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法学徒徒然⑤

1早速つづきを 
「法学の勉強って、何かの役に立つの?」

②法律家の物の考え方を知っているということ

私が法学部4回生になって初めてまともに法律の勉強をし始めたことは以前お伝えしたと思います。実は、4回生当時は真剣に「私は今何を勉強しているのか」について悩んでいました。その悩みは今も続いている場面もあるのですが、多少なりとも解消された部分もあって、その部分を整理するために私は今この記事を作成しています。

「今何を勉強しているのか」に対する回答として、「法律を学ぶことを通して、リーガル・マインドを学んでいる」とか言われます。では、リーガル・マインドとは一体何でしょうか?

ここで、私が4回生当時に読んだ文献からいくつか抜粋したいと思います。

リーガルマインドの正体は、「論理性」と「結論の妥当性」のバランス感覚である。
品川 皓亮「法学部、ロースクール、司法研修所で学ぶ法律知識」213頁
法律を学ぶ意義は、ずばり、リーガルマインドを養うことにあります。リーガルマインドとは、「物事の正義や衡平の感覚」のことです。
吉田利宏「元法制局キャリアが教える 法律を読む技術・学ぶ技術 改訂第3版」24頁

参考にした書籍は一冊目は弁護士の方、二冊目は元法制局に勤めていた官僚の方の本です。
また、直接に「リーガル・マインド」をという言葉を引用していないのですが、同内容のことが書かれている文章を引用したいと思います。

法的評価ないし法的価値判断を中核とする法的文章においては、それが内容的にも良い文章とされるためには、結論を基礎づける論拠ないし理由付けがその文章を読む者にとり説得力をもつものでなければならない。
井田良ほか「法を学ぶ人のための文章作法」46頁
論理的に自分の考えを組み立てて、相手方に伝える能力、どのような利益が現在問題になっているのか、あるいは将来において何が問題になりうるのかを多面的に考察し、それらの利益をどのように調整するのが適切であるのかを、これまでの事例との比較や今後の社会への影響も考慮しながら考え、適切に表現し、あるいはプレゼンテーションする能力
田高寛貴ほか「リーガル・リサーチ&リポート 第2版」13頁

以上二冊は、研究者の方が書かれた、法学初学者向けの書籍です。

ちなみに、これらの本がご興味がある方又は法学部に入学したものの何を勉強したらいいのかわからなくて悩んでいる方に対して、以下のような順番で読むことをお勧めします。数字が若い方が、実生活に引き付けた説明がなされておりとっつきやすいです。
元法制局キャリアが教える 法律を読む技術・学ぶ技術
法学部、ロースクール、司法研修所で学ぶ法律知識
法を学ぶ人のための文章作法
リーガル・リサーチ&リポート

正直、上記4冊のうち1冊でも読んでいただくほうが「リーガル・マインド」とは何かが分かるような気もしますが…、私なりの理解を示せば、「一定の問題に取り組むために、一方では主張を論理的に(演繹的に)考えることができ、一方で結論の妥当性から(帰納的に)論理性を見直すという思考サイクル」です。上記の書籍では言及されていない点が二つあるので、そこを補足説明します。

・「一定の問題に取り組むために」…
特に法学部で講義だけを聞いてしまうと忘れてしまいがちなんですが、法律は演繹的論理だけで完結はできないものです。事件は現場で起きており,そのフィードバックを受けてルールが作成されるという側面もあるんです。現実の問題に直面し,それに法律「」使って対処しようとするのが法律家ができて他のプロフェッショナルができないことだと思っています。

・「思考サイクル」…
法律学には正解がないとよく言われます。それは一方で、条文から正解を導き出す作業であると同時に,他方で結論が誰もが納得できるものであることも求められるからです。最初から正解が条文に書いてあるわけではありません。そしてこの二つは結構対立し,この二つの折り合いをつけていく作業は「サイクルを回す」というイメージです。特に後者の段階では、「誰もが」納得できるものであるようにその事件に関わりうる利害関係を多面的に考察する必要が出てきます。条文から論理的に答えを導き出し,それが誰かの利益にとって妥当と考え,また別の誰かの利益にとって妥当か考え,もう一度論理的に一貫しているかを見て....、と思考を行ったり来たりさせないといけないんですよね。

さて、法学界隈では,こういう思考を「リーガル・マインド」と言っているわけですが、「リーガル」なんて名付けるほど大層なものでは無いと思っています。こう言った思考は,要は「自分の考えが論理的に・結論的に妥当かを検証する」思考であり、又、「自分の意見を通すために誰かを説得する」際に必要な思考です。この作業は法律家じゃなくてもできる人はいっぱいいるし,できた方がいいことです。

ただ、相当高度なレベルのものが要求されることは確かです。法学部に来て、法曹資格を取るわけでは無い人・無かった人にとって、こういった思考の一端に触れて、トレーニングを(半ば強制的に)したことは、どの分野に言っても活かせることだと思います。

