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笑いたい君と笑えなかった僕〜未来の為にチケットを握り締めて〜

「心の底から笑えない」

 いつだって笑顔でいる事が出来なかった日々。
 2020年1月から続いたコロナ禍で、人々の生活は変化を強いられ 世界に対して徐々に生き(息)苦しさを感じ始めた。

 その中で「今だから出来る新しい事をしたい、どうにかして変わりたい」という気持ちを表現したアーティストがいる。

 そのアーティストはヴィジュアル系ロック・バンドのアルルカンである。切なさと悲しみを兼ね備え、時に激しく時に心をえぐる様なサウンドと歌詞で聴く人に、ヴォーカル暁自身の気持ちの奥深くにあるモノを訴え続けている。
 3rdフル・アルバム『The laughing man』は、今までとは違い、暁以外のメンバーも作詞作曲に携わった新曲のみの構成になっている。『受注生産【完全盤】』の特典である絵本を読むとわかるとおり、サーカス団のピエロ・カイを主人公として、彼の心境の移り変わりを描いたコンセプト・アルバムとなっている。

 サーカスといえば、特別な衣装やメイクをしてピエロ達が各々の芸を披露しつつ観客を楽しませるものだが、この作品の楽曲たちはいかに私達(リスナー又は観客)を楽しませてく
れるのだろうか?

 一曲目の「イン・ザ・ミラー」は、暁自身も「心の底から笑えない」という気持ちが強く、カイの心情と重なって聴こえる歌詞が詰め込まれている。
 〝鏡の中 抱いていた 憧れにも似た 湧き上がる衝動よ 隠すくらいなら飾ればいい〟という歌詞はまさに、主人公のピエロ(カイ)と暁がいかに同じ気持ちであったのか、そして私たち自身もコロナで何も出来なくなった事を代弁してくれたかのようにも思える部分だ。また、心の中を鏡として捉えるところが暁らしさを思わせる。
 イントロからショーを思わせるサウンドで始まり、徐々に勢いのあるメロディーに変わるところも、暁の心の中の思いを表現しているかのようだ。

 「ビロード」は頭から激しく、ライブではヘッド・バンギングが見られる曲となっている。ちなみにこの曲は、フル・アルバムのリード曲のひとつとして候補に挙がっていた。
 この曲では歌詞に書いてある表記と実際の読み方がいくつか変わっているところがあり、〝予想外〟を〝ウソ〟、〝現状〟を〝ホント〟と読むところが個人的に面白くて好きである。一曲目と変わっている点としては、
〝思い描けない! 真っ白なままの未来!〟
と歌詞にあるように、未来に対して想い描きたかった事や描けなかった事を表しつつ「笑う」というワードが、〝笑えない〟という歌詞から〝笑い飛ばせ〟になっているところから、暁自身の気持ちに変化があったのかと考えさせられる。

 三曲目は、ドラムの堕門が作曲を担当している「如何様」である。イントロのドラムやギターの曲調は、聴く人をワクワクさせるようなサウンドであり、Aメロからはベースのズッシリとした重みのあるサウンドが加わるが、聴きづらさを感じさせることなく共存している。ギター・ソロは、いつも下手ギターの奈緒がメインで演奏をしているが、この曲は上手ギターの來堵が担当している。歌詞については、手品を連想させるところも時折見られる。個人的に、この曲はアルバムの中で一、二を争うほど好きでよく聴いている楽曲だ。

 「空に落ちる」は、ベースの祥平が作曲している。イントロからのキラキラした星をイメージするようなメロディーに、ギターやベース、ドラムが入っても違和感なく綺麗に聴こえてくるというのは、今までのアルルカンのアルバムには なかなか無いのではなかろうか。この歌詞には、空や星といったワードが使われている。しかし特典の絵本には、「ステージへと続く階段の途中、分からなくなる。登っているのか、落ちているのか。」と書かれており、私達もカイの気持ちがいかに深刻なものだったのか考えさせられる曲ではないだろうか。

 次の「瘡蓋」は、來堵が作曲している。この曲は、終盤のギター・ソロ以降から徐々にヘヴィさを増す楽曲だ。アルルカンの強みでもある、悲しみと激しさを全面的に出している楽曲と言っても過言ではない。ベースも粘るような重低音で楽曲を支えている。

 「とどめを刺して」では、Aメロから疾走感のあるサウンドで、ヘヴィな二曲目の「ビロード」などと比べても、桁違いに激しく聴こえるナンバーだ。
暁のデス・ボイスもいつにも増して力強く響いているのがこの曲を形作る要素となっている。

 「FIREWORKS」は曲名から想像できる通り、花火を連想させるようなサウンドがところどころ聴き取れる。作詞は暁以外のメンバーが参加し、それだけ重要な楽曲であることを示すかのように、作曲はメイン・コンポーザーの奈緒が手掛けたとてもキャッチーかつ明るく楽しい曲だ。しかし、遠くから花火を眺めるだけのカイは、この時点ではまだ笑えていなかった。

 そう、カイは「何故、僕は笑えなくなったのだろう」と考えていたからだ。

 「向日葵」も明るい歌詞だが、ここでは最初にもあった「笑う」ということについて、何か伝えたい気持ちがあるのではないか。
〝-ほら顔をあげて しゃんとして 笑って-
その想いを どう 受け取ればいい〟
 歌詞からの推測ではあるが、カイも暁自身もメンバー(団員)達に伝えたいことがあってもなかなか伝えられずにいた気持ちがあったのかもしれない。それでも、〝隣に居る アナタを 待っていた〟とあるように ようやく自身の、心から笑えなかった気持ちを打ち明けることが出来たのだろう。

 ようやく笑顔を取り戻しつつあったカイも暁自身も、「君とのあいだに」の歌詞のように〝答えを求めては 言葉を 探し 続けていた 〟のではなかろうか。
それはきっと、今までにもない苦痛や困難に立ち向かうためにも、メンバーとの時間や〝君とのあいだに〟存在するものが重要だったからなのだろう。

 そしてアルバムのタイトルであり、今まで笑えなかった自分に言い聞かせている曲「The laughing man」。
〝言い聞かせていた 笑えない 自分に そのままでいい 真っ直ぐ 胸を張り 進め 〟
 今まで笑えてない自分(暁)と、「何もかも 上手く行く訳じゃない」と言い聞かせていたカイ。だからこそ大切にしたいと思う気持ちに気づいた時。

〝その笑顔がきっと今 力になるから〟

 笑顔でいることの素晴らしさをこのアルバムが教えてくれた。コロナで辛い思いをしていたとしてもきっと誰かの笑顔で救われた日々がある。
『The laughing man』は、サーカスというひとつのパフォーマンスとアルルカンというバンドが一体となる事で織り成す不思議な空間である。
アルルカンはそんな不思議な空間を作詞作曲してアルバムに落とし込む事により、サーカスのように私達を楽しませてくれるのだ。

今こそ、その手の中にあるチケットを固く握り締めて突き進もう。

 「さあ、今日も劇場の幕が上がります。」

 笑顔の先に見える未来のために。

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