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恋するライムで私を踏んで 第四話「Rappin' in the Rain」

第四話「Rappin' in the Rain」

○大泉学園(雨)
ヘッドホンをしながら物憂げにスマホを触るひまり
ギャル友に囲まれながらも浮かない表情の美咲
図書室で辞書を片手に韻の一覧を作成する拓海
部活終わりの1年に追加練習の提案をする大輝
軽音部の女子達とバンドごっこをする優希
部活帰りに晴翔を見かけ声をかけようとして止めるひまり

○大泉学園・職員室
テスト用紙の採点を終えるはじめ。
保険外交員の女性である梅田紀子(40)がはじめに声かける
紀子「先生、ご無沙汰してます」
はじめ「わ、びっくりした」
紀子「どうです?そろそろお時間作って頂けませんか」
はじめ「あの、大丈夫です。僕もう保険入ってるんで」
紀子「さすが先生!素晴らしい。まさに先生のような既に保険に入ってらっしゃる方が喜んで頂けるお話なんですよ」
はじめ「はぁ、そうですか。でも、ごめんなさい。こんな時間なんですけど、僕これからお昼なんですよ」
紀子「あら、そんなんですか。食堂行かれるんですか?」
はじめ「いえ、僕節約してて、お弁当なんです」
紀子「素晴らしいじゃないですか。実は私も毎日お弁当作ってるんです。私と息子の二人分」
はじめ「そうですか。それは大変ですね。では」
お弁当を開けて食べようとするはじめ
生徒A「はじめ先生、ちょっと相談したいことがあるんだけど」
箸が止まるはじめ
はじめ「うん、いいよ。相談室で待ってなさい。すぐ行く」

○大泉学園・音楽教室
優希「じゃ時間なんでお疲れ」
拓海「あれ、もう帰るんだ?」
優希「うん、村田先輩には伝えてる」
村田「おう聞いてるぞ。帰ってよし」
優希「じゃお疲れっした」
大輝「ちょ待てよ」
立ち止まる優希
大輝「お前最近付き合い悪いな。せっかく今日は音楽教室使えるんだからもっと練習しようぜ。ていうか、至宝高校との一戦以来みんなおかしいぞ」
優希「何か問題ある?別に長く練習すればいいってもんじゃないでしょ」
大輝「一緒に練習する時間からチームワークも出来てくるんじゃねぇの」
優希「は?あのさ、俺聞いたんだよね。お前、部活時間終わっても1年と練習続けてるんだってな。そういう馬鹿みたいな根性論やめろよ」
1年の方を見る大輝。目を逸らす一橋。
大輝「何だよ!ちゃんと1年には確認した上で練習してんだよ。ばーか」
拓海「ちょっと、バカって言ったら、ピリピリしちゃうよこの場が」
優希「1年が断れる訳ねーだろ。もっと気を遣え」
大輝「それ言うなら、俺も言わせてもらう。お前最近軽音部の奴らとつるんでるだろ。部活終わった後に軽音部の奴らと合流してるの見たんだよ」
優希「は?面倒くせぇな。軽音部と一緒にいるのは歌の練習してんだよ。歌の練習してフロウ磨いてんだよ」
拓海「そう人それぞれ苦労がある。武藤優希にはフロウがある」
大輝「なんだよ!じゃコソコソせずに俺らに言えよ」
優希「は?お前だろコソコソ時間外練習やってんの!それでお前成長出来てんの?俺は軽音部とやってみて自分の成長感じてるよ」
拓海「そう武藤優希は成長中。軽音部こそが彼の栄養分」
大輝「俺はラップ部に危機感感じてるんだよ。だから努力する。それの何が悪い?」
拓海「確かに感じる危機感。だが、喧嘩はもうやめにしていい時間。もちろん分かるよ努力。でも、やり過ぎたらその先は孤独」
大輝「てか、お前…人が真剣な話してんのに韻踏んでんじゃねーよ」
拓海「韻踏んで何が悪いんだよ。お前やたら威勢はいいけど、もっと理性を持って、自分の行動を規制しろよ」
大輝「だからそれやめろって言ってんだよ。まともに会話しろ」
優希「いや、熱くなってる自分こそ落ち着けよ。まぁ確かに、韻の踏み過ぎもウザいけど」
大輝・拓海「はぁ?お前もういっぺん言ってみろ」
喧嘩が始めるラップ三銃士。
村田「おいおい、お前らやめろ、やめろ。美咲、ちょっと先生呼んできて!」
美咲「わかった」
村田「お前らいい加減にしろ。ラッパーだろ。言いたいことあるならラップしろ」
コインを出す村田
大輝「表」
コイントスする村田

