見出し画像

恋するライムで私を踏んで 第三話「元カノとライバルと練習試合」

第三話「元カノとライバルと練習試合」

○至宝高校・体育館
握手する村田と至宝高校3年の波多野陽一(18)
村田「よろしくお願いします」
波多野「よろしくお願いします」
村田「あれ?森川君の姿が見えませんね」
波多野「うちの森川は弱小校相手の練習試合には出ませんので」
村田「言ってくれますね。聞いてますよ、森川君、なかなかの問題児らしいですね」
波多野「余計なお世話です。こっちは部員も増えてます。マネージャーが増えたところで試合には勝てませんよ」
村田「一人は選手です。このメンツなら全国行けます」

美咲「敬語でバチバチじゃん」
ひまり「こわー」

はじめ「それでは試合をはじめます。まずはシングルの総当たり戦。レディーファイト!」

ラップパート
ひまり「私の名前は山口ひまり 試合に勝つのは私で決まり 今に見てな、男子諸君 私のマイクで殺処分」
至宝高校1年・松木公太(15)「俺が1年トップランカー松木公太 まずはボンバー着火ドンほらどうだ? ご挨拶がわりに爆弾投下 俺が至宝高校の核弾頭だ」
一橋「はい、こんちわ俺メガネ あれ?あんたのマイク折れてたね なまくらがたなじゃ勝てません こちとら真剣勝負で刺しに行く」
至宝高校1年・竹下浩二(15)「撃ち抜く弾丸 ライカ マテバ 喉元切り裂き声枯れた トドメを刺すのは誰だ? 至宝の二番手 俺、竹下」
晴翔「勢いあるね 若さかな 漢字 ひらがな カタカナか 教えるラップのあかさたな 俺に勝とうなんて浅はかだ」
至宝高校1年・梅田幸才(15)「至宝の1年3番手 韻の固さならアルデンテ 梅田幸才 調子はどうだい? てめぇのラップはこの場で崩壊」
村田「俺が部長の村田だ 表舞台からリアルな裏方 全部見てきたこのやり方 これがベテランの勝ち方」
波多野「至宝の3年 相手は残念 そろそろ観念してバイバイ 丹念なライムでお相手 お前じゃ物足んねえ 敗退」

はじめ「では、ここで一旦お昼休憩とします」

優希「森川いなけりゃ、僕らの圧勝じゃん」
拓海「もの足りないくらいだな」
大輝「飯だ飯。今日は母ちゃんがメガおむすび作ってくれたから早く食いたくてたまらん」

ひまり「(小声で)美咲、どうしよ?もしかしたら来たみたい」
美咲「(小声で)マジ?持ってる?」
首を振るひまり
美咲「えっとね、私のデカカバンの中。取ってこようか?」
ひまり「いい、いい。自分で行くから。(ラップ部に向かって)ごめんなさい、私、忘れ物。車に取りに行ってきます」
ラップ部「はーい」
晴翔「あ、ひまり。俺も一緒に行く」
ひまり「(小声で)タイミング悪っ。(晴翔の方を振り返って)はい、では一緒に行きましょう」

○至宝高校・屋外
晴翔「最近、ひまりのラップめっちゃ良くなってる」
ひまり「本当ですか」
晴翔「うん、ライムもフロウも出来てるし、いい感じだよ」
ひまり「あの、晴翔先輩に聞きたいことがあって」
晴翔「うん、何?」
ひまり「あの、私を痴漢から助けてくれた時、踏んでましたよね、韻」
晴翔「…最高!ひまり、よく気付いたね。そう、韻踏んでた」
ひまり「何であの時、韻踏んでたんですか」
晴翔「いや痴漢見るの初めてだったから、パニクってさ。そういう時にラップていうか韻を踏んだなら一言めが出せるって思ったんだそれで、あの…」
晴翔・ひまり「狡猾な盗撮魔」
笑い合う二人
ひまり「本当にあの時はありがとうございました。でも、よく盗撮に気付きましたね」
晴翔「あ、それは…あの時見てたから、ひまりの事」
ひまり「…え?」
晴翔「ひまりって、いつもデカいヘッドホンしてるじゃん。あの時もそれで何か気になって、そしたらお婆さんに席を譲ってるの見えた。この子すごいいい子だなって、つい目で追いかけてた」
ひまり「それって…」
晴翔「着いた、後ろ開けるね」
トランクを開け自分の荷物を取り出す晴翔
ひまりが美咲のカバンを開けると、大量の白い錠剤が出てくる
晴翔「うわ?!それ何?」
ひまり「あー、違います、違います。これ美咲のです。あの、生理痛の薬。イブにバファリン、ロキソニン。私も時々貰います。あと、ピルも持ってるみたいです。美咲曰くアイム ア ハスラーだそうです、ハハ」
晴翔「…なんだ。びっくりした」
ナプキンの入ったポーチを見つけるひまり。
ひまり「あった。先輩、すみません。私、お手洗い寄ってから行くんで、先に行っててください」
晴翔「うん、了解。じゃ、先行ってるね」

