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[聴こえるはずのない声#テレ東ドラマシナリオ]鏡よ、鏡、美しいのはどの私?

https://note.com/zawapapa7/n/n1855c2a8916

【#100文字ドラマ】聴こえるはずのない声 を元にして書いた短編小説です。
メイク道具が喋り出すところや、鏡の中の自分が自分の知らなかった部分を見せてくるところにユーモアを交えて、コメディタッチにしてみました。


(あらすじ)

千紗は常に完璧なメイクを目指す美容部員だ。ある日、彼氏が起きてくる前にメイクを済ませようと千紗が化粧台に座った時だった。急にメイク道具から声が聞こえてきた。乱暴に扱われたメイク道具は千紗の顔のコンプレックスをついてくるようなことを言い、千紗のいつものメイクを狂わせた。
次の日、なぜかメイクをしても鏡の中の千紗はすっぴんのままだった。こんな姿私誰にも見られたくないと千紗は仕事を休み、彼氏が会いたいというのも拒んだ。
鏡に映るすっぴんの自分をもう一度見つめたとき、鏡の中の千紗が喋り出した!
鏡の中の千紗は本当の自分の姿を映し出すと言い、千紗の醜い部分を見せた。
「これもあんたなんだからね。」
そして最後に鏡の中の千紗は秘密を教えてくれる。
「あんたの彼、薄化粧好きなのよ。」

(本文)

彼に裸は見せるけど、すっぴんは見せない。

私は裕也がまだ寝ている間にそっとベットを抜け出し、昨日のメイクを落として顔を洗う。
その後、私は化粧台の大きな鏡の前に座ってメイクを始めるのだ。
私は化粧水と乳液と下地をつけてからファンデーションを取り出しそうと、メイクボックスの中を漁るように手を入れた。毎日使うのは大体決まっているのに古いものも混ざっているせいでメイク道具は乱雑にメイクボックスに収まっていた。
ファンデーションを取り出したとき、アイブローパウダーが床に落ちた。
アイブローパウダーは蓋が開いたまま、逆さまになっている。持ち上げてみると、中身が粉々に割れていた。
床に散らばったダークブラウンのパウダーを見て、急に苛立ちがこみ上げた。
「これもうほとんど使わないのになんでここに入ってんのよ!」
私は割れたアイブローパウダーをゴミ箱に投げつけるように捨てた。
「アイブローなしじゃ、あんたの顔情けないよね。」
どこからか、そんな声がした。
わかってる、そんなこと。
自分の心の声みたかったから気のせいだと思って私はメイクを続けた。
完璧な眉が出来上がって次にアイシャドウを手にした時だった。
私ははっきり聞いた。
「一重って損だよね。」
ゴールドブラウンのアイシャドウパウダーがそう言ったように聞こえた。
だからこうやってメイクしているんじゃないの!私はその声を無視して一重まぶたにシャドウを塗っていく。
「あー塗りすぎないでー老けて見えるから。」
「うるさいわね!」
気づいたら私はアイシャドウパウダーにキレていた。

「元から性格きついんだから、アイライン引くともっときつい印象になっちゃうよー。」
と言ったのはリキッドアイライナーだった。
「これないと、目がはっきりしないのよ!」
私はそう言ってリキッドアイライナーを掴んで言ってやった。そしていつもよりもきつめにラインを引く。

「その団子鼻なんとかしないねー。」
とノーズシャドウが言い、
「あなたの唇どこですかー唇薄すぎて見えないんですけどー。」
と赤い口紅が笑っていた。
本当はこんな真っ赤な口紅をつける予定ではなかったのだが、私は赤い口紅を黙らせるために、豪華に唇に赤を塗った。

わかってるよ、確かに私の顔はメリハリのない顔だけど、ブスだとは言わせない。
何を言われてもメイクをしてしまえば私の顔は完璧になる。
時計を見ると8時を過ぎていた。
もう仕事行かなきゃ。
私は使ったメイク道具をメイクボックスに投げ入れ、家を出た。

ー某百貨店 化粧品売り場ー

「千紗さん、いつもメイク完璧ですね。」
私にとって、それは最高の褒め言葉だ。
でも今日はメイクについて誰にも触れられたくなかった。
売り場の鏡を拭きながら、いつもより濃いメークの自分を何度もチェックする。
百貨店の化粧品売り場で働いているんだから、きつめの化粧でもそんなにおかしくないんだ。と自分に言い聞かせる。
「おはようございます」
と、後ろから声をかけてきたのは新人の麻里香だった。
「あ、おはよう。」
私が振り返ると麻里香が目を大きく見開いて近寄って来た。
私の顔の前まで来て、
「千紗さん、このアイシャドウどこのですか?いい色ですね。」
と言った。
この子は天然だから単にアイシャドウに目がいってそう聞いてきただけなのだろう。
でも私はアイシャドウを塗り過ぎて少し後悔していたところだったから、そのコメントが嫌味にしか聞こえなかった。
「あんたね、これがどのアイシャドウかわかんないの?こんな濃く塗ってるのに?もっと勉強しなさいよ。美容部員のくせにあんたは化粧が薄すぎるの!もっといろいろ試しなさいよ!」
「はい、わかりました。」
麻里香は素直にそう言った。


次の日、いつも通りにメイクを始めてすぐに、私はおかしいことに気づいた。
メイクをしても鏡の中の私はメイクがされていない。
どんなにアイライナーを引いても、口紅を塗っても全く色がついていないのだ。
「どういうことよ、これ!」
私はメイクボックスに向かって叫んだ。
「これじゃ、仕事行けないじゃない!」
メイク道具は何も答えなかった。

