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生きている証じゃないか。

 薬局で薬が仕上がるのを、長いソファに座り、
待っていた。
薬剤師さんが、裏で薬をテキパキと、
調薬している。
もう、日が暮れて、夕闇が降りていた。外では
賑やかな声が盛り上がっている。もう春が近づいていた。
 ボクのソファの隣には、
小洒落たおばあちゃんが座って、
薬が仕上がるのを待っていた。
彼女の服は、高くはなかった
けれど、組み合わせ、
色彩のセンスがとても心地よい
品の良さを醸し出していた。

 ふと手を見た。手がしわくちゃで、太い血管が
多く見える。年輪を感じさせる、いい手だった。
 ボクが手をみたのに気づくとおばあちゃんは、
手を重ね、足首を閉じ、嫌そうだった。
「隠すことなんかないのに」
ボクは心の中で、呟いた。
 手の老化が表面に出てしまうのは、
高齢者は全員そうだ。だが
それを嫌なものに感じなくていい。
人は、それよりも感じのいい
センスある服に目がいく。
シワは最高じゃないか。苦労して
生きてきた証だ。
 「マツオカさん」と薬剤師が呼ぶと、
そのおばあちゃんは立ち上がり、
手を差し出し、薬を受け取り、会計を
していた。そして<微笑む>と、
薬剤店を後にして、ドアが開いて
立ち去った。
 ボクが次に呼ばれ、薬を受け取った。
自動ドアがスッと開き、
深い闇の街の中に入っていく。
ボクは何か、人生のいい物を感じたのだった。




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