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鳥取紀行 その1 (妖怪たちのいるところ)


先週、一週間かけて鳥取県を横断した。
米子空港から入って、西端の境港に寄り、大山、倉吉、東郷池、鹿野、鳥取市、智頭町を経て、最後は兵庫県に抜けて神戸空港から帰郷するルート。いままでの台湾一周やらニューイングランド縦断に比べると移動距離は長くないのでゆったりとした旅である。

「どうして鳥取なんですか」

この旅の間なんども聞かれた。 
別に明確な理由なんかない。
なんとなく惹かれた、というのは理由になるだろうか。
そもそも「どうして北海道なんですか」とか「どうして京都なんですか」、そんなことを聞く人はいない。それくらい、鳥取県民というのは「鳥取には、理由ない限り来ないだろう」と思い込んでいるようだった。 でも、鳥取には私たちが旅に求める全て、いやそれ以上のものがあった。
6年間目に入ったナナタビ(娘といく長めの旅を我が家ではこう呼んでいる)に鳥取を選んでよかったと思う。

Day 1 境港 (妖怪のまち) 

米子空港は、全面的にゲゲゲの鬼太郎押しである。

ベルトコンベアーには、スーツケースから飛び出した目玉おやじが出現し、妖怪プリクラなどもある。「やりたーい!!」とナナオは言うが、「これから妖怪だらけのところに行くんだよ、ちょいと待ちな」となだめる。そう、最初の目的地は境港のゲゲゲの鬼太郎ロード。何十もの妖怪の銅像があることで有名なところだ。

空港から境港までは、車でたった十分。
道中の路上に人影というものを全く見なかったのだが、境港では結構な数の観光客が街を練り歩いている。コレもGoto効果か。

よく知らなかったのだが、水木しげるは、幼少時代にこの街で過ごし、家に出入りする「のんのんばあ」から聞いた不思議な話から妖怪にのめりこむようになったらしい。そう、ここは水木しげるワールドの原点である。

とはいえ、今は我が家のような観光客のための街と化し、幽幻的な雰囲気はゼロである。お土産屋やカフェが軒をつらね、あちこちにたくさんのガチャガチャが設置されていて、ガチャガチャ・ラヴァーのナナオは一気にテンション爆上がり。

「あれ、欲しい〜!!」「やりたーーーい!」と目を輝かせるので全然前に進まない。カプセルの中に何入ってるかわからのに「欲しい」と言ってるような時すらありあり、ガチャガチャの底知れぬ魅力に親は恐れ慄く。どうせロクなもん入ってないし、すぐに飽きるんだからお金の無駄じゃん・・・・。 やめとけ、やめとけ。

お腹がすいていたので、妖怪ロードから外れ昔ながらの喫茶店に入る。メニューはハンバーグから焼肉、おにぎり、サンドイッチまでなんでもある。地元の人で混み合っていて良い雰囲気だ。

隣の席では、白髪のおばあさんたちが6人でカツ定食を食べていた。みんな中ジョッキを豪快に飲んでいる。元気なおばあさんたちがいる街っていいね。つられて私もカツ定食をオーダー。
その定食についてきた味噌汁の具がなんとカニ!すごい、ここは港町だね、とちょっと興奮。

食べ終えると、私は財布から千円札を取り出してナナオに渡した。
「この旅の一週間の間、この千円で何を買ってもいいよ。ガチャガチャをしてもいいし、キーホルダーとか買ってもいい。ただし、全部なくなったらそれで終わりだから、考えて使いな」
そう言うと「やったあああ、ママ、ありがと」とすごく嬉しそうに千円札をリュックのポケットにしまった。
これにより私はもう「そんなの無駄遣いじゃないの」とか、「もう似たものも持ってるじゃない」とか言う煩い自分自身から解放され、ナナオは欲しいものがあるたびに親にねだらなくてすむ。お金は有限だということもわかるし、引き算の計算にもなるだろう。一石四鳥である。

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ブラブラと歩きながら水木しげる記念館に向かった。なかに入るといきなり、セミナールームみたいな部屋に、ただ過去の漫画を大きめに印刷したパネルがペタペタと貼ってあるだけ、という工夫もへったくれもない行政チックな展示空間が続く。もう少し水木しげるの世界観を出せなかったのだろうかと残念な気持ちになるが、それでもその漫画世界に魅せられてしまい、じっくりと見入ってしまった。 鬼太郎に結婚歴があるとか、目玉親父はいつもは鬼太郎の右目の中にいるとか、知らないことをたくさん知る。

その次の展示室では、水木しげるの年表が続く。ここもパネルがずらずらと工夫ゼロで貼ってあるだけの地味な展示室だ、しかし、その人生は文字通りにむちゃくちゃ破天荒で、あまりに面白いので、ついついい熟読してしまう。


あの世の話を聞きすぎたせいか、ある日人が死ぬところをみてみたいと幼い弟を海に突き落とし、両親にこっぴどく叱られる。(中略)
戦時中ニューギニアで現地の人々と仲良くなり、そこで食べ物をもらう(あだ名はパウロ)。終戦後もそこに残ることを決意するが、周囲の説得により日本に戻る。(中略)
旅の途中で泊まった借金付きの旅館を勢いで買ってしまう。結局借金がかえせずに売却(中略)。
40歳になって独身の水木を心配した両親がセッティングしたお見合いで会った女性と5日後に結婚式をあげる。(中略)
締め切りに追われていたのでそのまま帰郷。
講談社漫画賞を受賞し、突然売れっ子になり1年に45冊の単行本を出版。(!!!)