○大泉学園・相談室
コイントスをして生徒に語りかけるはじめ
はじめ「それはコインの表と裏だ。あなたの方から見れば、このコインには女神が映ってる。僕の方から見れば天秤が映っている。同じ一枚のコインでも立場が違えば180度見え方は違うもんだ。だけど、人は自分が見えているものを真実と思い込み、正義を主張する」
生徒A「人間関係って難しいですね」
はじめ「そうなんだ、難しいんだよ。だから覚えてほしい」

○大泉学園・音楽教室
ラップパート
大輝「お前がやってるのはタダのサボり みんなの苦労を全然知らない 同じチームでやってんだろが 全く感じない協調性」
優希「はい出ました これが同調圧力 空気読めの大合唱 お前がしてんのは価値観の押し付け 全く感じない多様性」
拓海「俺も優希の意見に同意見 あれば話し合う相違点 みんなやってる影の努力 成長する時人は孤独」
村田「大輝に足りない思いやり 優希に足りない聞く勇気 拓海は韻に隠れがち 欠点だらけさ俺たちは」

○大泉学園・相談室
はじめ「僕ら人間には対話が必要なんだ。人間関係に100ゼロはない。どちらか一方が絶対正義でどちらか一方が絶対悪って訳じゃない。ただ、自分を絶対正義と思い込んで、相手を徹底的に潰そうと考えているならそれは辞めなさい。相手の話に耳を傾け、コインを裏側を想像しなさい」
生徒A「そっかぁ。先生、今日は話せてよかったです」

○大泉学園・音楽教室
ラップパート
一橋「ぶっちゃけ言えば居残り嫌だ 搾取されてる時間と自分の尊厳 そこには尊敬 全くないよリスペクト」
ひまり「感じる先輩の焦りと怒り 痛みをちゃんと理解したい だが、私の意見もちゃんと言おう NOと言える女子高生」
大輝「勘違いしてた独りよがり 他に言うことないマジでゴメン 見えてなかった目の前の人間 もし間違ってたら言ってくれ」
優希「余裕な振りして黙ってた 実は内心焦ってた 分かってたはずなのに言えなかった プライド外し自己開示」
拓海「俺は何にも言えない小さい人間 ライムがあるから初めて発言できるみたいだわかるか?マイメン ガキの能書きもう終了」
村田「みんな本音を背負い込んで ポイズンみたいに何も言えない それでも俺らはラッパーだろ バチバチぶつかり会話しよう」

○大泉学園・相談室
はじめ「先生もラップ部やっているから分かるんだ。ラッパーは普段から言いたいこと言ってるから喧嘩なんてしないんだよ」
ノックして入室する美咲
美咲「先生、ごめん。今ラップ部が大変なことに!三銃士先輩が大喧嘩してる!今すぐ来て」
驚きの表情で引いてる生徒A
はじめ「(苦笑いしながら)ま、これも青春だ。君も喧嘩はほどほどに」

○大泉学園・音楽教室
美咲「みんなゴメンお待たせ。先生連れてきた」
楽しそうにラップするラップ部の一同
あっけに取られるはじめと美咲
ひまり「あ、先生、美咲」
美咲「どうしたの?これ?」
ひまり「言いたいこと全部吐き出してスッキリしたみたい」

○同・音楽教室
大輝「やる気湧いてきた。かましてやろうぜ県大会」
拓海「当然だろ。だって俺らには限界ないもんな」
優希「はい、出たー。県大会と限界ないね。すぐ韻踏むよね。そこまでいったら拓海って変態じゃない?」
韻を踏みながら会話する事で、通じ合う優希と拓海
村田「いやでもこのメンバーだったら、県大会優勝も射程圏外じゃないと思うんだよね」
更に韻をたたみかける事で湧き上がる一同
一橋「うわ、さすが先輩っす。俺も県大会までに変化しないとダメだな」
美咲「変化しないのもダメだけど、一番は喧嘩しないことよ」
最高潮に盛り上がるラップ部
ひまり「でも、私寂しいな。だって、ここには晴翔先輩がいない」
拓海「喧嘩しないと先輩がいない。いいね、踏んでる踏んでる」
優希「おい」
拓海「あ、ごめんなさい」
美咲「ひまりはどうしたいの?もう分かってるんでしょ」
ひまり「うん、私が晴翔先輩の所に行ってくる」

