設計(者)プロポーザルをリ・デザインする#004:「公共建築」実績を拡張する
実績の話を続けます。
今回話題にするのは、よく実績条件に設定される「公共建築」の定義です。設計者に求める実績として、「公共建築」である施設の設計経験があります。「公共建築」かつ「図書館」かつ「延床面積○◯平米」といった要件は極めて一般的です。さて、この「公共建築」とは何を指すのでしょうか。
まず最初に思いつくのは、国土交通省の「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)」でしょうか。あるいはその名もズバリな一般社団法人公共建築協会でしょうか。公共建築協会は公共建築賞を設け、長年表彰活動を続けています。賞では公共建築をこう定義しています。
ちなみに日本の法令では、「公共建築」はどう規定されているのでしょうか。e-Gov法令検索で調べてみたところ、脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律の条文に用例がありました。
意外なのですが、法的にはこれ以外に規定がないようです。ともあれ、上にあげた3つの用例を総合すると、国や地方自治体、それに準じる機関の建築を指して公共建築としているようです。実際、設計(者)選定プロポーザルでは、国か自治体の建築物を指していることが一般的です。
しかし、国や自治体の建築物を設計した実績を有することを条件として設定するのは、広く優秀な設計者を募るという観点からみて妥当でしょうか。この条件を満たすには、すでに公共建築実績がある設計事務所に属し、そこで経験を積んでいくことが必須となります。逆に経験の浅い若手・中堅の設計者で既存の設計事務所に属さない方々は事実上、排除されることになります。これはフェアな競争でしょうか。
10年ほど前でしょうか。この条件設定を知ったときは、哲学問答にも似た謎な問いと感じました。さすがにもう少し「公共建築」の世界を広げてみませんか。具体的には「公共建築」に一語だけ、「的」という言葉を差し込みます。「公共的建築」を条件として設定するということです。「公共的建築」とすることで、「公共性が高い施設」と定義を拡張します。すると当然「公共性が高い」の範囲が問われるのですが、私が手掛けるプロポーザルでは、「誰もが自由に出入りできる」ことを前提としつつ、あとは基本的に提案者自身が考えることとしています。
たとえば、私立ではあるが、極めて公共性が高い建築や施設が身の回りに潜んでいないでしょうか。たとえば、駅です。鉄道駅は私企業が設置しているケースが大半ですが、極めて公共性の高い建築であり施設ですよね。そういった建築もまた「公共的建築」ととらえれば、参加の敷居を適切に拡張できるのです。
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