好きなゲームを語る(最終日 リカーーーリング)

基本データ


リカーーーリング
作者: 賽苑(個人名でなく、サークル名です。個人名は出ていないようです)
適正プレイ人数: 4人
プレイ時間: 4人4ラウンドで50分程度

ゲームの概要


nのカードがn枚含まれているセットで行うゴーアウト風ゲーム。複数枚のカードを出すには数字が揃っていなければならず、かつ出せるのはその時点での場札に対し「同じ枚数でカードの数字が小さい組」か「1枚多い組」のみとなっています(例えば7の3枚組に対しては4の3枚組、9の4枚組、4の4枚組などが出せる)。
このゲーム最大の特徴は、カードを出すたびに直前に場にあったカードを回収するというルールであり、このルールのおかげで狙って手札の揃いを良くすることができます。
自分の出したカードに対し全員がパスしたら、最後に自分が出したカードを自分の得点とすることができます。ゴーアウトゲームのような進行をするゲームですが、目標は手札をなくすことではなく得点を多くとることです。誰かの手札が瞬間的に0枚となることがラウンド終了のフラグですが、このフラグを立てることはゲームの目標でなく、勝敗を決するのはあくまで得点であることに注意が必要です(フラグを立てた人は得点におまけがもらえるので、全くの無関係ではないですが)。

キャッチコピーの「みんなの想いがぐーーーるぐる」が非常に秀逸で、場が流れたときの場札以外は世の中から消えず各人の手札を巡り続けるので、中盤にもなると様々な想いが詰まったカードを受け取ることになります。カードから「くらえ嫌がらせの9!」とか「出したくないけれど仕方ないんすよ!」とか聞こえてきます。ろくな想いでないな!?

このゲームの特長


1.手札がガラス

一度場に出たカードは所在が明らかになり、逆にカードの所在を不明にするイベントは発生しないため、ゲームが進行するにつれて誰が何を持っているか分かるようになってきます。最終盤ではほぼ全てのカードの所在が分かっていることも稀ではありません。
これにより、今自分の手にあるセットがどのくらい通りやすいのかが判定できるようになり、セットを出すかどうかの判断に実力差が出るようになっています。
また、ほとんどの手札がガラスだからこそ他の人に見えていないカードにはそれ自体価値があります。手札に5枚の9があるとして、その5枚全てが回収したものであればあなたに向かって無策の4枚組で押してくるプレイヤーはいないでしょうが、5枚中2枚が初めから手札にあったものであれば4枚組で通る見込みがあると飛び込んでくる可能性はあるでしょう。このように、全く同じ手札であってもその全てが見えているのか隠れているカードがあるのかで違いが出ます。渋いっ!


2.ハードパスと、「場札は1枚から」「場札+1枚までしか出せない」

1.に記したとおり、中盤にもなると強いセットがどこにあるかが大体見えてきます。このゲームでは自分の強いセットを相手に返されるとそのセットが相手に渡る上に相手に得点を取られるので大損になります。そのため、自分の主砲セットより強いセットを持っているプレイヤーがいる限りは主砲を撃てず、全員通しての最強セットを抱えているプレイヤーが圧倒的に有利…と言いたくなるところですが、その優位は絶対ではありません。一度パスしたら場が流れるまでカードを出せない、ハードパスのルールがあるためです。このルールのおかげで、たとえ全体での最強セットを持っている人が他にいても、その人が一度パスしてくれれば安心して主砲を通すことができます。
最強セットを持っている側の立場としても、このゲームではカードを出せば出すほど手札が減って弱くなっていきますから、どこまで付き合うかは考えどころです。
これだけでもなかなかの工夫ですが、このゲームはさらにもう一段上を行きます。それが「場札は1枚から」「場札+1枚までしか出せない」のルールです。この2つのルールにより、場札の枚数は必ず少ない枚数を経由します。その結果、手札は揃っていれば万事よしではなくなります。例えば手札に5の5枚セットがあるとしましょう。これは6枚以上のセットでないと返せないのでかなり強力なセットです。しかしもし手札がこの5枚だけであればそれは見た目ほど強い手札とは言えません。ハードパスである以上5枚になる前の段階に付き合わねばならず、結局崩す羽目になるからです。このような事情があって手札の良し悪し判断は単純でなく、それゆえ今出ている場札を取って参加し続けるべきかの判断も難しくなります。この塩梅が非常によく、「単純な基準では判断できない」「しかし全く判断が利かない五里霧中でもない」程よいところに収まっていると思います。


3.これで完成とした英断

驚くべきは、この戦略性を数本のルールで実現していることでしょう。説明書は紙一枚で、しかもほとんどが絵です。インストにかかる時間も数分で済みます。そのくらいの、ごく僅かなルール量です。それでここまで作れるものかと驚嘆しました。
否、それでここまで作れるものかという感想自体、おそらく見当外れでしょう。シンプルであることと面白さとは対立する要素でなく、むしろシンプルだからこそ面白くなっている、と見るべきです。余計なものが排されているからこそ読みが立ち、工夫する意味があるのです。もしこのゲームに「9が出たら各プレイヤーは手札を1枚左隣に回す」とかついていたら、ほとんど全てが壊れていたことは想像に難くありません。こういうルールを追加したら変化がついて面白くなるのではないかと囁く誘惑の全てを断ち、このルールで完成していると上がりを申告したことこそが、このゲームを作った人たちの最大の功であると思います。

もし最高の一作を選べと言われれば


私がこれまでにプレイしたアナログゲームの中で好きなものをただ1つ選べと言われれば、今のところこれを選ぶ確率が最も高いでしょう。そのくらいの完成度を誇る芸術作品です。

こんな人にお勧め

非常に面白い体験を与えてくれるゲームではありますが、プレイヤーへの要求も高いです。
考えなしにテキトープレイする人が一人いると破壊されてしまうゲームなので、全プレイヤーのゲーム慣れがある程度の水準に達している必要があります。
刻々と入れ替わる相手の手札をある程度覚えていられる記憶力は確実に必要です。またその上で「自分がこれを出すとおそらくこの辺が出てきて…」と先読みすることもあるので、相手視点で読みを立てる能力なども必要となります。
このゲームを楽しむためのハードルはそこらの中量級ゲームより高いと思います。偉そうなことを書いている私もまだこのゲームを楽しみ尽くせるほどの実力に届いていないでしょう。なんにせよ、技量があるほどに楽しめるゲームなのは間違いないと思います。
世の中のゲームを遍歴した先に、アナログゲームの一つの完成形を知りたいと思う人向けだと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?