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★『クリスマスまであと九日―セシのポサダの日』エッツ&ラバスティダ

クリスマスまであと九日! 初めてパーティを主催する小さな女の子の物語

12月になりました! 今年もあと一カ月…早いものです;;
12月は、世界中の国の子どもたちにとって、とても大事な行事が待っています。それは言うまでもなく…クリスマスですね^^

クリスマスは、宗教としてのキリスト教の影響力が比較的少ない日本のような国の子どもにとっても、季節の行事として、家族や大切な人とすごす楽しい時間です。

この絵本に出てくる小さな女の子、セシの住むメキシコでも、クリスマスは子どもたちが指折り数えて待ちつづける楽しみな行事の一つです。

『クリスマスまであと九日 セシのポサダの日』

この作品は、絵本界の巨匠(!)の一人、マリー・ホール・エッツが手がけた(文の部分はアウロラ・ラバスティダとの共著)、クリスマスを楽しみに待つ子どもたちの物語です。

文章のボリュームが多めなので、読み語る大人の方には多少時間と体力が必要かも知れませんが、小さな子どもでも真剣に見入る(聞き入る)ほど、その内容は、深く心に残るクリスマスのお話です。

多くのクリスマスの絵本や物語は、キリストの誕生の物語をはじめとしたクリスマスの由来の物語であったり、行事や習俗の様子、あるいは、パーティやプレゼントを巡るクリスマスの顛末を描き、その中での家族や大切な人との幸せな時間、絆を描く内容です。

この絵本もたしかに、クリスマスとその前の時間をすごす、小さな女の子の様子を描いた物語で、そこにはクリスマスを迎える子どもとその周りの様子、子どもたちと家族の幸せを願う気持ちが描かれていることに変わりはありません。

ただ、他の(といっても、私が知っている限りの、という範囲ですが)クリスマスをテーマとした絵本と比べてこの作品は、少し趣が違っているように思えます。

この作品は、子どもの内面からの視点で描かれたクリスマス絵本です。
クリスマスのこの時期をどんな気持ちで、どんなふうにすごしているのかということ、そしてクリスマスという行事が、子どもにとってどんなに大切なのかということを、彼らをとりまく日常生活──家族や社会、文化の中で具体的に生き生きと描いた物語です。


この絵本が出版されたのが1959年、日本では1974年、とすでに半世紀の年月が流れているので、現在のメキシコでどのようなクリスマスの行事が行われているのかは不明ですが、この絵本の中で描かれているメキシコのクリスマスは、「ポサダ」と呼ばれる「とくべつのパーティ」を、クリスマスの前の九日間(!)、毎晩違う家で行うとのことです!

この絵本の主人公の女の子セシも、幼稚園に通うくらい大きくなったので、最初の日のポサダを、セシを主人として行ってもいいのではないか、とお母さんたちが提案します。もちろん、セシは大喜びです。
そして、ポサダにはつきものの、「ピニャタ」と呼ばれる飾り物を選びに、お母さんとマーケットに出かけます。

このピニャタとは、中に粘土製の壺が入っている、紙でできた飾り物で、その壺の中には、お菓子や果物など、子どもたちが喜びそうなクリスマスの贈物をたくさん詰めて、ポサダの終りに皆でピニャタを割って落とし、中に入っているものを子どもたちが分けてもらうのです。

ピニャタは動物や人形など、子どもたちが好きそうな様々な形で作られ、マーケットの天井から吊るされて、セシを待っていました。
セシは色々迷いながらも、自分のピニャタとして大きな星の形のピニャタを選び、贈り物も全部自分で壺に入れて、ポサダの日の準備をします。

そしていよいよ、セシのポサダの日がやってきて、家族や近所の友だちが集い、やがてピニャタを割る時がやってくるのですが…。


この絵本の翻訳者、田辺五十鈴さんによると、ポサダとは、宿屋を表わす言葉で、この風習はキリストを身籠ったマリアが、夫のヨセフとベツレヘムを目指し宿を探した故事に因んだもののようです。

ピニャタは、最後には割られる運命にある飾り物ですが、ピニャタが形を失った後には、人々、特に子どもたちにたくさんの贈り物が届けられ、それを分け合ってクリスマスをお祝いするのです。
初めて自分でピニャタを選び、ポサダを主催したセシにとって、このクリスマスの日々は忘れ難い風景として、心に刻まれたことでしょう。

星のピニャタが割れた後のセシの内省の記述は、少し寓話的、やや作為的な感じもしますが、これもクリスマスの奇蹟の一つ──目に見えない大切な存在からのメッセージとして素直に受け取るべきなのでしょうね。

個人的には、この物語の顛末の部分よりも、そこに至るまでの、セシの心の動きやメキシコのクリスマスの様子に、心が惹かれましたが、それでも、クリスマスを迎える子どもたちが、この期間を、心穏やかに、大切な人たちと過ごし、やさしい星の光に、確実に見守られていると信じることができれば、と願うばかりです。


エッツの絵も、お話の雰囲気をよく伝えてくれているように思います。
クラフト紙のようなオリーブ色のバックに、鉛筆で素描した素朴なスケッチ。
そしてその線画を、全部塗りつぶすのではなく、ところどころに鮮やかな色合いで(白、ピンク、赤、黄色など)彩色が施されています。

もしかしらた予算の都合があったのかもしれませんが、だとしても、アクセント的に使われた彩色の使い方は、とても個性的で上品に感じられます。

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