お茶漬けの味

 忙しく働けば問題は解決する

 金持ちの奥さんは、一日なにをして過ごしているのだろうか。暇を持て余していたら、無駄に夫への憎悪を増幅させてしまっても不思議はない。

 主人公はたぶん、三菱商事クラスの会社の部長の奥さん。姉妹と雑談をして日々を過ごし、姪が見合いをすっぽかしたと言って怒る。この時代の女は、こんな生き方だったのだろうか。夫への不満も並べ立て、こんな女と結婚したら地獄だと思うが、その夫は至って温厚。一流企業の部長クラスなのに威張らず、今から見ればクソ女の奥さんを、非常に寛容に見守る。

ラストのお茶漬けを準備するシーンで、奥さんは台所のどこにご飯のおひつがあるのか漬物があるのか、まったく知らない。サラリーマンの奥さんは主婦をしていて、たとえ家政婦がいたとしても、家のことを取り仕切っているのだと思っていたが、こんな何もしない女がいたのだと知った。

 男尊女卑、女性差別……。かつての日本はそんな社会だと思わされてきたが、上流社会の女は、毎日遊んで暮らしていた。なんだ、女の人は大事にされていたんだ、最高の生き方をしていたんだ、と思ったが、少し立ち止まって考えれば、最悪の人生。何もさせない、という差別だ。

日々、これといった価値の生産に携わることもなく、誰の役にも立たず、ただ浪費して生きている。まともな人間なら、それに気づいた瞬間、自殺したくなるだろう。

女性差別というと、女性がきびしい労働に従事させられるとか、同じ仕事をしても男より昇進できないとか、そんなことかと思っていた。実際は、そんなことではなくて、女を大事にしていると見せかけながら、これといった仕事をさせず、封じ込めていることなのだった。今、なんにしても仕事ができるのは、女にしろ男にしろ、幸せだと思わせられる。

 遊んで暮らせる、と聞くと、理想の生き方のように聞こえるが、本当に遊んで暮らせたら、そんなの三日で飽きる。人の役に立てること、仕事ができることが、心の充実には最も有用だ。祝日の勤労感謝の日は、勤労者に感謝するのでなく、勤労することに感謝する日だ。法を定める人はよく考えていると、改めて思わせられる。

 文句ばかり言っていた妻が、ラストでお茶漬けを食べる時に、手がぬかみそ臭くなったと言って夫と笑い合う。最高に幸せな瞬間だ。油まみれになって働いたり、ひどい肩こりがしたり、仕事ごとにいろんな汚れ方はあるけど、それを愚痴りながらも、愚痴れる生き方が楽しいのだと教えてくれる。

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