私はその日、仮病を使って仕事を休んだ。
今日は裕也と休憩時間にランチする約束だった。キャンセルしなきゃ。
「もしもし、裕也ーごめん。今日ちょっと体調悪くって仕事休むからランチはまた今度にしよう。」
「大丈夫?じゃあ仕事終わったらそっち行くから。」
「だめだめ、来ないで。うつるからさ。」
「風邪ひいたのか?風邪ならよけいに。。」
「お願いだから今日は来ないで!」
私はそう言って電話を切った。


私はもう一度化粧台に座って自分の顔を眺めた。
すっぴんの自分はあまりにも生々しく、見るのも嫌になってくる。

「どうしたの?なんでそんな冴えない顔してるの?」
鏡の中の自分がそう言った。
えっ?!私はあまりにも驚いて椅子から落ちそうになったが、鏡の中の自分はにっこり笑っている。
「あんた、誰?」
私はそう言って鏡に触れようとするが、鏡の中の私は別の動きをする。
これは鏡でない。
「すっぴんもなかなかいいと思うんだけど。」
鏡の中の私は笑顔で言った。
「よくないわよ!メイク道具ががおかしいの!」
私はそこにあったメイクボックスを指した。
「おかしいのはメイク道具じゃなくてあんたよ。完璧メイクした自分だけが自分だと思ってんの?」
「そうよ、メイクしないと私、顔情けないからさ。」
「そうかなーそんなことないよ。」
「それにしても、あんたさ、鏡のくせしてなんで勝手なこと言ってんの?」
「鏡はね、時に外見だけじゃなくて本当の自分の姿を映し出すから。」
「本当の自分って何よ!」
「じゃあ見せてあげる。本当のあんたを。」
鏡の中の私は背中を丸めて下を向いて座っている。
「何やってんの?それ。」
「これ、あんたがパソコンに向かってて、見られてるの意識してない時ね。」
鏡の私は無表情で口が半開きになっていて、キャー!顎が二重顎になっている!それは大袈裟だろうと思いながらもそれを見て恥ずかしくなる。
「そんなだらしない顔してない!」
「してるんだってば。見たことないだけで。」
私は鏡の中の自分の意地悪な顔が憎らしかった。
「人に意地悪なこと言ってる時の自分も見たことないでしょ?あんたこういう顔してるから。」
鏡の私は怒った顔をしている。
かなり怖い顔だ。
「意地悪ばっかりしてるとこういう風に眉間にシワができる。」
鏡の私が眉間のシワを触ったのを見て私の手も自然と自分のか眉間に伸びる。

「そんな嫌そうな顔しないで、これもあんたなんだからね。」
「さっきから悪口を言われているみたいで本当、気分悪いーなんかもっと前向きなこと言えないのかなー」
「あ、そういえば,あんたさ、唇整形したいって言ってたよね、もし、実際にやっちゃったら、こうなる。」
鏡の私が口を両手で隠して離した時にたらこ唇が現れた。
アンバランスな唇に思わず笑ってしまう。
「それはやりすぎでしょ。」
鏡の中のでかい唇の自分もう笑っている。
「笑えるよね。こういうことも出来るの。すごいでしょー。」

笑いがおさまったら鏡の私が急に真剣な顔をした。
「あんたね、見た目にこだわりすぎてるけど、そのうち泣くことになるよ。」
下を向いたと思って次に顔を上げた時の鏡の私は泣きはらした目をしていた。
アイライナーとマスカラが滲んでパンダ目になっている。
「彼氏に振られたらこうなる。このままじゃ、本当に振られてちゃうよ。」
この時、私は初めてこのままではいけないと思った。

「いいこと教えてあげる。あんたの彼、薄化粧好きなのよ。」
すっぴんの顔に戻った鏡の私が秘密を教えるようにそう囁いた。
えっ、そうなの。。。。?


ー次の日ー

裕也が私のアパートのドアを開けた。

私は初めて裕也にすっぴんを見せた。
裸を見せるよりもずっと恥ずかしい。
でも私を見てください。

裕也は何も言わずに私を抱きしめた。
「風邪引いたんじゃなかったのかよ?元気そうじゃん!」

裕也は私がメイクをしていないことに触れてこなかかった。
メイク道具や鏡の中の自分が喋り出したって言ったら頭がおかしいって言われそうだから、何も聞かれなくてよかった。

「よし、ちょっとそこのコンビニ行ってくるかー。ビール飲もうぜー」
裕也は機嫌がよかった。
「じゃあ、私の酎ハイも買ってきてね。」
「千紗も一緒に来いよ。」
でも、私メイクしてないから。と言いかけて、言うのをやめた。
「うん。」

寒い日だった。
私達はコートにマフラー、手袋までして外に出た。
私はすれ違う人の目を少し気にしながら、裕也の手をぎゅっと繋いで歩き出した。
「こんな女連れてて恥ずかしくないの?」
「恥ずかしいわけないだろー」
裕也は繋いだ手を強く握り返してくる。
そう。裕也がいいなら、私もこれでいいや。

「寒いねー。私、化粧してないからさー、顔がすーすーするのよ。」
私がそう言ったら裕也は歩く足を止めた。
「まじか。」
そして私の顔を見つめる。
「温めてやるよ。」
達也は私の頬を両手で覆った。
そしてはあーっと息を吹きかけてきた。
「裕也ーやめてよー。」
私達はジャレ合うようにしで笑いながらまた歩き出した。

あまりにも笑ったからか、ちょっとだけ涙が出てきた。
私はその涙をそっと拭いながら、思った。

あーどんなに顔触っても、泣いても、化粧崩れる心配ないんだ。








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