いやあ、しげる、改め水木先生の人生、面白すぎない? 本当に好きなことだけをやって行きてきた、というのがひしひしと伝わってきて、清々しい。すっかり水木先生ワールドに魅了された私たちは、関係する本や妖怪辞典など4冊も買ってしまった。

ナナオは、街のあちこちをめぐる「妖怪スタンプラリー」に見事にはまり、妖怪ロードをなんども行ったりきたり。その合間に、ガチャガチャがいっぱいあるコーナーを発見! 悩みながらも最後に選んだのはプリキュアグッズ。似たようなものをすでに何個も持っていて、普段なら「やめとけ!」って言いたくなるが、今回は本人が何を選ぶのも自由なので、ただ気楽に見守る。そのガチャガチャは300円だったので「のこりは700円だよ」と本人も意識しているようで、誠にいいことだ。

お茶を飲もうと、途中で見つけた感じの良い雑貨店&本屋さん「一月と六月」に立ち寄ると、なんと私の本も取り扱ってくれていた。嬉しくなり店主のお二人とお話をして、本にサインを入れされていただく。旅先で自分の本に出会ってすっかり舞い上がってしまい、その素晴らしいお店の売り上げに貢献しよう!と思い立ち、トレーナーなど色々と買い物をする。旅の一日目にしてさらに荷物を増やす結果になったが、買ったものには満足だ。

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今夜予約している宿は、ゲストハウスらしい。
「境港って意外と宿が高いんだよー」とイオくんが言う。別に私たちはゲストハウスも好きだから歓迎モードだけど。

しかし、到着するなりオーナーが「あれ、大人3人と子ども一人ですよね?」というので面食らった。4人目って妖怪……じゃないよね?「いえ、大人は2人ですが・・・」というと、予約はしっかりと3人で入っているという。なんとイオくんは、誤って計4人で予約していたようだ。しかも料金はBooking.comに払い済みということで、全てはあとの祭り。「境港が高いんじゃなくて、どうも俺が人数を間違えてただけだった」という顛末であった。

そのあと、今度はGo to トラベルの地域共通クーポン(電子版)が手続きしても発券されないというプチトラブルが発生。クーポンは2000円分らしい。余計に宿泊代を払ってしまった悔しさか、イオくんはいつにない粘り強さでなんどもBooking.comやGo To Travel事務局に電話をする。 しかし、事務局に言われたこと(電話の電源を入れ直すなど)をやりつくしてもクーポンはやっぱり出てこない。最後になって、「たまにですが、他の県をいれると出てくるという事例があるそうです」という情報がもたらされ、ためしに隣の「島根」を入れると本当にクーポンが発券された。どうやら境港は、Go To Travelの制度設計をした誰かに「島根県」と勘違いされているようだった。やれやれ。(境港で電子クーポンが出ずに諦めた方はぜひ「島根」を入れてみてください)  

電話にかじりつくイオくんを待っている間にすっかりお腹がすいてしまったので、夕飯を食べにいく。夜の帳が降りると妖怪ロードにひと影は消え、ただ銅像がライトアップされているのみ。これはこれでいい雰囲気で、ようやくすこし妖怪感。

せっかかくなので「一月と六月」のオーナーが教えてくれたお店を探したところ、なんとなんと予約で満席! え、この街にそんなに人がいるの、と驚く。それじゃあと、「その近くにある」と聞いていたお好み屋さんを探すと休み。そして、街を歩きまわって他の店をいくつもまわるが、ことどとく休みか満席ときている。 ヤバイぞ……。夕ご飯食べれないで終わるのかもと危機感がひしひし募る。 ああ、そういえば前にもこういうことあったよな、と思いだす。

15年くらい前に年末にイタリアのシエナという小さな街にいったとき、レストランはどこもかしこも満席だった。街にキャパシティを超えた観光客が訪れるるとそういうことが起こるようだが、境港もそうなのかもしれない。くそう、Go To Travelのせいか、このやろう、と思うが、自分も恩恵に預かっているひとりなのでただ静かに無計画な自分たちを恨む。 宿には小さなキッチンもあったけれど、周囲には商店もコンビニも全く見当たらない。

「こういうときパパはきっとなんとかするよ。何しろこのなかで一番食いしん坊なのはパパだから」とやけ気味に言うと、ナナオは「パパ、がんばれ、パパ、なんとかして」と必死に声をかける。 
あのイタリアの時は、イオくんが街をかけずり回って、小さな店のテラス席を見つけてきてくれた。ただ、あの日のシエナは本当に寒かった。たぶんマイナス二度くらい。だから、頼んだシチューは一瞬で冷え、あまりの寒さに体の芯まで凍てつき、その後、二人とも風邪をひいて寝込んでしまい散々な旅になったのであった。「今日、ナナはおやつも食べてないんだよ。おやつがないってどういうことなの。わーんお腹すいた!!」(ナナオ)

とにかく、ナナオにプレッシャーをかけられて俄然やる気を出したイオくんは、町外れまでジグザグに運転しまくる。のれんの明かりをもとめて闇雲にぐるぐるしているうちに港の近くにコンテナ風の小さな店に明かりが灯っているのを見つけた。

「やったあ、川内家は闘いに勝ったぞ!」

ナナオと私はまぐろラーメンと海鮮丼のセットを頼み二人でわけた。
マグロラーメンはなかなかおいしかった。 もちろんあれ程苦労してゲットした地域共通クーポン電子版は使えなかった。

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