好きなゲームを語る(9日目 The CREW)

基本データ


作者: Thomas Sing
適正プレイ人数:4人
プレイ時間:1ゲームは10分ほどですが、クリアごとにノルマを更新してストーリーを進めていく形式なので少なくとも60分、できれば120分くらいはプレイ時間を取っておいたほうが良いと思います。

ゲーム概要


協力型のトリックテイキングです。説明書に記載された50のノルマを次々にクリアしていきます。ノルマには特殊なものもありますが、多くは以下の手順により決定されます。
1)プレイヤーに配られる手札とは別に目標を決めるためのカードがあり、それを規定枚数めくります。それには手札同様、スートとランクが書かれています。
2)オープニングリードを行うプレイヤーから順にそれを1枚ずつ取っていき、自分の前に置きます。
この操作で各プレイヤーが選び取ったカードがそれぞれのプレイヤーの目標となり、そのプレイヤーはそこに書かれているカードを含むトリックを取る必要があります。そのカードが出て、取りそこなったらその瞬間に失敗です。マストフォローなので、迂闊なことをすると1トリック目でいきなり失敗になります。目標カードを受け取った全員が指定のカードを取れればクリアとなります。ただしノルマによっては達成順などに制約がつく場合があり、その場合はその制約も守らなければなりません。
このゲームでは基本的に手札に関する情報を離すことは禁じられていますが、自分の手札状況を部分的に他プレイヤーに伝える「通信」の権利が1人1回ずつ認められており、通信では自分の手札の1枚を見せて「これがこの色の最高ランクである」「これがその色の最低ランクである」「これがその色で唯一のカードである」のいずれかを言うことができます。これによって目標の達成方法を打診したり手札の危険性を伝えて事故を防いだりができます。しかしこの権利は1ゲーム中1人1回なので、どの情報を伝えればいいのか、あるいは今は保留して状況が動いてから出すべきかとよく考える必要があるでしょう。
説明書記載の50個のノルマは目標カード1枚の簡単なものから始まり、特殊なノルマも挟みつつだんだん難度が上がっていき最終的には目標カード10枚の激難ノルマが待ち受ける構成となっています。これを全ノルマ制覇することが、このゲームの最終目標となるでしょう。

このゲームの特長


1.これこそが「読み合い」

読み合い、心理戦を謳うゲームは数あれど、そのほとんどでは何ら読んでなどいなかったのだと感じさせられるのがこのゲームです。対立型ゲームの読み合いでは、ある程度プレイヤー間に共通認識が生まれるとそこから先は裏をかいて裏の裏をかいて、そのまた裏を…と、往々にして埒が明かない偶奇当てになってしまいがちです。この問題は、虚か実かの読み合いを主軸にしたブラフゲームが常に抱える問題であり、ブラフゲームを作るとなればいかにこの終着までを引き延ばすか、あるいはいかに終着後も味を感じさせるかは一つの関門でしょう。
しかし協力型の読み合いであれば裏をかく意味はありませんから、この話は無縁のものとなります。発信側は自分の手が最も伝わるのはどのような情報かと考え、受信側はその情報から相手の手札を予測すればよい、事はそれだけなのです。そこにはミスはあるかもしれませんが、嘘はないのです。だからこそ、打ち切ることなく深く読めるのです。


2.だんだんエスパーになっていく楽しさと、それが崩れる楽しさ

このゲームは繰り返すにつれ、だんだんと手札の推測能力が上がっていきます。慣れてくると通信ルールで発信される手札情報だけでなく選んだ目標カードやリードで出したカードなども加味できるようになり、初プレイ時と比較して明らかに的確な推測ができるようになります。これはいかにも成長を感じられて気分よくなれるところですね。その快感を支えているものは、その推測はたとえ初プレイ時であっても全プレイヤーが猛烈に賢いトリテ星人ならば思い至る、という点です。
情報伝達に制限のある協力ゲームでは、プレイするコミュニティ内に暗黙の了解が発生することで有利になることがあります。例えば多人数協力ゲーム「ミステリウム」において、ゲームが繰り返されるにつれて「このカードはこの人物を表しやすい」と了解ができてくると、その情報の分有利になります。しかしこれはプレイヤーの推察能力が上がったゆえの有利ではなく本来は認められていない事前打ち合わせをしたゆえの有利なので、今一つ喜べないところです。そんな私もThe CREWには満足。多くの場面では暗黙の了解を要しない論理で読みが成立するので、自分達の読みが鋭くなった、自分達の実力が上がったのだと思えるのです。
そんな素敵なエスパー体験ができるこのゲームですが、ときにそれが破られるのもまた良いプレイ体験です。伝えたい情報が2つあるとき、その片方は伝えられない。最初からのボイドは能動的に伝えられない。どうしても、重要なことを伝えられない局面はあり、それによって鉄壁のエスパー網が崩れることがあるのもまたこのゲーム。そんなときに「ええっ、そこの手札そんなことになっていたの!?」と驚くのもまた、このゲームの楽しさでしょう。

ちょっと補足・深海編との違い
続編として出ている「The CREW深海」は、目標カードの内容が一新されており、「赤のカードを緑のカードより多く取れ」「出たカードのランクがみな6以上であるようなトリックを取れ」のような色物目標が配られるようになります。
毎回全く違う方向性の目標が配られるので、回ごとに一から立ち回りを考える楽しさがあります。しかしそれは同時に過去のプレイで得た知識を以降のプレイに生かしにくいということなので、精緻な読みを的中させて盛り上がる頻度は下がっています。ここは一長一短で、個人的には鋭敏極まる無印の方が好きですが、あくまで相対的なもので深海も十分面白いですし、多くの人にとって長く遊べるのは深海の方だと思います。

こんな人にお勧め


言わずもがな、他人の手を全力で読みたい人、自分の手を全力で読まれたい人にお勧めです。また、帽子パズルはじめ囚人が協力する系のパズルが好きな人にも割と合うのではないかなと思います(それらパズルほどガチガチではありませんが)。
トリックテイキングの最低限の知識、マストフォローのトリックテイキングでどういう動きが起こりえるかは知っている前提なので、トリックテイキング自体未経験の人がいる卓で挑戦するのはお勧めしません。まずは普通の対戦物から始めた方がよいでしょう。

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