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恋するライムで私を踏んで 最終話「私のヒーロー」

最終話「私のヒーロー」

○大泉学園・教室
晴翔「秋月晴翔、戻って参りました」
部員から歓迎される晴翔
はじめ「よく戻ってくれた。晴翔、早速特訓だ」
晴翔「はい!」
はじめ「ラップを1日サボればライムを忘れる。一週間サボればフロウを忘れる。一ヶ月サボればバイブスがなくなる。取り戻していくぞ」
晴翔「はい!」

○大泉学園・教室(夕方)
はじめ「よし、皆準備できたな。県大会を明日に控え、全員仕上がってるはずだ。今日は会場近くの旅館まで移動して、一泊。明日に備えよう」

○旅館(夜)
はじめ「おい、お前ら、明日は朝早いんだからもう寝ろ」
男子生徒達「はーい」
一橋「先生、ちょっと寝る前にトイレ」
はじめ「もう消灯だから早くしろ」
一橋「うっす」

○同・男子トイレ(夜)
個室にこもっている一橋
そこに他校の生徒二人組がやってきて小便器で用を足す
他校生徒A「お前さ小便くらい一人で行けよ」
他校生徒B「悪い。でもさ、噂聞いちゃったら、もう怖くて」
他校生徒A「噂ってなに?」
他校生徒B「この旅館出るんだってよ。髪の長い女の幽霊が」
驚く表情をする一橋
他校生徒A「え?マジ?あ、でも言われてみれば雰囲気あるよな、この旅館」
他校生徒B「だろ~」
他校生徒A「やべ、俺も怖くなってきた。早く戻ろうぜ」

○同・廊下(夜)
ビクビクしながら部屋まで戻る一橋。すると、部屋の扉の前に何か落ちているのを発見する。それは手紙のようだ。その手紙を手に取った瞬間に、白い手がメガネの腕を掴む

○旅館・外観(夜)
一橋「ぎゃー」
そのまま、旅館・外観(朝)に切り替わる

○同・廊下
手紙を手にしたまま気絶しているメガネ。
村田「先生、どうします?」
はじめ「う~ん、もう時間もないしな~」
遅れてやって来るひまりと美咲
ひまり「え、大変」
美咲「先生、メガネは私が見ますから。行って下さい」
はじめ「頼めるか。じゃあ俺たちは先を急ごう」

○県大会会場
はじめ「(トーナメント表を見ながら)俺たちはB体育館の方だな、行くぞ」

司会進行役「それでは予選Bブロック第一試合を開始します。両者、位置について。MCバトル、レディーゴー!」

○旅館
目覚める一橋。
美咲「あ、起きた。調子どう?」
一橋「あれ?試合は?」
美咲「とっくに始まってるよ」
バイブ音に気付き、スマホを見る美咲
美咲「もう一回戦突破だって。結構早いね」
一橋「もう俺大丈夫だから。俺も行く」
美咲「あんまり無理しない方がいいんじゃない。ていうかさ、一つ聞いていい?何で手紙持ってんの?」
一橋「…手紙?はっ!」
入り口のドアがノックされる
美咲「ん?誰だろ?ちょっと行ってくるね」
ドアを開ける美咲
美咲「えぇ!?何であなたがここにいるの?」

○県大会会場
司会進行「勝者!至宝高校」
森川が佐藤ヶ丘高校の奏兄弟を倒す

○タクシー内
一橋「幽霊の正体見たり枯れ尾花」
美咲「誰が枯れ尾花じゃーい。失礼なこと言って、すみません」
あずさ「いいんです。私も驚かせてしまって、すみません」
美咲「勝手に勘違いして気絶してただけですから。気にしないでください」
あずさ「ふふふ、そうですね。手紙を握りしめたまま気絶するなんて、困り果てました」
一橋「ごめんなさい」
美咲「その手紙、晴翔先輩に渡すの?」
あずさ「渡すのではなく、お返します。私が止まった時間を動かします」
美咲「森川さん、いいね!その考え。失ったものを数えても幸せにはなれないもんね」
あずさ「川島さん、いい事言いますね」
美咲「(手を差し出して)美咲でいいよ」
あずさ「(握手しながら)あずさでいいですよ」

○県大会会場
司会進行「はい、ではA、B各ブロックの予選が終了しました。Aブロック代表・至宝高校。Bブロック代表・大泉学園。決勝戦は体育館Aにて行います。それまではお昼休憩です」