○屋外(夕方)
走るひまり
スマホが鳴るのに気づき、スマホを見るひまり。
苦悶の表情で天を仰ぐひまり。

○ファミレス(夜)
先に席に座ってるひまりの姉こと山口さくら(23)
さくらの席に近づき座るひまり
ひまり「…お姉ちゃん、久しぶり。急に呼び出すからビックリした。最近、家で全然会わないね」
さくら「そうね、仕事忙しいから」
ひまり「なんかこうやって2人で話せるのって久しぶりだね。昔はよく2人でヒーローごっこして遊んでたよね。懐かしい。お姉ちゃん、今でも…」
さくら「ね、ひまり、私の裏アカ見てるでしょ」
表情が凍りつくひまり

○山口家・さくらの部屋(回想)
さくらのPCを触るひまり。
さくらの裏アカを見つけてしまうひまり
さくらのモノローグ「大学生になって初の夏休み。楽しむぞーと言いたいところだけど、最悪のニュース。私が受けた第一志望の大学で不正入試問題が発覚。男女で点数差をつけて男を受かるようにしてたらしい。それで私が落とされたんだったら最悪じゃん」

○地下鉄車内(朝)
スマホを見ているひまり
さくらのモノローグ「入社して1ヶ月、社会人ってこんなに大変なの?とりあえず上司が最悪。いまだに古い価値観で仕事してる感じ。残業は美徳じゃねーよ」

○大泉学園(昼)
美咲に話しかけられた時、ひまりはスマホでさくらの裏アカを見ていた。
さくらのモノローグ「膨大な業務に押し潰されそうな午後10時。営業課のMさんが色々助けてくれた。クールな人と思ったけど、話すといい人。スマホの待受が奥さんとお子さんの写真で、家族思いな所も。今度、私の実績を作る為に一緒に企画書考えてくれるって。優しい」

○大泉学園(夕方)
美咲にユニフォームの事で声かけられた時もひまりはスマホでさくらの裏アカを覗いていた。
さくらのモノローグ「Mさんとの共同作業で、ついに企画書ができた!会議でのプレゼンはプレゼン慣れしてるMさんがやってくれるそうだ。本当に頼もしい人。その日の夜、Mさんと2人で飲んだ。…ここから先は言えない。仕事もプライベートも充実してきた。幸せ」

○山口家・ひまりの部屋(夜)
ベッドに横になりながらスマホを見るひまり
さくらのモノローグ「会社にMさんとの関係がバレた。Mさんとは連絡取れなくなるし、企画書は連名で出したのに、Mさんの名前で通っていて私の名前が消えてる!どういうこと!上司からはMさんの将来と家庭を守るにはこうするしかないと言われた。しかも、私を守るためにあえて私の名前を削除したそうだ。むしろ感謝してくれてもいいだってさ。本当に最悪!一番辛いのは女社員からの当たりがキツすぎる。いま優しく話しかけてくる男性社員は全員気持ち悪い。もう最悪だ…最悪」
泣いているひまり

○ファミレス(夜)
さくら「…図星か」
ひまり「ごめんなさい。お姉ちゃんのパソコン借りたときについ見ちゃって」

さくら「絶対、親には言わないでよ」
ひまり「うん、分かった。でも、お姉ちゃんどうするの?会社続けるの?」
さくら「奨学金の返済があるんだから辞めれる訳ないでしょ。でも転職活動しようにも、そんな時間も余裕もない。八方塞がりでもう地獄だよ」
ひまり「…お姉ちゃん」
さくら「この国はね先進国の中でもジェンダーギャップが最悪の国なんだよ。しかも女同士で勝手に潰し合いしている時だってあるんだから、そりゃ男が有利になるのも納得だよね。ひまり、私達の未来は暗いよ。この世界にヒーローはいない。誰も何もしてくれない」
ひまり「(涙を堪えながら)お姉ちゃん、私ね、今ラップしてるの」
さくら「ん?ラップ?」
ひまり「ラップってねスゴイんだよ。金持ちも貧乏も男も女も関係ない。ビートの上では誰もが平等。その瞬間に一番カッコいいラップした人が勝者なんだ」
さくら「え?なんの話?」
ひまり「今度ね、ラップ部で県大会に出場するの。私も出る。ネット中継もするみたいだから、お姉ちゃん絶対見て。私、お姉ちゃんの為にラップする」
ファミレスを飛び出すひまり

