夏はやっぱり。
「怪談話」はお好きですか?
あまりにも暑いから、ちょっと涼しくなるようなお話をしましょうか。
実はこれ、2008年にmixiの日記に載せたお話なのですが。
ちょっと手直しをして、再掲してみます。
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東京地方の盆送りは7/16でしたね。
靖国神社では毎年その時期に「みたままつり」があるのですが。
いりあは、あのお祭りが苦手です。
靖国神社はみなさんもご存知の通り、戦没者をお祀りしている神社。
だからでしょうか。
賑やかに屋台が並んでいても、楽しげな家族連れがいても。
いりあには、何だかとても暗く、もの悲しく、感じるんです。
いりあが初めて「みたままつり」に行ったのは、
物心がついた小学生の低学年の頃。
近くに住む伯母と一緒だったと思います。
夜にはたくさんの提灯が灯って、それはそれはきれいだったのですが。
幼いいりあは、すごく、怖かった思い出があります。
神社の隅の闇。祭り囃子の音。時折聞こえた軍歌。
静かに手を合わせる人たち。
賑やかだけれど、暗い。暗いけれど、賑やか。
そのアンバランスさも怖かったかもしれません。
そんなことをふまえて、以前、亡き父から聞いた、
「ちょっと怖い、本当にあった話」。
以下は父から聞いた話を、
いりあ風に脚色して、再現してみます。
「怖い話」が苦手な方は、どうぞここまでで。
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もう何十年も前の話ですが。
父は、靖国神社にほど近い、とある老舗のホテルに勤めていました。
黒服を着て、宴会関係その他を仕切っていたようです。
「みたままつり」が近づいてきたある夏の日のこと。
杖をついたご老人が、宴会の予約のためにホテルを訪ねてきました。
白髪で品のいい雰囲気のそのおじいさまのご予約の内容は、
「みたままつりに合わせて、5~6人程度の宴会を開きたい」とのことでした。
そのご予約の対応をしていた父は「あ、戦友の同窓会なんだな」とすぐに気がつきました。たぶん、そのおじいさまは、身なりや物腰から、軍の司令官クラスの方だったのでしょう。
父も出兵経験者でしたから、そのおじいさまのために、一番上等な個室をご用意し、「たぶんお年の方が多いだろうから」と考慮してメニューを組み立たてたりと、精一杯のおもてなしをすることにしました。
そんな父の思いが伝わったのか、
そのおじいさまも、宴会の段取りを確認しながら、大変満足そうでした。
そして、みたままつりの当日。
杖をついたおじいさまは、時間ぴったりにいらっしゃいました。
すでにセッティング済みの個室のお席にお通ししたものの。
いくら待っても他のお客さまが現れる気配がありません。
困り果てたウェイターから連絡を受けた父は、
失礼にならないように、おじいさまにその旨を尋ねると。
おじいさまはきっぱりと、こういったそうです。
「何をいっているのかね、きみは。
みんなはもうそろっているじゃないか。
はやく、料理をだしてくれ」
その瞬間、父はすべてを悟りました。
「この宴会は、亡くなった戦友のための、弔いの宴なのだ」と。
そこで父は、何食わぬ顔で、
「何をしている。早くお料理をお出ししろ」
と、驚き、怯えているウェイターやウェイトレスに指示をしました。
人数分のグラスに、お酒がつがれ、
豪華な料理がテーブルにだされ、人数分にとりわけられました。
すると、おじいさまは、頃を見計らって。
「献杯!」
とたかだかとグラスをあげ、一気に飲み干しました。
それから、おじいさまは、見えない戦友ひとりひとりに懐かしげに話し始めたそうです。
戦場では想像も絶するような大変なことがあったでしょう。それでも「戦友」と心温まる時を過ごせたこともあったのかもしれません。
けれどそんな状況を見たウェイトレスは、よほど怖かったのでしょうか。
お料理を運んでも手は震えて、かたかたとお皿を鳴らし、
お料理をとりわけるのを粗相をしてしまったりして、
フォローするのが大変だったそうです。
そして。
おじいさまは時間になると、ゆっくりと席を立ちました。
父がご挨拶に伺うと、
「どうもありがとう。とてもよい時を過ごせたよ」
といって多額のチップを置いてお帰りになったそうです。
父は
「もしかすると、あの人は隊でただひとりの生き残りだったのかもしれないな。悔やんでも悔やんでも悔やみきれない思いがあるのかもしれない。
まるで夢の中の出来事のような不思議な経験だった」
と話してくれました。
そしてその後、そのご老人に二度と会うことはなかったそうです。
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長い長い、お話になってしまいました。
最後までこの日記を読んでくれた方、おつきあいしてくれてありがとうです。
いつまでもこの平和が続くことを。
願ってやみません。
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