○県大会会場・屋内
美咲「晴翔先輩!」
美咲の陰から顔を出すあずさ
晴翔「多分、来てるんじゃないかなって思ってた」
美咲「じゃ私はこれで。(去り際あずさに向かって)全部ぶつけなよ」
晴翔「初めに言わせて欲しい。ごめん、この間は逃げ出して」
あずさ「私の方こそごめんね。あなたからもらったリリックを勝手に見せて」
晴翔「いいんだ。君に渡したものだから好きにしていい。僕が何か言える資格ない」
あずさ「兄に見せて初めて分かったの。あなたがすごく韻を踏んでること。このリリックを作る為にいっぱい考えてくれたこと。その気持ちを初めて理解して嬉しくなった」
晴翔「良かった。伝わって。でも、観覧車でラップするのは間違いだった」
あずさ「ふふふ、確かに最悪だったな。でも今となっては笑い話。ずっと気にしてたんでしょ。でも、もう大丈夫。私は何も気にしてない」
晴翔「そっか、良かった。ありがとね。気持ちが楽になった」
あずさ「そこで、このリリックは返そうと思うの。ずっと持ってる訳にもいかないし」
晴翔「そっかぁ。ありがとう。返してくれて。ちゃんと受け取る」
あずさ「あの時は私も子供だった。好きだったからこそショックであんな態度を取っちゃった。ごめんね」
晴翔「いや、僕の方こそごめん。僕はもっとガキだった」
あずさ「じゃ、時間作ってくれてありがとう。さよなら」
晴翔「うん、ありがとう。さよなら」
立ち去るあずさ。
手紙を開き自分の書いたリリックを読み返す晴翔。
すると晴翔は驚き涙する。
そこにはあずさによって添削されたリリックが書いてあった。
()内はあずさの声
晴翔「Hey yo 聞いてくれ俺のマイソウル(二重表現になってるね) 今日が二人の初デート(本当にドキドキして楽しかったな) 暗いゲート抜けプライベート(頑張って6文字で踏めました) 皆で観に行ったワイルドスピード その時からあずさがだいぶ好き(私もこの頃から晴翔が好きになってたよ) 顔が可愛い 頭もいい 気遣いも出来る性格いい(ちょっと褒めすぎ!でも嬉しい) 全てが完璧三拍子 クラス1の美人森川あずさ その美貌檻から出すな(私の名前で韻踏むの苦労したんだね、頑張った!) こっから先は俺のもの(私は物じゃないんですけど) 後悔させない 惚れたこと 俺がお前を守るから(守るって何から?) なって欲しい俺のハツカノに(なりたかったな) アンサー聞かせて二十日後に じゃなくて今この瞬間 この時に(ありがとう。青春だった)」

○体育館A・控室
はじめ「決勝戦、試合方法が決まりました。人数無制限・再登板なしの3ラウンドマッチ。先に2本先取した方が優勝。全国への切符を手に入れます。相手は因縁の至宝高校。大泉学園最強のカードで勝ちましょう」
テンションを上げるラップ部。
村田「よし、みんな集合」
円陣を組むラップ部
村田「大泉学園高等部」
ラップ部「相手が誰でも堂々言う バイブス・ライム・フローで勝負 我らが最強ラップ部」

○体育館A・試合コート
入場する大泉学園ラップ部
第一試合は至宝高校1年の松竹梅トリオと大泉学園ラップ三銃士の対決
司会進行「MCバトル、レディーゴー!」

ラップパート
大輝「決勝戦第一試合 会場のお客さん調子どう ラップ三銃士は絶好調」
拓海「相手は1年松竹梅 俺らを倒すのは容易くない」
優希「バイブス・ライム・フロー揃った三角形 バランス取れてて死角(四角)はない」
大輝「母ちゃんが作った手作り弁当 食べて俺様大健闘」

梅田「手作り自慢か?馬鹿野郎 俺の母ちゃん冷食弁当 冷凍食品ママの味 食って育った俺の勝ち」
松木「梅田は母子家庭シングルマザー こいつが少しだけ韻踏んだら こいつの母ちゃん喜ぶだろう 今日の主役は梅田幸才」

拓海「梅田幸才 主役交代 先輩後輩 落とすボム アーイ」
優希「冷凍食品 蛍光色に染まったこの世界はまだ明るい 暗い話題はここじゃいらない」
大輝「うちも貧乏なのに三兄弟 家も狭いし環境最悪だが愛情持って育ててくれた母ちゃんに感謝 次はお前の番だ」

