Wizardry外伝五つの試練 自作シナリオ「新米冒険者の訓練場」制作指針

なぜこのシナリオを作ったか?


初プレイ者向けのチュートリアルに徹したシナリオが私の知る限りなかったからです。
折に触れて仕掛けを説明してくれる親切シナリオや意図的に難度を下げているシナリオはありますが、根本のシステムを解説してくれるシナリオは私が知る限り公式の「偽りの代償」が初めてのように思えました。
その後「隠密を追う冒険者たち」も同様の設計を目指して作られたようですが、こちらはまだプレイできていないので言及は避けます。

そして「偽りの代償」は、システムのチュートリアルを行った点で間違いなく快挙なのですが、教え方にいくらかの不満点があったのも事実です。
特に、最初のフロアであまりにも多くの「経験を伴わない知識」を聞かされるのがきつすぎると感じました。
あの部屋は説明書のようなものだから、必要となったときに戻ってくればいい…とはいきません。それが既に「一通り知っている人」の発想で、初プレイ者にはどれが重要でどれが重要でないかよく分かりませんから全部真面目に読まざるを得ません。予備知識がなければ情報の取捨選択も困難です。

そして、転職やスペシャルパワーなど序盤に使わない要素まで混じっている点も気にかかります。これらはこの「講義」を必要とするプレイヤーが1階で聞く話ではない、と思ったのでした。

Wizardryは、慣れた人にはそう感じないかもしれないですが、複雑なゲームです。戦闘一つとってもACの説明、射程の説明に未識別名の説明くらいないと「ナニコレ?」が発生しますし、戦闘が終われば宝箱、城に帰ったら宿屋に鑑定、ダンジョンの仕掛けも多彩。要素もりもりです。
紹介する要素を本気で絞らないと、初プレイ者は圧倒的な情報過多の前に混乱するばかりでしょう。

※否定的に書いていますが、「偽りの代償」のその後の構成については私は文句はありません。楽しませていただきましたし、良いシナリオだと思います。
弊シナリオが某塾1階の教育方針への不満からきている以上どうしてもそこがクローズアップされた書き方になってしまっていますが、全体としては満足していることを書き添えておきます。


さて、五つの試練にはエディタがありますから、「不満があるなら自分が作ってみろ」となります。
その結果生まれたのがこのシナリオです。
話す内容を絞り、経験を伴わせて順々に学んでいってもらおう。これがこのシナリオのメインコンセプトとなっています。

低難度、されど…


全体的に難度は低めです。
最初のほうの戦闘はいわゆるAボタン連打で勝てます。3階、4階は少し厄介な敵、強い敵も出てきますが、一般的なシナリオに比べれば出現数が少なめになっています。
なので、ルールを一通り知り、無茶なプレイを慎めばほとんどの人はクリアできるくらいになっています。

しかし、初プレイ者はこの難度でも、「無茶なプレイを慎む」までの途中過程でキャラクターをそれなりに殺すと見ています。道に迷っていらぬ戦闘を行うでしょうし、戦闘後の回復を忘れるでしょう。シングルチェックで宝箱を開けるでしょうし、毒消しの補充を忘れたままガス爆弾を引くでしょう。プレイヤーによっては注意深さの問題でなく「死んだらフェニ尾使えばいいや」みたいな感覚から死者を出すこともあると思います。

それを通して、学んでいってもらいたいと思っているのです。初プレイ者に与える試練は、その脅威を正しく知れば容易に回避可能なものであるべきです。スペルブラスターは宝箱をダブルチェックし、スペルブラスターと出たら開けなければほぼ回避できます。(五つの試練屈指の凶悪罠をあえて採用したのは、「宝箱は全てチャレンジするのが当然」と学んでほしくないためです)毒消しをちゃんと補充していればガス爆弾は怖くありません。

