好きなゲームを語る(1日目 Onirim 最初の旅と七つの書)

基本データ

Onirim 最初の旅と七つの書
作者: Shadi Torbey
最適プレイ人数: 1人
プレイ時間: 15分程度(拡張を乗せるとその分長くなり、最長30分程度)

ちょっと補足
ゲーム「Onirim」ははじめ、入っている拡張ルールが少ない初代版が出版されており、その後拡張の数を増やした同作者のリメイクとして「Onirim 最初の旅と七つの書」が出たようです。なのでこれは初代版の拡張ともとらえられます。私が持っていてOnirimだと認識しているものは正確にはこの「Onirim 最初の旅と七つの書」の方です。今回のゲーム選定にあたりこの拡張をどう扱うかで少し悩みましたが、たとえ拡張が少なくても名作には違いなかろうと見て10選に入れることとしました。

ゲーム概要

夢の世界を放浪し、扉を見つけて脱出するストーリーの1人用ゲーム。
プレイヤーは(主に)迷宮カードで構成された山札から5枚の手札を持ち、そこから場にカードを出すことで夢の世界を進んでいきます。カードに書かれたシンボルによる制約を守りながら同じ色のカードを3枚連続で出すか、または扉のカードと同色の鍵のカードを揃えることでその色の扉を開けることができ、山札が尽き手札が引けなくなるまでに4色各2つずつの扉を開けることができれば無事脱出となります。
しかし山札にはプレイヤーの探索を妨げる「悪夢」のカードが潜んでいます。このカードをめくると、その瞬間に手札から鍵のカードを捨てる(鍵のカードは貴重です)、既に見つけた扉を山札に戻すなどの悪い効果から1つを選ばねばなりません。これによって夢の世界の探索はときに大きな方向転換を余儀なくされます。
目の前の状況と山札の残りを常に考え、最善手を追いましょう。

このゲーム以前にも1人用ゲームは存在しましたが、この一作を境に一人用ゲームは「サイコロの目が大きければクリアできるゲーム」から大きな一歩を踏み出したように思います。1人用ゲームの黎明と言える一作だと思います。

このゲームの特長

1.ギリギリの勝負を多くする工夫

このゲームは山札が引けなくなったときに敗北となるので、山札がそのまま使用可能な資源となります。ここで通常の迷宮カードを1点、鍵のカードを3点としてカウントすると、扉を開けるためには最低3点分のカードが必要、悪夢に対処するにも大体3~4点分のカードが必要など、各アクションに必要な点数が大体固定されていることが分かります。このため、80枚以上のカードを使用しているにもかかわらず最終的な消耗枚数は多くが15枚程度の範囲に収まります。そしてその揺れの中央付近に勝敗の境界があるため、クリアにしても数枚余り程度、ゲームオーバーにしても数枚足らず程度の、境界付近の勝負となることが多くなります。
1人用ゲームは、順調に進みすぎて緊張感無くクリアできてしまった回や引きが悪くて何もできずにゲームオーバーになった回が多いと印象が悪くなりますが、このゲームは数理的な工夫によってそれらを巧みに回避していると言えるでしょう。
数理的な工夫だけでなく、ゲーム全体の傾向としても、決まると著しく有利になるコンボなど一気に戦況を変える要素が少ないため、他の何をおいても特定のコンボの成立を目指すような極端な戦略は通用せず、少しずつ有利を積み重ねていくこと、不利を小さく抑えることが重要となる作りとなっており、常に油断ならない進行が楽しめます。


2.終盤にかけて変わる思考の方針

拡張を入れない基本ルールにおいて、各扉を獲得するためにはその色のカードが必要となります。したがって山札は十分あってもその中に所望の色のカードが無くなればクリア不可能となります。このため終盤は他のカードを多く捨ててでも特定の色のカードを守る動きが必要となることがあります。手札に赤の鍵がある状態で悪夢のカードをめくったとしましょう。悪夢に対し鍵のカードを捨てることで対処するのは平時であれば比較的効率の良い対応ですので中盤まではそれが正着となりますが、ゲームも終盤となりその鍵が赤の扉を開けられる最後の手段ならばそれは捨ててはいけないことになります。
このようにゲームが終盤になるにつれて残りカードの状況から序盤と異なる手の良し悪しが発生し、ゲームに変化がもたらされています。状況が危うくなっているのに気付かずに漫然と手を打っているといつの間にか悪手を打っていることもあり、この点でもやはり油断ならないゲームです。そこがいい!


3.多彩な拡張を支える、1人用ゲームという枠組み

「Onirim 最初の旅と七つの書」には8種類もの拡張ルールを加えることができます。これらの拡張は複合もできるため、数字の上では256通りのゲームで遊ぶことができます。各拡張は概ね1対の「プレイヤーに有利な要素」と「プレイヤーに不利な要素」を加えるものにとどまり根本のルールを変えないものが多いため、割と自由に組み合わせが利きます(もちろんゲームバランスが悪くなる、食い合わせの悪い組み合わせも存在しますが)。
そしてこの多彩な拡張を支えるのが、これが1人用ゲームだということです。アナログゲームの拡張には合う合わないの話がつきものです。同じ一つの拡張を見てある人はプレイ感が変わって面白いと言い、ある人は無印のプレイ感が失われてつまらないと言う、そんなことはよくあることです。拡張を入れるか入れないかで揉めることもあるでしょう。
しかしこれは1人用ゲームですから、プレイするのは自分だけ。自分が気に入った拡張は入れ、気に入らない拡張は入れなければよいのです。大量に用意された組み合わせの中から自分が最も面白いと感じる組み合わせだけを偏食に100プレイしても、誰もそれに文句は言いません!

こんなプレイヤーにお勧め

一人用ゲームを欲する全ての人に勧めたいところですが、特に、カード効果を組み合わせてどうこうするより色と数字の組み合わせでベストの結果を目指すゲームに惹かれる人にはお勧めしたい作品です。TCGによくみられるような爽快カードコンボを求めている人には合わないかもしれません。


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