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球面の弱位相による閉包は球そのものになる。

球面の弱位相による閉包は球そのものになる。
 
 
$${X}$$ をノルム空間とする。球面$${S=\left\{ x\in X:\left\| x \right\|=1 \right\}}$$に属する点列$${{{x}_{1}},{{x}_{2}},\cdots }$$ が$${y}$$ にノルムの意味で収束したとする。すなわち、$${\left\| {{x}_{n}}-y \right\|\to 0}$$とする。このとき$${\left| \left\| {{x}_{n}} \right\|-\left\| y \right\| \right|\le \left\| {{x}_{n}}-y \right\|}$$ より、$${\left\| {{x}_{n}} \right\|\to \left\| y \right\|}$$となるので$${\left\| y \right\|=1}$$となる。これは、$${S}$$ が閉集合で、$${\bar{S}=S}$$を意味している。ここでノルムによるのでなく弱位相で考えると$${X}$$が無限次元の場合、$${S}$$ は閉集合でなく、$${S}$$の閉包が単位閉球$${\left\{ x\in X:\left\| x \right\|\le 1 \right\}}$$になってしまうという意外な結果が得られる。これは無限次元特有の性質で、弱位相で定義される近傍が非有界になることが原因で有限次元では起こらない現象である。
 
定義:$${X}$$ を$${K=}$$ $${\mathbb{R}}$$ または$${\mathbb{C}}$$ 上のノルム空間、$${{{X}^{*}}}$$ をその共役ノルム空間とする。$${{{X}^{*}}}$$は$${X}$$から$${K}$$への有界線形汎関数全体からなる族である。$${X}$$の位相で、$${{{X}^{*}}}$$の要素を連続写像にする一番弱い位相を弱位相といい、弱位相の開集合全体を$${\sigma \left( X,{{X}^{*}} \right)}$$ とあらわす。
弱位相$${\sigma \left( X,{{X}^{*}} \right)}$$における基本近傍系は次で与えられることが知られている。
命題:$${{{x}_{0}}\in X}$$の弱位相$${\sigma \left( X,{{X}^{*}} \right)}$$における基本近傍系は、
任意有限個の$${{{f}_{1}},{{f}_{2}},\cdots ,{{f}_{n}}\in {{X}^{*}}}$$と任意の$${\varepsilon >0}$$ に対する集合
$${V\left( {{x}_{0}};{{f}_{1}},{{f}_{2}},\cdots ,{{f}_{n}};\varepsilon \right)}$$$${=\left\{ x\in X:\left| {{f}_{i}}\left( x \right)-{{f}_{i}}\left( {{x}_{0}} \right) \right|<\varepsilon \left( 1\le i\le n \right) \right\}}$$
の全体で与えられる。
この命題は証明なしで使うことにする。(たとえば、宮島静雄 関数解析 横浜図書p.156命題2.94)
 
ここで、閉包の定義をしておく。
定義:点$${x\in X}$$ 、$${A\subset X}$$ とするとき、$${x}$$の任意の近傍$${V}$$に対して、$${V \cap A\ne \phi }$$ となっていれば、$${x}$$ は$${A}$$ の触点と呼ばれる。$${A}$$の触点全体でつくる集合を$${A}$$ の閉包といい
$${\bar{A}}$$ であらわす。
 