2「法学って、おもろいの?」

法学部で,何を学び,そしてそれはどう役立つのか,について考察してきました。つぎはいよいよ最後です。法学を学ぶ楽しさについて検討していきたいと思います。法学部で学べることを知っていても、面白く無いことは学び続けられませんから。

最初に断っておくと,多分「楽しく」は無いです。でも、不思議で面白いものだと思っています。私自身が気づけば六年間も法学の勉強をし続けられているのは、一つには司法試験合格という明確な目標があるからですが、もっと根源的な理由は「あまりにも訳がわからなさすぎて最早面白い」からです。こうなったら,行けるところまで行ってみて見れるところは全部見たい。そんな気持ちがあるからです。

法学を面白がる

例えば,民法では、近代社会(社会契約論が想定する、合理的人間が社会構成員として、自由意思に基づき経済活動を行っておく世界です)を念頭に、各自の一定の行為に法的効果を付与します。そうすることで、誠実に行動した人間の期待を保護したり,個人の私有財産を守ったりするためです。紛争を事前に回避し,各自が自由意思に基づく活動をしていくことで、究極的には自己実現できる社会を作っていきたいという願い(立法者意思と言います)を込めて民法は作られています。

一方で、民法の想定する社会は実はかなり古臭いものでもあります。社会契約論は18世紀を席巻した思想で、その後、社会契約論から導かれた行きすぎた自己責任主義が個人ではどうにもならないほどの貧富の差を生み出しました。19世紀には、国家に期待される役割は、「夜警」から「福祉」への転換を迫られます。
人間が常に合理的行動をとれるとも限りません。悪徳業者が、知識も判断力もない消費者から、利益を搾り取りリスクを押し付けることだってあります。そういう場面を想定して、民法とは別に「消費者契約法」が作られたり.....。

社会は常に変動し,それに対応しようとする法律も変動します。一つの法律の中で,ある条文が想定する社会状況と別の条文が想定する社会状況は食い違ったり、そもそもある規定が現代社会には「使えない」ものになっている場合(死文化)もあります。それぞれの規定の文脈が入り混じり,しかし法律全体としての一貫性も要求される。これは専門的に勉強しないと(勉強してても)解きほぐせないほど複雑です。

法律の規定が制定された際の趣旨を考えるとともに、それが現実問題に対処できるくらいの内容を備えているのかを考える。前者は条文の規定から出発し、後者は生の問題から出発します。そして常にこの間を行ったり来たり、反復横跳びしながら思考し続けないといけないのです。

....聞いただけでうんざりでしょうか?(笑)これを面白いと思えるかは、人を選んじゃうだろうなぁ、とは思います。慣れたら面白いです。勉強し続けていくと、一見全く意味がわからない条文でも、以上のような視点から見ていくと意味があって、そしてそれが今私たちが生きている社会をこんな風に支えているんだ、と気付ける瞬間がだんだん増えていきます。その瞬間が、法学を勉強していて一番楽しい瞬間です。

結語

まさか⑤まで続くとは(笑)。

「法学徒徒然」は、“法学部って何勉強するところなんだろう”という私の悩みに、一つ回答を示したいと思って書き始めたものです。基本的に、大学でレポート書く時でさえも書きながら構成を考えてしまう人間なので、今回も見切り発車で書き始めました。とりあえず書き切れてよかったです。

“法学部って何勉強するところなんだろう”

これ、本当にここ数年の私の大きなテーマです。というのも、法学部や法科大学院での勉強って、資格試験勉強になってしまいやすく、結局は範囲は膨大だけどやることは大学受験と一緒、みたいなところが結構あります。数学の問題の解き方を覚える、みたいなもので、法学部に引き直して言えば、論証の暗記と吐き出し、と呼ばれます。
知っていること、覚えることは大事なことです。ただ、そういう思考はどうしても「正解」を探してしまいます。でも、最終的に相手にするのは「社会」です。社会に正解はありません。正解を知って覚えてという勉強をしていく中で、「本当に勉強するってことなの?違うんじゃないの?」という疑問が、私の中で日に日に大きくなっていきました。大学受験の価値観とは違う物の見方が欲しくて、足掻いている途中経過を今回書きました。

あともう一つ。多分、多くの法学部生は、法学の勉強を単位を得るためだけに仕方なく勉強して卒業・就職していってしまうんじゃ無いかなって思っています(偏見かも。異論受付けます)。せっかく法学部に入学したのに、法学を面白いと思えずに、むしろ意味のわからないものだとうんざりして卒業していくなんて、寂しいじゃないですか。法学部に入ったけど、全然一ミリも楽しくない、とか、何を勉強させられているかよく分からないという学生の人らに、「単位取るための試験勉強という視点とは別の視点から法学を見つめ直してみたら、案外おもろいかもよ」ってことを伝えられたらいいなぁって思って書きました。

ここまで長々と書いてきました。最後までお付き合い下さり、ありがとうございます。これは、私の暫定の答えです。司法試験を受けた後、社会人になった後では、変わってくんじゃないかなって思ってます。そのときに、また続きを書けたらいいなと思っております。

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