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恋するライムで私を踏んで 第二話「ラップで告白はあり?」

第二話「ラップで告白はあり?」

○教室
ひまり「先生、そもそもMCバトルって何なんですか?」
はじめ「あーその説明は…村田」
村田「ういっす」
はじめ「ミュージックスタート」

ラップパート
村田「そもそもMCバトルって何? ラップスキルで勝負する競技 ライム、フロウ、バイブス、アンサー、内容にキャラにオリジナリティ 評価基準は人それぞれ お客さんの歓声 審査員の札 MCバトルに正解はない MCバトルに100ゼロはない 自分を誇れ 己さらけ出せ そうすりゃ誰かが手を上げる」

はじめ「今、村田がラップしたみたいにMCバトルに正解はない。ビートの上では誰もが平等。男も女も貧乏人も金持ちも関係ない。韻に強いやつ、ビートアプローチうまいやつ、リリックの内容が面白いやつ、アンサーや即興に強いやつ、キャラが面白いやつ。個性と個性のぶつかり合いだ。ま、それでも基礎が出来てなきゃ話にならない。その基礎は先輩方に教えてもらいなさい」

拓海「ラップの授業始めるぞー。ラップで最も重要なのはライム、韻だ。例えばこのライムって言葉…」
ライムと黒板に書く拓海
拓海「ライムは母音だとアイウだ。まずこの母音に合う言葉を連想してみよう。おっと早かった。メガネ」
一橋「アイス」
拓海「いいね。よし、どんどん回していくよ。次はひまり」
ひまり「えーっと、あいつ」
美咲「タイツ」
一橋「サイズ」
ひまり「合図」
美咲「うーん、愛撫」
拓海「おぉ、愛撫。うん、韻踏んでるね。よし、どんどん回して」
一橋「タイプ」
ひまり「ダイブ」
美咲「バイブ」
拓海「いや一人だけエロい。ちょっとピントがずれてきたので、ヒントなしに韻を踏んでもらいましょう。では、ワードはヒント。どうぞ」
一橋「インド」
ひまり「インコ」
美咲「ちん…」
拓海「終了ー。マネージャーは見学でお願いします」

大輝「バイブスってのはな、何ていうか気合入れてラップすれば、オレの周りの空気つうか、気力がぐわー上がっていって、それがお客さんにも伝播して会場中がぐわーってなるんだよ。だからバイブス上げとけー」
ピンと来ていないひまりとメガネ
大輝「つまりなんて言うのかな。お前がお前自身の言葉で魂乗っけてラップしなきゃ人には伝わらない。いくら韻を踏んだってそこに意味や内容、お前の思いがなければ何の意味もない」

優希「フロウってのは、ビートに対するラップの乗せ方のこと。ラップって音楽なんだから色んなメロディ、リズム感でビートに合わせないと楽しくないでしょ。言いたいことや内容も大事だけど、それ叫んだところでねぇ。それってただのスピーチか演説、ラップじゃないね」
更に頭を悩ますひまりとメガネ。

村田「まぁラップは習うより慣れろ。今日みたいな座学も入れつつ、実戦で覚えていこう」

サイファーする部員たち

○食堂
ひまり「疲れた」
晴翔「初日だから疲れたでしょ」
ひまり「すごく頭使いました」
大輝「ひまりはあの入部試験のバイブスが出せれば最強だよ」
美咲「この子、自分の事には無頓着なのに、人の事になるとつい動いちゃうのよね」
ひまり「目の前の困っている人をほっておけないの」
美咲「困ってないし。ていうか、元カレの人数バラされるとは思わなかった」
ひまり「ゴメン、つい」
美咲「気にしてないからいいけどね」
村田「え?あれって実話なの?」
ひまり「美咲の恋愛遍歴すごいんです」
美咲「私ってモテるんです。でも合う人がいなくって…」

○レストラン
レジでお会計する元彼Aと美咲
元彼A「あと、領収書も頂戴」
新人店員「はい、かしこまりました」
もたついて領収書を出すことが新人店員
元彼A「遅い!早くしてよ。待たせないで」
新人店員「申し訳ありません」
元彼A「ちょっと領収書くらいすぐ出ないの」
美咲「はぁ、ごめん。別れよう。私、店員さんに威圧的な態度取る人嫌いなの」
元彼A「えぇ?!」

○上映中の映画館
元彼Bのスマホのバイブが鳴る。
スマホを取り出し、メッセージの返信をしてまたポケットに戻す元彼B
睨む美咲
上映が終わり席が明るくなる
美咲「ごめん。別れよう。私、上映中にスマホ出す人、大嫌いなの」