○女子トイレ
個室に入り、パンツを下ろすひまり。
パンツが汚れていないことを確認する。
ひまり「っしゃ!汚れてない」

○至宝高校・屋外
女子トイレから出てくるひまり、晴翔の姿を見つける。
ひまり「あれ?先輩、待ってくれなくても良かったのに」
すると、晴翔の向かいから森川あずさ(17)が顔をのぞかす。
あずさ「こんにちわ」
ひまり「…こんにちわ」
あずさ「マネジャーさん?それとも晴翔の彼女さんかな」
晴翔「からかうのよしてくれ。そういうのじゃないから」
ひまり「…そういうのじゃない?」
あずさ「ま、いいわ。晴翔、お昼行かない?」
晴翔「え?何で?」
あずさ「話したいことがあるの」
遠くより森川勝太(17)が声かける
森川「おーい勝手に先に行くなよ」
あずさ「いや、お兄ちゃんはついて来なくていいの」
晴翔「お兄ちゃん?」
森川「こんにちわ、秋月晴翔君。あずさの兄の勝太です。早速だがラップバトルしよう」
晴翔「はぁ?」
あずさ「ちょっと私が先約よ」
森川「秋月晴翔くん、君のリリック読ませてもらったよ。韻もしっかり踏んでるし、中学生であの内容は素晴らしいよ。しかも観覧車でラップするなんてロマンチックじゃないか」
晴翔「え?ちょっと待って。あの手紙見せたの?」
あずさ「見せたよ。私があなたとの事話したら、リリックを見たいって言い出して」
晴翔「マジで勘弁してくれよ。もう吹っ切れたと思ったのに、ダメだ」
あずさ「ちょっと晴翔、落ち着いて。一回あなたと話がしたいの」
晴翔「もう構わないでくれ。ひまり、行こう」
ひまり「え?本当にいいんですか」
そそくさと歩き出す晴翔
森川「おーい、晴翔君。午後の試合、俺も出るから絶対ラップしような」

晴翔「くそっ、くそっ、何でだよ。最悪だ」
ひまり「…先輩?もしかしてあの人が前に言ってた」
晴翔「そうだよ。観覧車で振られた子だよ。ごめん、ちょっとほっといてくれる」
ひまり「ごめんなさい」

○同・体育館・至宝高校サイド
でかい態度で座ってリンゴをかじる森川。
松木「(波多野に向かって)遅刻してきて、あの態度はないんじゃないっすかね」
波多野「(小声で)ばか。声でかい。お前ら知らないかもしれないけど、森川怖いんだから」
梅田「うちら一年の事、眼中にないっていうか全然相手にしてくれないし」
波多野「森川の所は親が会社社長で、うちのPTA会長もしているんだ。あんま逆らうな。一回揉めて、うちの部の2年と3年全部やめちゃったんだから大変なんだよ」
竹下「そんな事言ったら、うちらもやめちゃいますよ。先輩からビシッと言って下さい」
波多野「わ、わかったよ」
森川に近づいていく波多野
波多野「お、おい!森川」
森川「なんすか、パイセン?」
波多野「お前……全然来ないと思ったら……今日は来てくれてありがとな」
森川「ウェーイ」
握手する森川と波多野
波多野「1年もお前が来てくれて喜んでるよ」
森川「あ、そうっすか。俺が興味あるのは晴翔だけ、早くバトルしてぇな」
波多野「そうなんだ。午後の試合はチーム戦だから、森川どうする?誰と組む?」
森川「いや、俺はソロで行きますね。ていうか、もう始めましょう」
立ち上がり、勝手に大泉学園に向かって行く森川
波多野「おい森川、勝手なマネはやめてくれ」
マイクを掴む森川
森川「秋月晴翔君、俺と勝負しよう」

○同・体育館・至宝高校サイド
竹下「なんで森川先輩はあんなにまでして秋月晴翔とバトルしたいんですか?」
波多野「データが欲しいんだよ。森川は性格はアレでも、ラップスキルに関しては天才的だ。一度バトルすれば、相手のバトルスタイルをすぐ理解する」
梅田「まさに天才だ」
波多野「恐ろしいよ。勝つための最短ルートをあいつはもう分かってるんだよ」
松木「確かにすごいっすけど、それ楽しいんですかね」

○同・体育館・大泉学園サイド
晴翔「うっせーな。戦ってやるよ」

ラップパート
晴翔「ど頭ガタガタうるせーな 俺のラップならアップ・アンド・ダウン フロウで黙らすへらず口 大泉学園のラップ王子 ぶっちゃけダサいぞその金髪 眉間を目掛けてラップ一髪 かまして負かす 会場沸かす 今日が命日白いカラス」
森川「ご存知俺が森川勝太 既に消化試合の様だ お前が噂のラップ王子 迷い込んでる袋小路 お前が王子なら俺帝王 マイク一本で即KO 白いカラス本当笑わす ハイブランドに目が眩んどる」

晴翔「ウッセー金持ち自慢はやめろ 相手が誰でもよく動くベロ…」
晴翔、観客席にいるあずさの姿を見て急にバイブスがなくなる
晴翔「俺が絶対お前を倒す 絶対この勝負に勝つ 絶対負けない マジで負けない …ダメだ ラップできない ごめん」
立ち去る晴翔。どよめく大泉学園ラップ部。
森川「なんだ拍子抜けだな。でも何となく分かった。よし、帰ろう」
大輝「おい、待てよ。俺らとのリベンジマッチがまだだろ」
森川「必要ないだろ。もう君たちの強さは分かってる」
大輝「なめてんのか。ビート流せ」
森川「ったく、面倒臭いな」

ラップパート
大輝「俺が晴翔の代理だ つまり大輝だ バージョンアップした第二弾」
拓海「第二弾から第三弾 韻踏む事が快感だ」
優希「快感だ 俺歌いたいんだ 仲間との絆が財産だ 第三弾から第四弾 内容は魂の解放だ」
森川「三人揃っても役不足 しかも魂の解放?なんで嘘つく? 解放している割には韻ばっかり追いかけて全く内容がないようだ 対等な関係じゃない 上下関係 なんならお前らのダメなところを本にして出版してやろうかな上下巻で」
はじめ「終了」

ひまりのモノローグ「この日、私達は至宝高校に負けた。この日を境に晴翔先輩はラップ部に来なくなった」

<第四話「Rappin' in the Rain」へつづく>

#創作大賞2024 #恋愛小説部門

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?