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割と美人な同居人はドジっ子みたいです。



朝5時。


日差しの差し込む前に俺は起きて3人分の弁当を用意する。




「さすがに眠いな......」



気力で目を開けて、冷凍食品や昨日の残り物を詰め込み、彩りを終える。


作り終えた頃には父さんが降りてきていて準備をしていた。


「いつも悪いな。ありがとう。」


「父さんには恩があるから。」


男手ひとつで育ててくれた恩は返しきれない。


たった1人の家族だし。



「親の責任だっての、そんで咲月ちゃんとは仲良くなったか?」



「......まぁ。」


少し濁すように答えると父さんのニヤケ顔が視界に入る。


「照れんなよ、あんな子そうそういないぞ?」


「うっさい!はやくいけ!」


「ったく......今日も遅いからな。」


「うん、頑張って。」



父さんを見送った後、とてつもない睡魔に襲われた俺はソファに横たわって意識を手放した。










「○○君......○○君!」



「んぅ......」


もう身支度を終えた咲月が俺の体を揺らす。


「おはよ......」


「おはよ、ごめんねいつも......」


寝ている俺と同じ高さには申し訳なさそうな咲月の顔。

いつ見ても綺麗な顔に目を奪われる。



「○○君......?」


首をコテっと横に倒しこちらを見つめる咲月。


「ご、ごめん!弁当も父さんのついでだから大丈夫だよ!」


「でも......」


「とりゃ。」


俯く咲月の頬を掴む。


「にゃに......?」


「自分の家だと思っていいからね。次申し訳なさそうにしたらまたほっぺ摘むから。」


......内心は触りたかっただけだけど。



「......分かった!」


咲月の綺麗な顔が視界を支配する中で周辺視野が捉えた時計に目が移る。


「咲月!時間!!」


「え!?やばい?!」


「先行ってて!間に合わせるから!!」



















                             ・・・



4限のチャイムが鳴り、朝から何も食べれていない体がご飯を求めている。


朝はギリギリ間に合ったが、ダッシュしたため疲労感が体を襲っていた。



疲れた体を動かして、屋上へと向かった。





「あ、大丈夫だった......?」


「うん、間に合ったよ。」


屋上で待ち合わせてたのは咲月。


以前、咲月がお昼を一緒に食べようと誘ってくれてからずっと一緒に食べている。





「今日も美味しい!」


お弁当を食べると目を細めて喜んでくれる咲月。


その笑顔に救われる。


「それは良かった。」


その後も弁当を食べ進めていると咲月が近寄ってくる。


「......なに?」


「寝癖直してあげるからじっとしててね?」


そう言うとポーチからヘアミストと櫛を取り出し、髪を直してくれる。


「ヘアミスト、私と同じやつだけど大丈夫?」


「うん?大丈夫だけど。」


「じゃあ......私と同じ匂いだね?」


少し微笑みながら俺と目を合わせてくる。


多分、というか確実に俺の顔は真っ赤でしかもそれを咲月に見られている。



「顔赤いけど大丈夫......?」



「......ずるい。」



咲月が鈍感で助かった......














部活の時間に入り、いつも通りのメニューを消化する。



朝の疲労感や昼のドキドキがまだ余韻を残し、いつも以上に疲労を感じる。




「今日はいつものメニューの後走るからな。」



監督の一言で周りの空気感が重くなる。


「はぁ......」


俺のため息も空へと消えていった。











                              ・・・



「ただいま......」


「おかえり!って......大丈夫......?」


「ちょっと疲れただけだから、大丈夫......」


「今にも寝そうだよ?先にお風呂入ってきな?」


咲月の言葉通りに荷物を自室に放り込んで着替えを手に取り、脱衣所へと向かう。


「分かった......」









「なんで着いてきてるの......?」


「○○君が寝そうだから......お風呂で寝ないか心配だし......」


確かに瞼は重たい。


でも、咲月の迷惑になってしまう行為はしたくない。



「寝ないから大丈夫だよ。」


「でも......」


「じゃあ、夜ご飯のお手伝いしてもらってもいいかな?」


「ふっふっふ、こんなこともあろうかと私が先に作りはじめてるよ。」


確かに、咲月はエプロンをつけていた。



「え?!ありがと!」


咲月はご飯を作れるかどうか少し心配だけど、考える力も残っておらずそのまま咲月を脱衣所から追い出して風呂へと入った。










風呂から出るとカレーのいい匂いが部屋に充満している。


「お風呂上がったよ。」


「髪びちゃびちゃだよ?」


乾かすの忘れてた、ていうかもう眠い......