○レストラン
丼にこびりついた米粒を見せながら
美咲「ごめん。別れよう。私、ご飯粒残す人、嫌いなの」

○美咲の部屋のベッド
元彼C「ね、このままいいでしょ?」
美咲「ごめん、別れよう。私スキン付けない人、大嫌いなの」

○食堂
クスッと笑う晴翔
美咲「あ、笑ったでしょ」
晴翔「ごめん、そういう意味じゃなくて、自分の意思を貫いててすげーヒップホップだよ」
美咲「私ヒップホップなんだ?!で、そういう晴翔先輩はどうなの?」
晴翔「どうって?」
美咲「どうって、恋でしょ、恋!恋してんの?」
ラップ三銃士および村田に緊張が走る
晴翔「今は恋愛する気ないかな。部活に集中したいし」
村田「まぁまぁあんまり部員の恋愛事情に首突っ込むのは良くないよ。話したい人は話せばいいし、話したくなければ話さなくていい」

○教室(昼)
スマホを見ているひまりに話しかける美咲
美咲「ひまり、どうしたの?浮かない顔して。晴翔先輩のことがショックだったか」
ひまり「違うよ。そんなんじゃないよ。確かにビックリしたけど」
美咲「恋愛しないとか考えられない」
ひまり「晴翔先輩って優しくていい人だけど、時々不器用なんだよね。ま、そこが可愛くもあるんだけど」
美咲「どうすんの?ラップ部まだ続ける?モチベーション下がってない?」
ひまり「ラップ部は続けるよ。ラップもっと好きになってきた。あのね、韻の事が分かると世界が広がるの。気付いた、宇多田ヒカルめっちゃ韻踏んでる」
美咲「ふふふ、ひまりらしいね。いいんじゃない。私もラップ部の人たち好きよ。秀才、熱血、金持ち、優男、オタク、縁の下の力持ち、みんなバラバラだけど、ラップが好きってだけで繋がってる。何かいいよね」
ひまり「いいよね~ラップ部」

ひまりと美咲に近づいてくる沙織(15)
沙織「話してるとこゴメン、美咲ちょっといい?」
美咲「うん、いいよ。何?」
沙織「……薬持ってるって聞いて」
美咲「ちょっと声がデカい」
沙織「あ、ごめん」
袋に入った白い錠剤を出す美咲
美咲「とりあえずこれで。あんまり強いのに手出すと、体が慣れて効かなくなるから」
沙織「あ…これじゃなくて…」
美咲「(ため息つきながら)アレの方か。ちょっと場所変えよう」
沙織「ごめんなさい」
美咲「ひまり、ごめん。また後で」
ひまり「うん、オッケー」

○教室
練習風景
・サイファーするラップ部
・長い文字の韻が踏めるようになるひまりとメガネ
・3連符ができるようになるひまりとメガネ
・筋トレするひまりとメガネ
・シェイクハンズも出来るようになる
・スマホを見てるひまりに肩トントンする美咲。ひまりが振り返るとユニフォームが出来ている。

はじめ「よし、新入部員も仕上がったきたな。じゃそろそろ県大会に向けての強化練習行きますか」
大輝「よっしゃー!今年こそ県大会突破するぞー」
部員達「おー!」
はじめ「県大会および全国大会は各高校ごとの団体戦となります。バトルの方法は先生同士の話し合いによって決まります。バトル内容によってはソロ・タッグ・トリオとバトルに応じたチーム戦が要求される。これは新設された部活動ゆえの人数差への配慮のためです」
村田「そうそう、今でこそラッパーも増えてきたけど、俺らの時代なんて1人対3人の1ラウンドバトルとかザラにあったからね」
はじめ「今年の強豪校を紹介する。タッグ最強の双子・奏兄弟率いる佐藤ヶ丘高校、ソロ最強の王者・森川勝太率いる至宝高校」
拓海「…至宝高校か」
村田「おいおい空気重いぞ。俺らだって他校から見れば強豪校なんだから自信持っていこうぜ」
はじめ「その通り。県内屈指のトリオ最強・ラップ三銃士率いる我が大泉学園だ」
優希「だけど、そのラップ三銃士もソロ最強の森川に負けた」
村田「確かに、去年は準優勝で全国大会への切符は至宝高校に持っていかれちまったな。優勝いけると思ったんだけどな」
はじめ「去年は去年だ。今年は秋月晴翔もいるし、優秀な新入部員も入った。それに何度も言ってるだろ。MCバトルに100ゼロはない。ライムが強い奴にはフロウで戦え。フロウが強い奴にはバイバスで戦え。バイブスが強い奴にはライムで戦え。己の最強の武器で戦うんだ」
ひまり「あれ?晴翔先輩、去年の県大会出てないんですか」
晴翔「俺、去年の秋に入部したから、県大会には行ってないんだ」
美咲「へー意外。でも何で秋から入部?」
大輝「はじめは晴翔も入部する気はなかったんだけど、俺達の説得でな」
晴翔「説得というか完全にバトルで決めたようなもんだろ」
優希「あれはあれで楽しかったよー」
拓海「俺らが強くなるためには晴翔が必要だったんだ」
村田「長い話になるよな。その話だけで映画一本できる」
はじめ「はいはい、話を本筋に戻すよ。そこでだ、今後は従来の練習に加え、チーム戦を想定したタッグ・トリオの練習も行っていく。より互いの信頼関係が肝になってくる訳だ」
村田「その点については、はじめ先生から今後の特訓メニュー預かってます」
はじめ「それと最後にもう一つ。練習試合を行います。相手はなんと!至宝高校だ。練習試合にこれ程ふさわしい相手はいないだろう」
部員たち「おー!」
大輝「去年の雪辱果たすぞー」
拓海「相手にとって不足なし」
優希「今度も楽しめそー」
晴翔「ワクワクしてきた」

