旅は道連れ世は情け
旅は道連れ世は情け。
旅先で出会った素敵な人々を紹介してみよう。
広島は呉、軍艦の町。
戦艦大和ミュージアムに行きたくてこの地を訪れた。
1/10スケールの戦艦大和。言わずと知れた、悲劇の巨大戦艦。そこにあるだけで、悲しみの歴史を語りかけてくる特攻潜水艦回天。息が詰まるような声なき声がガラス張りの明るい館内に溢れていた。
愛する人を守るために散っていった先人の大和魂に熱い思いを胸にたぎらせ、うっすらと涙を浮かべて館を出た。
興奮冷め止まないまま、居酒屋に入った。
暖簾をくぐって、中に入ると、まだ5時の鐘が鳴らない時間だというのに人でごった返していた。
「お客さん、すみません。席一つ詰めてもらえますか」
板場さんがカウンター越しに威勢の良い声を飛ばす。
一組のカップルが、はいはい。と、気前のいい声で答えて、席を一つ開けてくれた。年の頃なら50歳前後と言ったぐらいか、角刈りのがたいのいいお兄さんだった。
私は、すみませんと会釈してカップルに答えた。
私なんかは、親が戦後生まれなので戦争なんて知る由もないのだが、まるで体験してきたかのように、興奮気味に連れと話していた。
すると突然、左隣からにょきっとビール瓶が私の目の前に現れた。
席を開けてくれたカップルのお兄さんだった。
「兄ちゃん関西かい?」
お兄さんは、「ほれ、グラス持ちな」と言うように瓶ビールの口を振って催促した。
「あっ。すみません」
「ここは、呉だ。よそもんがきたら、歓迎してやらんと、呉の名落ちだ」
兄さんはそういって、なみなみとビールをグラスに注いでくれた。
「いただきます!」
体育会系の兄さんには体育会系後輩のり!鉄則である。
「この人はそういう人だから、ごめんなさいね」
ひょいと兄さん越しに顔を出した女性が、艶っぽい笑みを浮かべて私に会釈した。
(*´ェ`*)ポッ
「よし気に入った!兄ちゃん次行くぞ!」
兄さんの店に連れて行ってもらい。これでもか!というほどに、飲まされた。いや、もてなしていただいた。
「日本の国は俺たち日本人が守らなきゃいけん!!」
と終始、ちょっと右寄りの兄さんだったが、郷土と祖国をこよなく愛する素敵な日本人に出会えて、うれしかった。
アリガト\(^^\)(/^^)/アリガト
ばんえい競馬が経営不振でなくなるかもしれないと、まことしやかにささやかれていた。
これは、行っておかねば!
ペルシュロン種、ブルトン種、 ベルジャン種。体重が1トンにもなる重種馬が目の前を闊歩する。
でかい! すげー!
松風や黒王はペルシュロンに違いないと勝手に確信しながら悠然と歩く巨馬を見上げる。
勝ち馬投票券は散々なものだったが、重種馬が人を乗せたそりを引いて、山を登り、滑走する姿に感動を覚えた。
かっこいい!
輓馬の興奮そのままに、帯広の町に繰り出した。
お客さんが5人も入ったら満席といった風のこじんまりした屋台が立ち並ぶ北の屋台の一軒に飛び込んだ。
なかには60代の地元のお兄さんが2人、東京から新婚旅行で来ていたカップルが二人、先客でいた。私が入ると、全員で5人。満員御礼。
地元のお兄さんたちは、帯広愛に溢れていた。
「こんな田舎町に新婚旅行で来てくれるなんて嬉しいねぇ」
「輓馬は帯広の宝だ!」
等々
「よし、せっかく帯広に来てくれたんだから、もてなさねぇと、帯広の名折れだ。帯広らしいところに連れて行ってやる」
と、立ち上がった。少し当惑したが、兄さんたちに恥をかかせるわけにはいかない。それに、少しの好奇心。
「ありがとうございます」とその場の全員が立ち上がった。
兄さんたちが「ここだ、ここだ」と、必要以上に重そうな鉄の門を開ける。
すると中から、「いらっしゃ〜い」と、女性たちに出迎えられた。
兄さんたち以外の3人が顔を見合わせた。出迎えたおねぇ様方3人は、愛想よく兄さんたちを出迎えると、私たちもソファー席に案内してくれた。おねぇ様方はいずれも、野太い声。分厚い化粧の下には、青い髭剃り跡。
そこは、まぎれもなくおカマバーだった。
帯広らしいところって……
しこたま、帯広のおカマの不遇さを聞かされて、話もそこそこに、お暇させていただくことにした。
「もう帰るのか?」
と、兄さんたちは残念がったが、よそ者3人衆は最初の一杯だけ御馳走になって、その場を立った。
もう充分です。お兄さんたちの帯広愛は伝わってきましたよ。
口には出さなかったが、心の中で目いっぱい帯広人の心意気に、感謝してホテルに帰った。
m(_ _"m)ペコリ
また、旅に行きたいなぁ。
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