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音楽のない生活

私は長らく音楽のない生活を歩んできた。
朝起きて、夜寝るまでに大抵は曲を耳にする事がない。
有名なアーティストの名前を聞いても分からない。そもそも、今流行りの曲名すら怪しい。お店のBGMとしてよく耳にするものは
「ああ、これが今流行ってるのかな。」
と気づくこともあるが、やはりその歌の名前も知らないままなのだ。

では、音楽が嫌いなのかと言われればそうでは無い。むしろ、好きだ。
音楽の授業はいつも楽しみだったし、カラオケで歌うと気分が高陽した。小学校の帰り道にスキップしながら大声で歌って帰る事も珍しいことではなかった。

ただ、自分から進んで音楽を聞くと言う発想が無かったのである。唯一私が音楽を聞いていたのは車の中だ。


私の家族はアニメをよく見る。なので、車内にかかる曲はいつもアニメ関係の曲だった。兄が中学の時、ニコニコ動画にハマってVOCALOIDの曲も増えた。今のようにスマホではなく、CDから曲を流していたのでいつもいつも同じ曲がぐるぐると回っていた。私と兄でご機嫌に歌いながら目的地まで行く事もよくあった。

その頃のカラオケで私が歌うラインナップはアニソンかボカロしか無かった。曲名を覚えてない私は、カラオケに行くたびに携帯で「アニメ OP 曲名」で検索していた。酷いものだ。

私が他の音楽を聞くようになったのはここ最近の事だ。きっかけは、音楽に全身浸かりこんでいる友人だ。
毎日のようにアーティスト達の歌声を聞いているらしい。遊ぶ時に駅前などで集合するのだが、友人と合流した時に耳にイヤホンを付けていなかったことは無い。

私は友人の音楽が「ある」生活にこっそり驚いた。電車に乗ってる時も、掃除する時も、ゲームをする時も、隙あらば音楽を摂取しているのだ。日常生活と音楽を切っても切り離せないくらい密接な関係だ。

そんな友人達が聞く音楽に興味が湧くのは当然の事だったのかもしれない。友人がよく聞いているアーティストの曲を私も聞くようになった。学生だったのでAppleのサブスクリプションに加入した。車で聞く音楽が変わった。

最初は普段聞かないジャンルの「良さ」が分からなかった。スピッツもSuchmosも未知の領域だ。スピーカーから流れてくる音が知らない言葉のような違和感を感じた。今まで速いテンポの曲しか聞いてこなかったからか、遅いテンポの曲はスローモーションのように感じてもどかしかった。

でも、車にかける音楽は変えなかった。何度も何度も繰り返し聞くうちに、段々耳に慣れてきて私に寄り添ってくれるようになった。友人がおすすめしてくれた曲にお気に入りが出来た。ススメが無くても自分で曲を探しに行くようになった。音楽が日常生活にうっすらだが溶け込むのを私は感じた。

友人が居なければ、スピッツもSuchmosもずとまよも何もかも知らないままだったろう。聞ける音楽の幅も狭苦しい物だったろう。音楽好きの友人達が話す内容が前よりも分かるようになって嬉しい。

初めはいい所が分からなくても付き合っていくうちに、分かってくるという経験を手に入れたんじゃないかと思う。何よりも音楽を聞くことによって日常の楽しみが増えたのも素晴らしい事だ。


音楽が「少しある」生活も悪くない。


おしまい

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