○食堂
一橋「至宝高校って、そんなに強いんですか」
村田「強いって言っても森川勝太がずば抜けて強いだけで、後のメンバーは普通だよ」
晴翔「森川勝太、一度戦ってみたいな」
美咲「晴翔先輩、去年の秋に入部したから県大会に出ていないんだよね?」
晴翔「そうだよ」
美咲「てっきり入学と同時にラップ部に入ったのかと思ってました」
晴翔「それは…」
優希「トラウマだよね」
拓海「晴翔には一年間ラップできない理由があった」
ひまり「何があったんです?私ちゃんと知りたいです先輩のこと」
大輝「同じ仲間だろ。もう言ってもいいんじゃないか」
晴翔「……そうだな。あれは2年前、俺が中学3年生の時の事。初デートの話…」

◯観覧車内(回想)
森川あずさ(回想時・15)「うわ観覧車乗るの久しぶり~。小学生の時以来かな」
晴翔「あ、そうなんだ」
あずさ「ね、もう高いよ」
晴翔「そうだね~。うわ結構高い。高いところ平気?」
あずさ「うん全然大丈夫。ていうか、午前中一緒にジェットコースター乗ったじゃん!」
晴翔「ああ、そうか。そうだよね。ごめん。何か変なこと言って」
あずさ「え?晴翔くん、もしかして緊張してる?」
晴翔「ちょっと緊張してるかも。…ねぇ、あずさ」
あずさ「うん、なに」
晴翔「俺ら今まで仲間で遊び行ったりは結構あったじゃん。映画観に行ったりとかさ。で、今日が初めて二人でのデートじゃん」
あずさ「うん」
晴翔「で、結構いい感じだと思うのね」
あずさ「うんうん」
晴翔「でね、自分の思いをちゃんと伝えようと思うの」
あずさ「うんうん」
晴翔「書いてきたから」
手紙を渡す晴翔
晴翔「読むのは後でいいよ」
あずさ「え、手紙書いてくれたんだ。嬉しい」
晴翔「うん、歌詞」
あずさ「歌詞?え歌ってこと?」
晴翔「うん、ラップ」
あずさ「ラップ?!」
晴翔「聞いて」

ラップパート
晴翔「Hey yo 聞いてくれ俺のマイソウル 今日が二人の初デート 暗いゲート抜けプライベート 皆で観に行ったワイルドスピード その時からあずさがだいぶ好き 顔が可愛い 頭もいい 気遣いも出来る性格いい 全てが完璧三拍子 クラス1の美人森川あずさ その美貌檻から出すな こっから先は俺のもの 後悔させない 惚れたこと 俺がお前を守るから なって欲しい俺のハツカノに アンサー聞かせて二十日後に じゃなくて今この瞬間 この時に」

晴翔「好きです。付き合ってください」
あずさ「ごめんなさい」
沈黙が流れる
車内放送「たった今ゴンドラが頂上に到達致しました。残り半分空の旅をお楽しみください」

○教室
美咲「うわ最低の告白だ。普通でいいのに!」
晴翔「うん、最低なのは俺も分かってる」
大輝「まぁまぁ晴翔も反省してるんだから、あんまり責めるなって」
拓海「それに晴翔は振られた事にショックを受けてるんじゃない。おそらく森川あずさを傷つけた。その事に自分も傷ついてる」
はじめ先生「気付くこと、それが大人への第一歩だ」
急に現れるはじめ先生
生徒たち「わ!先生!」
美咲「びっくりした」
はじめ先生「人は生きている限り、誰かを傷つけるし、誰かから傷つけられる。だからこそ、自分が傷つけたと分かったなら、謝れる大人になろうな。謝れない大人多いぞ~」
美咲「先生、いい事言うじゃん」

<第三話「元カノとライバルと練習試合」へつづく>

#創作大賞2024 #恋愛小説部門

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