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小説『君たちはどう生きるか』に出てくる「水玉」について


コペル君は、いつの間にか、その潮の中の一つの水玉となりきっていたのでしたーーー

1章:へんな経験 岩波文庫p19

君は、今まで君の眼に大きく映っていた偉人や英雄も、結局、この大きな流れの中に漂っている一つの水玉に過ぎないことに気がつくだろう。

5章:ナポレオンと5人の少年 岩波文庫p187

これら引用箇所における「水玉」には注意が必要です。
物語の全体を通しての重要な概念です

いまの私たちは普通、「水玉」と聞けばそれはすなわち「水滴」を意味するものだと考えてしまうのがほとんどではないでしょうか。ですが、「君たち」における「水玉」は、その意味で使っていないことがはっきりしています。

まずは、2つ目の引用箇所の「水玉」に注目して下さい。
「流れの中に漂っている水玉」というのは何でしょうか?

水滴が水中に漂えば、それはもはや水滴ではありません。水滴ひとつ分大きくなった水でしかない。

ですから、ここでの意味は、「水玉」の2つ目の意味、「」という意味で使われているに違いないのです。

そこから、2つ目の引用箇所の「流れの中」というのも「水中に」という意味ではなしに「流れの水上に」の意味であることも同時に推測できます。泡は水中に沈んでしまわずに、水上に「浮かぶ」ものですから。

さて、泡といえば古語においては「うたかた」と表現されますよね。


方丈記には

淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。

という一文があって、とくに有名ですよね。

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