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トイレの洗面所が綺麗な会社はいい会社だ(持論)

新人の頃、入社2日目に気づいたことがある。


「トイレの洗面所の水撥ねが全然ない件について」


どんなに気をつけて手を洗おうと、どんなに滴り落ちる水を気にしながら注意深くハンカチを出そうと、洗面所への水撥ねゼロでトイレを後にすることは難しい。そもそも、手を洗う時に水撥ねを気にして洗っている人が果たしてどれだけいるだろうか。日本人は多少多そうだが、それでも人口の1%いないくらいだろうか。


うっかり気になってしまったので真面目に考えてみると、水を洗面所の周りに一滴も零さずにするのは結構至難の業だということが分かった。
洗っている最中にどれくらい水を飛ばさないでいられるか、もあるが、それだけでなく、洗い終わったその後の手をどう乾かすか、でも水の撥ねは生じてくる二重の障壁なのである。
主な乾かし方は4つあると言えるだろう。

1)ハンカチor備え付けのペーパーで拭く
2)ハンドジェットで水気を飛ばす
3)手を大きく振って水気を飛ばす
4)濡れた手がちょうどいいので髪に当てて髪型を直す

3)は日常生活でよく見かけるが、水を撥ねさせないことが重要なこの議論において最悪な手段だ。でも一番このパターンが多いように思う。
4)は一定数の人(特に女性)が癖としてやってしまうのではないだろうか。かく言う私も良くないと思いつつ、やってしまう。
2)は、普通な対応で、1)こそ、良識的で正しい手の乾かし方であり、ハンカチをちゃんと常備しているという点において育ちの良さそうなトイレユーザーだろうと思われる。
ただ、1)にも落とし穴はある。それは、ハンカチを出してから手を洗うケースよりも、手を洗ってからハンカチを探すケースの方が圧倒的に多いところだ。水気を含んだ手がハンカチを探す為に、丁度いい感じに水が滴る角度で鞄やポケットに運ばれる。その道中で、実は結構洗面所に水が滴ってしまうものだ。それは備え付けペーパーでも同じことである。
2)にも、距離という落とし穴がある。基本、ハンドジェットの設置場所は壁側で、一部の洗い場を除いて遠い位置にある。最近は各蛇口にセンサーが取り付けられ、風を吹かせる機能も持ち合わせた高性能な製品も時折見かけるが、そんなに数は多くない。
洗う時に壁在り、拭き去るときに壁在り。
水を一切飛ばさずにして洗面所を後にすることは、こんなにも難しいのである。
にも拘らず、うちの会社の洗面所には、水一滴、零れていないのだ。
これは、もしかしてもしかすると、賞賛に値することなのではないか。


うっかり更に気になってきてしまったので、一体なぜなのかを観察してみた。
1人、2人、そして3人と私の後からきた人たちが去っていく。
すると、わかったことはごくシンプルなことだった。
ほぼ全員、手を洗った後、その場にあるペーパーで手を拭き、そのペーパーを軽く折り畳んで洗面所の周りを一周拭いてから、ペーパーを捨てて出るのだった。

なんとシンプルなことだろうか。
そうだ。汚れたのであれば、拭けばいいのだ。
だが、そんな簡単なことを人は意外と大切にできない。
ましてやこれは、誰かにそう指導されているわけでも、社内ルールがあるわけでもない。それでも、きっと誰かが、次に使う人を想ってはじめたのだろう。そしてそれが今の私の様に、それって気持ちがいいかもと真似するようになっていったのではないかと思う。

最初の思いやりの気持ちも素敵だと感じ、そしてそれに気づく人がいることも素敵だと感じ、なんとなく行為が風習化していくという文化も素敵だと感じた。
「トイレの洗面所が綺麗な会社は良い会社だ」
これが、この気づき以降、私が抱いてきた仮説である。
そこからはどこに行ってもついトイレの洗面所の綺麗さが気になってしまって、機会がある度、観察している。
気づきがあってから4年が経ったタイミングで、これまでの社員生活を思い返しても、これまでの観察結果を鑑みても、やはり私の仮説は間違っていなさそうだ。

4年務めた会社は、日頃から明るい声が飛び交い、上層部の人ほどユーモラスで腰が低く、ちょっとしたサプライズが多く、ちょっとした感謝を気軽に伝えられる会社だった。

人が活き活き働いているなと感じる会社で、洗面所が汚いところとは出会わなかった。


一番身近で、一番汚れやすく、一番誰もが使うところ。
そのトイレの洗面所が綺麗というのは、過ごしやすく、思いやりのある環境かを図るうえで、実に重要な会社選びの指標なのではないだろうか。
是非、あなたも身近にある洗面所を見てみて欲しい。綺麗だろうか。汚れているだろうか。そして、今会社に抱いている感覚はどうだろうか。
良い会社に育て上げていくためには、まずはトイレを綺麗にすることから始めるのがいいと言っても決して過言ではないと私は思う。


※20201030 天狼院書店ライティングゼミ投稿エッセイ

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