「乾かしてあげるからおいで?」


「ん......」


椅子椅子に座って何とか意識を保ち、咲月に髪を乾かしてもらう。


「○○君、髪綺麗だよね。」


咲月の声もドライヤーの音にかき消される。


「なんか言った?」


「ううん、なんでもないよ。」



人に髪を乾かしてもらうのが心地よくて、意識を手放してしまいそうになる。


ギリギリの所で耐えていると咲月のドライヤーの手が止まり、一部分だけが熱くなる。


「あつっ!!」


「ご、ごめん!」











○○君の髪は綺麗でドライヤーを口実にちょっと触ってみたかった。



眠そうな彼は気持ちよさそうに髪を触られていて、可愛いと思った。


「あつっ!!」


「ご、ごめん!」


○○君、可愛いな......








○○君が帰ってくるまでにカレーの準備をし、日頃の恩返しをする。


とても疲れて帰ってきていたし、少しはいいとこ見せなくちゃ。




野菜を切るのに少し指を切ってしまったり。


炒めるのに腕が疲れたり。


料理の大変さを感じるたびに○○君への感謝が溢れてくる。












「あ!!」


「咲月、どうしたの?」


「ご飯炊き忘れた......」


多分、というかここ最近でなんとなく分かってきたけど......


「咲月、ドジだよね。」


茶化すように笑いながら言うと咲月も頬を膨らませて対抗してくる。


「む......バレちゃったか......」


「ご飯は冷凍してるやつあるし、大丈夫だから。」


「ごめんね。」



咲月の申し訳なさそうな可愛い顔が見れたので、むしろご褒美だ。



冷凍のご飯をレンジでチンして咲月にカレーをよそって貰い、サラダなどを並べる。



「いただきます。」


カレーを一口。



「美味しい!」


「良かった......」


咲月は安堵の表情を浮かべてる間に、カレーを食べ進める。


いざ、咲月も食べようとした所で指のバンドエイドに目が移る。


「指、どうしたの?」


「野菜切る時にドジっちゃって......でも大丈夫だから!」


「女の子なんだから、手は大切にしなきゃだめだよ?」


そう言い残して、食べてる途中なのも忘れて一旦部屋に戻った。




「これでいいかな。」


部屋からペンをひとつ取ってそのまま食卓へ戻った。


「咲月、指出して?」


「うん?」


咲月のバンドエイドに赤いペンでハートを書く。


咲月が俺にしてくれたように。



「その......この前のお返しというか......早く治るおまじない......」


ちょっと恥ずかしくてすぐに視線を下にした。


「あ、ありがと......」


咲月の感謝で目線を少し戻すと、咲月は頬を赤く染めている。


咲月のそういう顔を見ると、少しいじわるしたくなって頭を撫でる。



「○○君......?」



赤い顔で上目遣いのような形。


「咲月、ありがとね。」


綺麗な髪を撫でながら、感謝を伝える。


お互いの顔は赤くて、どちらからともなく目線を逸らす。


「その......」


沈黙を破ったのは咲月だった。



「○○君に撫でられるの......好きかも......」


ちょっと照れくさそうに言う咲月を見て、咄嗟に抱きしめてしまった。


「ふぇ......?!」


咲月の驚く声で冷静に戻り、パッと咲月を離す。


「ご、ごめん......!」



その後はカレーを流し込み、逃げるように自分の部屋に戻った。




「やっちまった......」














「○○君......」


咲月の顔はまだ赤いままだった......

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