○路上(雨・夜)
泣きながら走るひまり、晴翔を見つける
ひまり「晴翔先輩!」
立ち止まる晴翔。ひまりと晴翔の間には路上ミュージシャンのバンドがいる
ひまり「どうして部活来ないんですか?皆、先輩が来るのを心待ちにしていますよ」
晴翔「思い出したんだ。俺にはラップする資格がないって」
ひまり「あずささんのことですよね。まだ好きなんですか」
晴翔「好きだった。もう過去の話だよ。だけど、俺は彼女を傷つけた。ごめん」
立ち去ろうとする晴翔
ひまり「助けてよ!私のヒーロー」
立ち止まる晴翔。バンドのマイクを奪い取るひまり
ひまり「そもそもラップって人を傷つけるもんじゃねーのかよ!でも、そのラップが人を救うこともある。あの時、先輩が私を救ってくれたように」
ラップを始めるひまり。バンドもそれに合わせ音を鳴らし始める。

ラップパート
ひまり「Yo 塞ぎ込んでる晴翔先輩 見てると私の理性限界 あなたに憧れ恋焦がれ まとまらない思いは止まらない あなたは私のヒーローだった それがラッパーだった ラッパーである前に人間だ 優しいところがいけてんじゃん ラップも恋愛も資格はいらない 失格と言われても自ら辞めない 今日の私に死角はない 全力のアンサーぶつけてよ」
何も言い出せずにいる晴翔
ひまり「私は誰かを救えない でもあなたは私を救ってくれた だから後悔せずに豪快に言う 私は晴翔先輩が好き!」
一瞬音が止まる。マイクを掴み、ゆっくりとアンサーを返す晴翔
晴翔「ひまりの気持ちはマジ嬉しい でも俺は弱虫MC 本当はぶつかるのが怖すぎて すぐに逃げ出したい臆病だ」
ひまり「臆病だ、でもほら極上な ライムを吐ける天才だ 繊細な所も愛おしい 私の側にいて欲しい 正直私はピンチなんだ 必死なんだ ほら今返せアンサー エクスキューズなんか全然いらない 先輩の本音を聞かせてよ SAY」
晴翔「山口ひまり 噛まずに言いたい ひまりの事が大好きだ その表情もファッションもめちゃ可愛い 性格もいい ラップもいい ビートにライドン 気持ちを解放 マイホームみたいに感じる愛情 きっと二人は三日月・太陽 もっとひまりに近づきたいよ」
ひまり「心切なく ここで手繋ぐことができたら それが幸せ 現実忘れるほんの今だけ 見えているのはあなただけ」
晴翔「これが俺が惚れた求めた乙女だ ラップで告白これがトドメだ 喉元に留めた言葉全部届けた」
ひまり「見た目だけじゃなく中身好き 可愛い所も更に好き」
晴翔「いつも似合ってるヘッドホン 恋のメーターレッドゾーン」
ひまり「先輩が好き」
晴翔「何倍も好き」
ひまり・晴翔「あなたの事が好きだから」

ひまり「先輩と通じ合えてすごく嬉しいです。あの改めて言わせてください。先輩好きです。付き合ってください」
晴翔「ごめんなさい」
ひまり「ええーー!絶対付き合うパターンじゃん!なんで?」
晴翔「両思いなのが分かって俺も嬉しいよ。でも付き合ったら、ひまりの事好き過ぎて溺れそう。今は県大会に集中したい」
ひまり「…溺れそうって、なんかそういう不器用な所が先輩ぽいです。でも、県大会終わったら付き合ってくれます?」
晴翔「もちろん、お付き合いしたいです」
ひまり「よかった。明日一緒にラップ部にいきましょう」
晴翔「うん。ひまり、ありがとう。なんか吹っ切れた」
ひまり「いいえ、私の方のこそです」

<最終話「私のヒーロー」へつづく>

#創作大賞2024 #恋愛小説部門

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