それができるようになればもはや「初プレイ者」の域ではないので…さっさと卒業して次のシナリオに行ってください。

このシナリオで解説する範囲


・このシナリオ以外のシナリオの特定のモンスターやアイテムに関する話はしない。
「ウサギみたらヤバい」「青くてでかい悪魔は魔法効かない」「紫の巨人はサフォケーション」「先生はカモ」というような話は、別にウサギがヤバくないシナリオがあってもいいし青くてでかい悪魔が魔法全通しのシナリオがあってもいいし、紫の巨人にサフォケーションがきかないシナリオがあったって一向に構わないので入っていません。
1階にいるクリティカルがないウサギはその象徴です。同じグラフィックの敵にシナリオごとに異なる個性が与えられるのが五つの試練の良いところ!

・ややこしいことは省略する。
最も顕著なのが射程の説明です。
戦闘を行ったら「なぜ4人目以降のキャラに戦うコマンドが無いんだ?」となるのは必然なので、射程の説明は最初の方に行わなければなりません。しかし経験者はご存じ、wizardryの射程には結構ややこしい細則があります。それを全部最初の戦闘前に長文で聞かされた日にはゲームそっ閉じ案件です(今思えばこういう時に外部から解説用の図を取り込めばよかったのか?)。
射程に限らず、経験者視点で随分端折ったなと映る点はあります。ただ、最初の方は特に説明せねばならないことが多いので、知らなくてもちょっと困るで済むくらいのことは省略することにしています。

・「RPGの常識」に類するものを除き、テクニックに関する話はできるだけしない。
説明するのはあくまでルールまでで、テクニックは自分で気付いていくことを重視しました。パーティの分離合流を利用したアレコレやオートマップ上でダークドアを探す、飲んだくれ司教など、こういったものは追い追い気付くことで感動を得られるものという位置で考えています。
定石テクニックを学ぶシナリオではなく、定石テクニックを知らなくても何とかなるシナリオを目指したということです。テクニックまで話し始めたらますますガイドのおっさんたちがうるさくなってしまいますしね。
(馬小屋ヒールだけはさすがに気付かなかったときの影響が大きすぎるので説明しましたが。)

所持金0スタートの理由


このシナリオは初期持ち金・アイテムがないという、チュートリアルにしてはやや不自然に思える点がありますが、当然理由があります。
それは、「初めてのプレイヤーは「AC」の意味が分からない」「初めてのプレイヤーは射程ルールを知らない」ということです。これを知ってからでないと、適切な買い物はできません。AC-2とAC-4のどちらを買うべきか分かりませんし(名前的に鎧のほうが固そうではありますが)、6人目まで装備を買い揃えてから後出しで射程の概念を持ち出されて後衛の装備無駄な出費だよって言われたらちょっとイラっとします。
ACにしろ射程にしろ最初の方で解説する事項ですが、説明より先に買い物をさせるとまずい買い方をされる可能性があるのです。頭が回るプレイヤーならが頭が回るがゆえに、「盗賊や魔法使いはHPが低いのか。ならこいつらの防具が最優先だな。」と考えてもおかしくありません。
初期装備で武器と鎧だけ持たせておくのは一案ですが、1階の武器や鎧のドロップが完全にハズレ枠になってしまいます。

そんなわけで、初期装備・持ち金は無しとし、素手の攻撃で倒せ、裸でも大して痛くない雑魚を最序盤に配することにしたのでした。初プレイ者なら「Wizardryは1階から敵が強い。6ダメ8ダメを当然のように飛ばしてきて、ちゃんと装備買って本気出さないと命が危ない」という「先入観」もないでしょう。(もちろんこれで「1階は楽勝なゲーム」と学ばれても困るのでフォローのセリフを入れました)

採用しなかった要素たち


呪い、友好的な敵、SP…いずれも、あれば華が添えられますが無くてもゲームは成立する要素です。
最初の方にも書いた通りWizardryは意外と要素が多いゲームなので、削れるところは削らないと文章が爆発します。


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