$${\left\| {{x}_{0}} \right\|<1}$$のとき、$${{{x}_{0}}\in \bar{S}}$$であることを示そう。閉包の定義より、$${{{x}_{0}}\in V}$$となる 開集合$${V\in \sigma \left( X,{{X}^{*}} \right)}$$を適当にとって、$${V\cap S\ne \phi }$$を示せばよい。ここでbasis の定義から、$${{{x}_{0}}}$$の基本近傍basis
$${V\left( {{x}_{0}};{{f}_{1}},{{f}_{2}},\cdots ,{{f}_{n}};\varepsilon \right)}$$$${=\left\{ x\in X:\left| {{f}_{i}}\left( x \right)-{{f}_{i}}\left( {{x}_{0}} \right) \right|<\varepsilon \left( 1\le i\le n \right) \right\}}$$$${\subset V}$$
をとる事ができる。
いま、このあたえられた$${{{f}_{1}},{{f}_{2}},\cdots ,{{f}_{n}}\in {{X}^{*}}}$$に対して、ある$${y\ne 0}$$ で$${{{f}_{1}}\left( y \right)={{f}_{2}}\left( y \right)=\cdots ={{f}_{m}}\left( y \right)=0}$$ となるものを選ぶ(ここで、$${X}$$ が無限次元であることが効いている。あとで説明するのでここでは一応認めてほしい)。そして、$${{{x}_{0}}+ty}$$,$${t>0}$$ を考えると$${{{f}_{i}}\left( {{x}_{0}}+ty \right)={{f}_{i}}\left( {{x}_{0}} \right)+t{{f}_{i}}\left( y \right)={{f}_{i}}\left( {{x}_{0}} \right)}$$ ,$${i=1,2,\cdots ,n}$$ であるから、
$${{{x}_{0}}+ty\in V\left( {{x}_{0}};{{f}_{1}},{{f}_{2}},\cdots ,{{f}_{n}};\varepsilon \right)}$$
となっている。$${g\left( t \right)=\left\| {{x}_{0}}+ty \right\|}$$を考えると、$${g\left( t \right)}$$ は$${t}$$の連続関数で、$${g\left( 0 \right)=\left\| {{x}_{0}} \right\|<1}$$ $${g\left( \infty \right)=\infty }$$ であるからある、$${g\left( {{t}_{0}} \right)=1}$$ となる$${{{t}_{0}}>0}$$が存在する。すなわち、
$${{{x}_{0}}+{{t}_{0}}y\in V}$$ かつ$${{{x}_{0}}+{{t}_{0}}y\in S}$$
となる。このようにして $${V\cap S}$$の元の存在が確認されたので$${V\cap S\ne \phi }$$が証明された。結局$${\left\{ x\in X:\left\| x \right\|\le 1 \right\}}$$の任意の要素$${{{x}_{0}}}$$ が
$${{{x}_{0}}\in \bar{S}}$$をみたすことがわかるので、$${\left\{ x\in X:\left\| x \right\|\le 1 \right\}}$$が$${S}$$の閉包であることが証明された。
ここまでで全てがわかった人はこれから先は読む必要がない。
注意しなければならないのは、$${S}$$の閉包$${\bar{S}=S}$$と書いてしまうと混乱が起きる。弱位相での閉包とノルムによる位相での閉包が異なる場合が生じるので,
$${{{\overline{S}}^{weak}}}$$ 、$${{{\overline{S}}^{strong}}}$$と区別しなければならない。 それは、記号だけにとどまらず開球、閉球などという言葉つかいや、$${\left\{ x\in X:\left\| x \right\|<1 \right\}}$$や$${\left\{ x\in X:\left\| x \right\|\le 1 \right\}}$$などを論証で使っていると混乱してくる。上で述べたことは 
$${S=\left\{ x\in X:\left\| x \right\|=1 \right\}={{\overline{S}}^{strong}}\subset {{\overline{S}}^{weak}}=\left\{ x\in X:\left\| x \right\|\le 1 \right\}}$$
とまとめることができる。
「あとで説明する」の部分を補足する。
補足:$${{{f}_{1}},{{f}_{2}},\cdots ,{{f}_{n}}\in {{X}^{*}}}$$に対して、ある$${y\ne 0}$$ で$${{{f}_{1}}\left( y \right)={{f}_{2}}\left( y \right)=\cdots ={{f}_{m}}\left( y \right)=0}$$となるものを選ぶことができる(ここで、$${X}$$ が無限次元であることが効いている)
$${{{f}_{i}}:X\to \mathbb{C}}$$(または$${{{f}_{i}}:X\to \mathbb{R}}$$)は線形汎関数であるから、
$${{{f}_{1}}\left( x \right)={{f}_{2}}\left( x \right)=\cdots ={{f}_{m}}\left( x \right)=0}$$は、未知数を$${x\in X}$$ とする連立一次方程式である。そして、$${x=0}$$ がいつでも一つの解になっている。方程式の数が$${n}$$ 個しかなく未知数の数$${m}$$ が$${m>n}$$ となっているなら、$${y\ne 0}$$となる
$${y\in X}$$を方程式の解として選べる。
むつかしく言うと、$${\bigcap\limits_{I-1}^{n}{f_{i}^{-1}\left( 0 \right)}=\left\{ 0 \right\}}$$なら、写像$${X\to \left( {{f}_{1}}\left( x \right),{{f}_{2}}\left( x \right),\cdots ,{{f}_{n}}\left( x \right) \right)}$$ は単射になり、$${X}$$は有限次元空間の部分空間と同型すなわち、$${\dim X < \infty }$$ である。逆に無限次元の場合$${\bigcap\limits_{I-1}^{n}{f_{i}^{-1}\left( 0 \right)}\ne\left\{ 0 \right\}}$$であり、$${y\ne 0}$$を元として含む。また、
$${{{x}_{0}}+ty\in V\left( {{x}_{0}};{{f}_{1}},{{f}_{2}},\cdots ,{{f}_{n}};\varepsilon \right)}$$
であるから、$${\underset{t>0}{\mathop{\sup }}\,\left\| {{x}_{0}}+ty \right\|={{\infty }^{{}}}}$$となり基本近傍は非有界である。
 
おまけ:$${X}$$が無限次元の場合
$${B=\left\{ x\in X:\left\| x \right\|<1 \right\}}$$
は弱位相で開集合ではない。
証明)
$${B\in \sigma \left( X,{{X}^{*}} \right)}$$を仮定すると$${{{B}^{c}}=\left\{ x\in X:\left\| x \right\|\ge 1 \right\}}$$は弱位相で閉集合。
$${{{\overline{S}}^{weak}}=\left\{ x\in X:\left\| x \right\|\le 1 \right\}}$$も弱位相で閉集合。したがって
$${S=\left\{ x\in X:\left\| x \right\|=1 \right\}={{B}^{c}}\cap {{\overline{S}}^{weak}}}$$
が弱位相で閉集合となり上で述べた結果に矛盾してしまう。
 

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