見出し画像

★『ユング自伝─思い出・夢・思想(1)』C.G.ユング

心を、宇宙のように、その果ての分からない部分にまで、
その探求の範囲を無限に広げていったのは何故か。

人間の心の奥深さ、特に「無意識」と呼ばれる自身にも理解することが難しい意識の領域についてユングは、心理学の世界で初めて、その本質に生涯をかけて切り込んでいった人です。

よく同じ心理学者のフロイトと比較されますが、フロイトはユングの先人で、ユングと同様に心というものを、無意識、というより本能(性欲)の部分から捉え、心理学に新たな地平を開いた巨人です。

そしてユングもフロイトから少なからず影響を受け、一時はフロイト自ら自身の後継者として、ユングを捉えていたようです。

しかし、フロイトが、その心理学的な学説において本能(性欲)というものに重きを置いたのに対して、ユングは、さらに広大な無意識という人間の心の闇の部分の解明に力をそそいだという点で、単にフロイトの継承者というより、さらなる開拓者といえるのではないでしょうか。

心を、宇宙のように、その果ての分からない部分にまで、その探求の範囲を無限に広げていったのは何故か。
それは学問的な探求心、というより、ユング自身が自らの心の、容易には意識や判断の及ばない領域について、自ら納得のできる理解に及びたい、という願いだった、ということがこの自伝を読んで分かるのです。

『ユング自伝─思い出・夢・思想(1)』

本書は通常の自伝のように、時系列で、幼年時代から壮年時代へと、語られていくのですが、普通の自伝と違い、そこには、外部的な事柄や事件が語られるというより、前述したように、ユングの内面的な(それは無意識の領域としてあらわれる夢や幻想まで含めて)探求の軌跡が語られているのです。

したがって、通常の自伝のように、外的な事件や現実の人間関係のなかでの
エピソードなどを求めてこの本を読まれる人には、あまり興味を惹かれないかもしれませんが、ユングにとって自身の人生において、精神的なエッセンスのみが大事だった、ということなのだと思います。

私も自身の無意識を、いまだ知ることができずに歳を重ねているのですが、
ユングという心理学者が身をもって、その無意識の世界こそが、その人自身、そして人間の本質につながる何かであることを生涯かけて探求したのだということは理解できます。

ただ、自分の無意識の領域を知ることが、本当にその人にとって大事なことなのかどうかは、まだ判断がつきかねるところではありますが。
…人それぞれでしょうかね…個人的な感想です^^;;

ユングの自伝はこの一冊ではなくもう一冊あるので、合わせて読んで、また感想を書ければと思います。

それにしても…理解することができなくても、生涯のうちに、必ず読んでおきたい本というものが誰でもあると思うのですが、私にとって、このユングの自伝は、そういった本の一冊なのかもしれません。

それは、理解できるかどうか、というより、理解したいかどうか、という動機によるのだと思います。
そういう本と出会えることは幸せなのだと思いました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?