梅田「父ちゃんの顔は覚えてない 母ちゃんはいつも家にいない 開けたまんまの缶コーヒー やる暇なかった反抗期」
竹下「金はなくてもラップできる 三人で磨いたラップスキル マイメン・兄弟何度も言う 今日の主役は梅田幸才」

大輝「ラストバース悪いが俺一本 うちは両親健在だが貧乏 金じゃねえけどいつかやる恩返し 出会ってよかったラップ音楽に 痛みも怒りも苦しいこともラップに乗っけて全部吐く 最後に残った家族の愛情 父ちゃん母ちゃんありがとう」
梅田「梅田幸才 幸せに才能と書く いつかは家族と幸せになる 分かるぜラップで毒を吐く じゃないと俺がぶっ壊れる 決勝で一勝もぎ取って実証 俺が主役だ梅田幸才 いくぞ兄弟 見てるか母ちゃん 感謝を伝える大舞台」

○車内
スマホで試合中継を見ながら涙する梅田紀子

○体育館A
審査員札は至宝高校に上がる。
試合が終わり握手する両チーム。
大輝が梅田を抱きしめ耳元で何か言う。
うなづく梅田。

○同・試合コート
決勝戦・第二試合は至宝高校三年波多野と大泉学園三年村田のソロ対決
司会進行「それでは決勝戦第二試合を行います。MCバトル、レディーゴー!」

ラップパート
村田「これで終わりか? 三年の夏 宿命のライバル 完全に勝つ 俺の魂 ここに木霊し お前とガチンコ めちゃくちゃ楽しい さんざん見てきた辞めた奴 ラップをバカにしナメた奴 それでも俺たち三年サバイブ 高校生活最後のライム」

波多野「三年経った そして分かった 俺もお前も天才じゃない だが努力しなければ現在はない 雑草魂 限界はない 夏が終われば受験戦争 大学入試に就職活動 天才じゃない奴の一般コース それでもお前との筋は通す」

村田「これが三年間の集大成 ここから始める起死回生 十年後 二十年後 中年になっても俺はお前とラップしたいぜ 痛いほど分かる 才能はない でもこの瞬間 最高じゃない? 見とけよこれが部長の背中 背水の陣から勝つやり方」

波多野「才能がないのは俺も同じだ 二十年経てば俺も親父だ その時は息子を肩車して なってる社会の歯車に それでも息子にこう言いたい 父さん昔はラッパーだった 最高の相手と最高の試合 言葉の刃で殺し合い」

村田「言葉の刃 真剣勝負 結局最後は人間力 俺の背中にいる仲間 仲間がいるからみなぎるパワー 昔の孤独な俺にも届く お前との勝負が歴史に残る 最終回 ラストバースをキック そして掴んだ全国切符」

波多野「この目で見てきた全国大会 桁違い過ぎる天才たち 喉はカラカラ 足はがちがち 手は震え出して楽しくない ラップを始めた頃は良かった 韻踏むだけで盛り上がった 忘れかけてた初期衝動 お前との試合楽しかった」

○体育館A
審査員札は大泉学園に上がる。
無言で抱き合う村田と波多野。

○同・試合コート
司会進行「それでは決勝戦!ファイナルラウンドを始めます。泣いても笑ってもこれで決着が付きます。先攻、至宝学園、森川勝太。後攻、大泉学園、秋月晴翔&山口ひまり」
森川「てっきりソロで来るかと思ってた」
晴翔「分かってないな。二人で最強なんだよ」
司会進行「皆さんもご一緒にMCバトル」
会場全体「レディーゴー!」

ラップパート
森川「帰ってきたぜ!王の帰還 この世界には王は一人しかいらん ラップ王子と孤高の帝王 一発で仕留める怒涛のK.O 王子が姫を連れてきた 秋月晴翔と山口ひまり 結婚おめでとう秋月ひまり おっと残念 勝てずに終わり」

ひまり「勝手に人の苗字変えんじゃねぇ うちらは夫婦…
ひまり・晴翔「別姓だ!」
晴翔「徹底した韻でお前に対抗 対等で最強の最高の相棒 ハードなハードルも超えてくパートナー これが大泉切り札のカードだ」
ひまり「確かにあんたは王様だよ 王は王でも裸の王様」

