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『ラークシャサの家系』全26話

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オレたちは鬼なのだ・・・2000年以上の長きにわたり、その時代の統治者のもとで、秘密裏に関係を築いてきた人と鬼。令和の今も、誰にも知られることなく人の生活に溶け込む鬼たち。埼玉県… もっと読む
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#南与野

『ラークシャサの家系』第6話

◇「還暦のベーシスト」 翌日の朝、会社の正門で待ち合わせ。今日は井村明子の聞き取り再挑戦。 オレは少し早めに来て、車の中で待っていた。 ”ボボボボボ・・・バウンッ!ボボボボボ・・・” 今日もB16Aは絶好調。直4らしからぬ低音を奏でている。 「すみません。お待たせしましたか?」 「いや、さっき来たところだ。ところで昨日の夜、メールで送ったあのトレーナーの件、話聞けそうか?」 「えぇ、一応、プロダクションとはアポがとれました。」 「それならまず浦和か?」 「えぇ、ちょっとルー

『ラークシャサの家系』第7話

◇「県警の七瀬」 最近整備されたばかり綺麗な大通りと、新旧入り混じった閑静な住宅地。近くには、大手チェーンの回転寿司や焼肉レストランが立ち並ぶ。今では、全国どこでも見ることができる、埼玉県発のファッションショップもある。ずいぶんと住みやすそうだな・・・これが最初の印象だ。あの残虐なアチュートが、隠れているような街には思えない。  さて、まずは桜区西堀10丁目8X−XX、斉藤和也のほうだが・・・ ”ガチャ、バーーン”  また、そんなに強く閉めなくても・・・ ”ガチャ、バン

『ラークシャサの家系』第8話

◇「井村家」 桜区10丁目から中央区大戸6丁目の上野が住むアパートまでは、直線距離で500mほど、車では1分とかからない距離だった。七瀬に、なぜ斉藤に上野との関係を確認しなかったのか?と聞いたが、それだから素人なんですよ、と鼻で笑われた。  七瀬が言うには、あひるっ子トレーナーに応募するぐらいの熱心なファンで、しかも近所に住んでいて、そんな環境でお互いを知らないはずがない。逆に上野の名前を出せば、変に警戒させて捜査に支障が出るだろうと、それでなくとも、おそらく斉藤から上野へは

『ラークシャサの家系』第22話

◇「これって失恋?」 季節的に、日が傾き始めると少し肌寒い。この世界をまるで赤の薄いシートで包んだかのように、視界が赤く染まる。  逢魔が時、オレの五感はジャミングを受けたような煩わしさ。 そして不思議なほど静か・・・ ガチャ、バーーン”  もう、七瀬さん、そんなに強く閉めなくても・・・ 「ふう、このあたりってなんか良い感じですね。お店もいっぱいあるし、駅まで近いし、歩道も広々としてる。なによりも街が綺麗で静か。キダさん、私と一緒に、二人で住みませんか?」 「ゴホッゴホ