちょっと泣きそうになっててかっこいいのに可愛さも残してるところにきゅんとする。
「ぎゅってしてもいいですか......?」
「いいよ、おいで」
「小川さん......」
「ちょっと、苦しいってば......」
○○からの強い愛を受け止める。
こんなにも気づいてあげられなかったんだと思うと少し申し訳ない。
「あ、そうだ」
「なんです?」
「彼氏になったんだから昔みたいに彩ちゃんって呼んでよ、敬語も要らないし」
「えぇ......」
ちょっとした困り顔ですら可愛く、かっこよく感じる。
好きを実感して、改めて少し恥ずかしい。
「あ、あやちゃん......」
「照れすぎだよ、○○。」
トマトみたいに顔を赤くする○○が愛おしくて、思わず笑みがこぼれる。
「もう......はやくかえるよ」
「はーいっ」
チャイムから少し時間が経っているため、校舎に人はほとんど居ない。
2人で並んで歩いていると○○が手を繋いできた。
「......」
昔と違う大きな手。
少し照れくさいけど、安心感もある。
私は無言で○○の手をぎゅっと握り返した。
○○の方を見ると、○○は微笑んでいて私も笑みを返した。
向日葵みたいな太陽を受けながら歩く帰り道。
私の家の前に着くと、○○は手を離した。
「あっ......」
寂しさが思わず口に出てしまってちょっぴり恥ずかしい。
「大丈夫、またいくらでも繋げるから」
そう言って○○は少し高いところに手のひらを出してきた。
「うん......また明日ね、○○」
そう言ってハイタッチしようとすると○○はハイタッチの瞬間手を上に引いた。
「ちょっと!なんでしてくれないの!」
私がそう聞くと○○は少し俯いた。
「まだ帰りたくないな......なんて......」
可愛い○○のお願いに、心が○○一色になる。
「仕方ないなぁ......公園まで歩こっか」
「うん!」
2人の初々しさは初夏のあつさをも退ける。
公園のひまわりも綺麗に咲き誇っていた......
fin.....
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