説得はむつかしい

【カンピ先生の講義】

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「組織で動く」には、「他人を動かす」つまり、「他人を説得し、納得してもらって、動いてもらう」ことが必ず関係してきます。ところが、その説得が難しい。いいことを言っても口先だけだと思われてしまって信用されなかったり、真意が伝わらなかったり、舌足らずに終わったり… みなさん、よくご存じの通りです。とりわけ、説得相手の本当の意図を見抜き、自分の主張を相手の意図に沿うような形で繰り広げるのが本当に困難。至難の業と言っていいでしょう。

例えば、名誉欲だらけの人に儲け話をしたら、下品だと思われて遠ざけられてしまうでしょう。儲けたがっている人に名誉になる話をしても、世間を知らない奴と思われて上手くいきません。名誉欲を見せながらも、本心では儲け話が好き人のような応用パターンもあります。名誉になる話をもっていくと、うわべだけの付き合いに終わってしまうでしょうし、儲け話をもっていくと、表立っては遠ざけられてしまいます。慎重にも慎重に考えて対応しなければならないことが分かります。

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場合によっては、説得することで、自分の身体に危害が及ぶ場合もあります。そんな覚悟をしなければ、説得もままなりません。

(1) ものごとは限られたメンバーで取り進められる時に成功し、情報が漏れていくと失敗しがちです。説得相手が秘密をもち、情報を漏らさぬように努力しているときに、たまたまそういった機微なことがらに話題が及んでしまった場合、こちらとしては、説得相手に疑われ、口封じのために自分の身に危害が迫ってくる可能性があると覚悟しなくてはなりません。

(2) 本音と建前を使い分ける人がいます。ある人が進めている事業には、表立った理由とは別に、本当に成し遂げたい“何か”が裏に隠されている場合があります。この裏の事情まで見抜いてしまった場合、こちらとしては、危害が自分の身に迫ってくると覚悟しなくてはなりません。

(3) こちらのオリジナルな計画が採用されたにも関わらず、第三者がその計画を推測し探り当ててしまった場合、むしろこちらが漏らしたのではないかと疑われてしまう危険性があります。この場合、こちらとしては、危害が自分の身に迫ってくると覚悟しなくてはなりません。

(4) 信頼関係がないのに知識をひけらかすことは、説得の技法として推奨はできません。その説いた通りになっても功績としては認められないのに、失敗した時はスケープゴートにされてしまうからです。スケープゴートになるということは、つまり、これも自身に危害が及ぶことを覚悟しなくてはならないということです。

(5) 地位の高い人のちょっとしたミスを、無礼だなんだのと暴き立てる行為も推奨しません。この行為も、自身に危害を及ぼしかねない行為です。

(6) 地位の高い人が自ら考えた計画で成功したいと思っているときに、たまたま(運悪く)同じような内容を説いて回ってしまう場合もあります。この場合も、説明者の身に危害が及ぶ可能性があります。

(7) 相手にとても出来ないことを無理強いし、または、止めようのないことを無理にやめさせようとする場合も同様です。無理強いをした反動で、自身に危害が及ぶことを覚悟しなくてはならないでしょう。

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そういう訳で、説得にあたって、他人の評価を入れることも難しいのです。

(1) 説得相手が信頼・重用する人物のことを批評すると、聞いた相手は、信頼・重用する人物と自分との仲を、われわれが割こうとしているのではないかと考えるでしょう。

(2) 説得相手が軽視している部下のことを批評すると、聞いた相手は、われわれが自分(説得相手)の権威を盾に、その部下に大げさな話をして恩を着せようとしていると疑うことでしょう。

(3) 説得相手が信用・寵愛する人物に言及すると、われわれが出世の足掛かりを探して迎合した意見しか言おうとしない、と疑われてしまうでしょう。

(4) 説得相手が憎んでいる人物のことに言及すると聞いた相手は、われわれが自分を試していると考えて不快に思うことでしょう。

同じように、説明の仕方にも工夫が必要だと分かります。

(1) あまりにストレートに話すと、知識が足りないと退けられます。
(2) 丁寧に詳細まで話すと「話の長い奴だ」と他の人に替えられてしまいます。
(3) 事例を省略して意見だけ述べると、臆病者だと疑われます。
(4) 事例を含めて自由に話せば、粗野で傲慢と言われてしまいます。

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