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★『ユング自伝─思い出・夢・思想(2)』

心という、目に見えない、
不可知なものを理解することに対する情熱的な欲求

以前、『ユング自伝1』の方を読了して↓

★『ユング自伝―思い出・夢・思想 (1)』

『ユング自伝2』の方もやっと読了しました…。

『ユング自伝─思い出・夢・思想(2)』

『自伝1』のほうの書評でも書いたのですが、ユング心理学の肝、人間の心の「無意識」と呼ばれる領域について、この二冊目の自伝においても、ユングは自らの研究・仕事について、詳細に語っています。

この『自伝2』も『自伝1』同様、ユングは、自分の心理学という仕事の根幹にかかわる部分が、自らの無意識の心象、つまり通常、人が意識する自らの心の領域を越えた深みに由来することを明言しています。

そして、その回想と解析の過程で、「無意識」という心の領域が、個人の生活から引き出される要素に必ずしも由来していないということ、さらに、世代や国籍、性別といった、その人を規定するカテゴリーとも、直接結びつかない領域として成立している不思議について言及しています。

このことを、ユングは、学問の対象として、また臨床における患者の中に見ることに先立って、何よりも幼少のころからの、ユング自身を困惑させた経験として直面していたと、この自伝の中で述べています。

そのうえで、この不可思議な心の領域を明らかにするには、心理学の対象としての個人の心そのものだけを解析するのではなく、広く、歴史、文学、宗教といった学問領域にまで観点を広げる必要性を説いています。


人間の心の奥深くにあって、その人の人生を形作るものが、その人個人の血縁的な遺伝や、生まれてから見聞きした、様々な経験だけではなく、一度も触れたことのないモノやコトが、すでにその精神の中に存在するという不思議、それをユングは身をもって体験しています。

一見、摩訶不思議な、今でいうスピリチュアル、オカルト、といった科学とは必ずしも相容れない考え方に思われるのですが、多くの人が一笑に付すような、容易に説明できない人間の心が織りなす現象を、夢や幻覚、偶然の一致などの現象を手掛かりに、ユングは人間の心の奥底の世界の中に見続けていきます。

(実際、ユングは、霊的に敏感な方だったようで、幽霊とも思えるものに会ったり、象徴的な夢を見たり、白昼夢ともいえる幻覚、そして偶然の一致、など、不思議な体験をたくさんしているようです^^)

このように、ユングは『自伝2』において、『自伝1』からさらに進んで、彼が探求した人間の心の世界について、一般の人が日常生活の中では容易に知りえない、その意味にまで踏み込んでいきます。

そしてそれは、探求すればするほど、個々の人間の特別な精神性から、人間が普遍的に共有している心というものの本質(それをユングは元型、あるいは原始心象という言葉で表現しています)を明らかにする方向へと進んでいきます。


ユングの心理学は、対象が目に見えない心であること、そして、ユングが精神科医として、一人一人の個々の患者の治療を行うときの手がかりとして、夢を取り上げることから、非科学的だという非難に常にさらされていたようです。

しかし、最も心を打たれたのは、そういう非難があったとしても、ユングの、人間にとって無意識の心の領域を理解することが、バランスを崩した患者の心を回復させることだという確信がゆるがなかったことです。

心のバランスが崩れる原因として、その人の心の中の意識と無意識の関係に問題があり、その不都合を明らかにし、それを患者や周りの人間が受け入れられたとき、はじめて心の問題が解決に向かうということを、医者として、ユングは何度も目の当たりにしたのでした。

本書の中でユングは、ヨーロッパ以外の土地への旅で触れた未知の文化的背景をもった人々について、また、死後の生命というものについての考え方、
そして最晩年、自らの人生と学究についてまさに、語れることのすべてを語りつくしているように思われます。

ただ、彼の言葉がいかに啓示に満ちていても、私が、ユングが知ることができた「無意識」という精神の領域を十分に理解できない故、その言葉のもつ世界を味わえないもどかしさが常に存在しつづけるのです。

しかし、それこそが、ユングの心理学、そして人間の心そのものの本質に近づく、唯一の道であることもまた、ユングはこの自伝の中で、何より、私に伝えてくれているようです。

不可知なものを理解することに対する「情熱的な欲求」、これこそが、ユングが最も自分に「生をもたらしたもの」だと彼自身、この本の中で語っています。

自分の心も、人の心も、知らない方が幸せだと思うことも、現実の生活の中ではあるものです。
また、理解できないことを理解しようとすることは、多くの人にとって、面倒なこと、難儀なことであることは想像に難くありません。

しかしこの本を読んで、やはり、心についても、特に原因の意識できない、不調や不具合があるとしたら、無意識の領域という不可知な部分に踏み込んで、不可知な部分を知ることによって、本当の自己を取り戻すことができるのかもしれない、と思えました。

ユングほどの情熱をもって、自らの不可知の領域に踏み込むことは難しいかもしれませんが、この本を読んで、それは、楽なことではないけれど、究極、心の平安、慰めにつながるのではないかと感じています。

まだまだ深い、どこまでも深い、心の領域と、ユングの心理学の世界の探求は、続きそうです。。。

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