森川「裸の王様 果たしてどうかな? 素っ裸でも爆弾投下だ ポーカーフェイスでクールにやる これが王道 王者の品格 仲良しごっこはもう辞めな 汗水流して重ねた努力 これが汗と涙の結晶 ここは決勝 イエスセッショー」

ひまり「汗と涙?笑わせんな こっちは股から血流してラップしてる これが経血 女子の定説 知らない振りしたらあんたを軽蔑 イブにバファリン・ロキソニン ナプキン・タンポン・吸水ショーツ 理屈じゃないんだよ生理痛 男にゃ分からんこの苦痛」

⚪︎体育館A・大泉学園サイド
はじめのモノローグ「やはりこの二人で正解だったな。ひまりという不確定要素にどう向き合う?森川くん」

○同・試合コート
森川「突然出てきた生理の話 隣の晴翔くん何故か野放し 俺に説教垂れる前に 少しは彼氏にラップさせろ 所詮この世は弱肉強食 瞬間のアート MCバトル 俺は知ってる勝者が正義 お前ら倒して全国に行く」

晴翔「さっきのバース俺は傍観者 痴漢に盗撮 強姦は 男の目には見えない被害者 (ひまりを見て)ちゃんとなりたい君の理解者 勝者が決める正義はクソだ 弱肉強食それは嘘だ お前は富裕層恵まれてるだけ 世間知らずのお坊ちゃん」

森川「適当言うな 言葉 無責任だ 己の来た道 自己責任だ 俺には俺の苦労がある イジメられてた小学生 惨めなイジメ 絶望だった ラップで俺は救われた 地獄から這い上がり今がある お前トイレに閉じ込められた経験あんのか?」

晴翔「人は傷つけ傷つけられる 痛みを知るから大人になれる 要領よくは生きられないから 想像力持ってお前と向き合いたい」
ひまり「男と女 富と貧困 ビートの上では誰もが平等 ジェンダーギャップ最悪のこの国で 喧嘩ラップで革命起こす」

スマホ・PC・テレビ・会場など色んなシチュエーションで観戦している人たちの描写、その中にはさくらの姿も。
変身ポーズを決めるひまり

森川「さながらここが革命前夜 マイクの力で取る天下 ジェンダー・イジメに不登校 問題だらけ日本の高校 お前を論破 正々堂々 この世界は元々地獄だろ だったら俺がなってやる 全てを背負い地獄の王に」

晴翔「森川、お前の荷物を少し俺に預けてくれないか」
ひまり「ガラスの天井 地獄の世界 誰かが言ってた未来は暗い」
晴翔「俺もお前もただのガキ 死ぬまでやろうぜ悪あがき」
ひまり「私の言葉で今言いたい 決して未来は暗くない」

森川「至宝の看板背負ったエース 命をかけたワンバース 敗北なんて俺にはいらない 勝つことだけが俺の正義」

ひまり「思いは彼方 大切な仲間」
晴翔「この一瞬 これが青春」
ひまり・晴翔「大泉学園高等部」
大泉学園ラップ部全員「相手が誰でも堂々言う」

審査員札が大泉学園に上がる。
司会進行「勝者・大泉学園」
湧き上がる会場

○同・試合コート
握手するひまりと晴翔。
ひまりの方から晴翔を抱き寄せる。
ひまり「晴翔先輩、私達勝ちました」
晴翔「ひまり、好きだ。彼女になってください」
ひまり「ちょっと焦りすぎ!」
晴翔「ごめん、思いがあふれて」
はにかむ晴翔。晴翔の顔に手で触れるひまり
ひまり「ふふ、先輩かわいい」

○同・至宝高校サイド
あしたのジョーみたいに燃え尽きた森川
松木「真っ白に燃え尽きてますね、森川先輩」
竹下「ほら、こういう時は部長から声かけないと」
波多野「えぇ?俺?俺こういうの無理だよ」
森川「波多野部長!」
波多野「はい!」
森川「今度一緒に練習してもいいですか」
波多野「あ、当たり前だろ~」

○同・試合コート
大盛り上がりする大泉学園ラップ部
「優勝だー!」「全国だー!」

○同・大泉学園サイド
ひまりのスマホが鳴って、メッセージが届く。
そこにはさくらからのメッセージが「ありがとう、私のヒーロー」
続いて、さくらが変身ポーズを決めた写真が送られてくる。

<おわり>

#創作大賞2024 #恋愛小説部門

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