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植物は芸術を誘発する

現在発売中の雑誌『BIRD』vol.5 spring にて、
「植物×アート」の小特集を編集・執筆しております。
(ほかにも植物×ライフ、アートコラムの連載も書いてます)

この特集、直感的に編集していったものの、
最終的にとても好きなかたちになりました。
し、いつか誌面以外の企画にもつなげていきたい。
まだまだ深堀りできる可能性を秘めた記事になったのでは、と
勝手に自負しております。自画自賛。いえい。

Microcosmos

トップの見開き2Pには、もう昔から大好きで仕方がないジョージア・オキーフを。偉大なるアメリカ人画家の大家ですね。

いつの頃からか、彼女が生み出す筆致のなめらかさ、究極的な官能性、色と色の間に宿るミクロコスモス……etc.に魅了され、NYのMoMAで原画を観たときなんて、ああ、もういっそあの絵の中に飛び込みたい。包まれたい。くるまれたい。ずっとこの中で眠っていたい。と、一枚の絵から目も離せずに立ち尽くした、あの恍惚の瞬間が今も脳裏に焼き付いています。

そこには、彼女が「花」を注視し続けることで獲得した何ものかが存在していたのでしょう。花とは、いわば植物の生殖器官。母親の胎内のごとく、すべてを内包しながら、強く、美しく、生命を生み出さんとする力を、オキーフは「(より時間をかけて)見る」という行為の果てで描き切ったのだと思います。

カンディンスキーの絵画論に影響を受けたオキーフは、絵の中に「内的宇宙」(心理的風景)を見出すことに注力していました。一方、それらは単なるイマジネーションの産物ではなく、徹底的に、「見る」という行為にこだわり続けました(「誰も花を(本当の意味では)見ていない」とオキーフは語っています)。その背景には、夫である写真家、アルフレッド・スティーグリッツの存在をなくしては語れません。

(Shiho Fukuharaさんの写真をお借りしました!)

続いては、植物がもつ魅力、誘発される視点を3つの言葉に分類。

 Sensuality 

「2人の写真家がとらえた、花の生と死に宿る官能性」
荒木経惟/ロバート・メイプルソープ

この2人に共通することといえば、まぎれもなくエロス。そんな彼らが花に惹かれるのは当然のこととも言えるでしょう。
しかし、ここでいうエロスとは、タナトス(死)の対極にあるもの。花はいつか枯れることを誰しもが知っています。花は花である瞬間に、終わりを予感させるものなのです。写真家はいち早くその死のにおいを嗅ぎ取り、「写真」という時を止めるメディアによって、永遠のエロスを残したのではないでしょうか。

Minimal

「音楽と建築にリンクする植物システムの構造美」
スティーブ・ライヒ/バックミンスター・フラー

植物の美は、独自に進化し続けるその構造にも存在します。はっぱの葉脈、地面からまっすぐ生えた樹木と枝の関係、左右対称な花の形体…などなど。この世界が生んだフラクタル(自己相似性)の魅力はここでは語りきれません。

植物のミニマルな構造美を思い描いたとき、真っ先に脳裏に浮かんだのはスティーブ・ライヒ。そう、植物はときに音楽にもなりうるのです。とはいえライヒが直接的に植物に言及した文献はほとんど存在しないので、こちらが想像をふくらませているだけのことかもしれません。しかし、あの増殖していく音と音の豊穣な関係性には、植物的な何かを感じずにはいられない。
フラクタルといえば、もちろん思い出すのはバックミンスター・フラー。世界の構造を追求したフラーにとって、植物が大きな存在であったことは間違いないだろうと思っています。

Science

「科学的な視点で向き合う新時代の植物アート」

最後は、サイエンス。
村山誠というアーティストに出会って以来、私は彼のことを追いかけ続けるだろうと心に決めています。大学の建築学科とIAMASを卒業し、高度なCGモデリング技術を身につけた村山氏は、植物を建築図面のように美しく描き出す作品を作り続けています。毎日ルーペと顕微鏡で植物を観察し、スケッチし、その構造がもつ特異性を精密にビジュアライズするその手法は、まるで一介の科学者のようであり、そして優れたデザイナーのようでもあります。植物とアート、というお題をもらったとき、まずはじめに選出したのが彼でした。

一方、真っ正面から科学の手法を使うアーティストチームBCL(福原志保さんとゲオルクさん)も、前々から噂を聞いて、憧れていた存在のひとり。サントリーが遺伝子改良によって誕生させたブルーカーネーションに焦点を当て、元の「白い」カーネーションに戻す『Common Flowers / White Out』プロジェクトをご紹介。彼らはバイオサイエンスとアートを融合させ、最高にクレイジーでクールな活動を続けているのです。志保さんほんとにかっけー。

Botanical Art

「ボタニカルアート 植物をめぐる人々の歴史」

最後に、フューチャリング村山誠のページを作りました。
ボタニカルアートの原点を探るべく、東京大学で植物学の研究を行う大場秀章先生に突撃取材。もちろんインタビュアーは村山氏。
この大場先生が本当にチャーミングで、様々な植物の知見にあふれたすばらしい先生で、心の底から植物を愛でられているのを感じました。「ボタニカルアート」という古い歴史をもつアートジャンルの存在自体が、科学とアートの架け橋であり、また未知なるものを求める人間の欲求に突き動かされていることを知りました。何より、村山氏と引き合わせられたことが一番のしあわせ。すてきな時間をいただきました。

あれ、さらりと紹介しようと思ったら長くなっちゃった...。
ひとまずここまで。書店などで見かけましたら、ぜひお手に取っていただけるとうれしいです。







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