タイヤの性能を使いこなせ2 【理論編】

前回でも書いた様に、地面との唯一の接点はタイヤだ。
曲がる、加速する、減速する、その全てに関係しているパーツがタイヤ。
レースにおいてもそれは不変であり、タイヤの性能で勝敗を左右すると言っても過言ではない。

バイクは何故曲がるのか?
それはタイヤのコーナリングフォース、つまりグリップ力により曲がっていく。
単純にバイクを傾けるとハンドルが倒した方向に切れていく、それによってコーナリングフォースと遠心力が発生するのだ。

キャンバースラスト等はややこしいので割愛するが、コーナリングフォースとは横方向のグリップ力の事だ。
※キャンバースラスト(BSタイヤHP参照)

横方向のグリップ力を使い、コーナリングをする。
あれ…なんか言ってる事がおかしい…?
荷重移動はどこいった?
コーナー進入時は、もちろんブレーキングにより前方、つまりフロントタイヤへの荷重移動が起こり、フロントのサスペンションが縮んでいく。
バイクの総重量(ライダー込)が260kgと仮定すると、その半分の130kgが何もしていない静止状態として考えると、ブレーキの強さや効きにも寄るが、前軸荷重150kgくらいには増えていく。

え、たったの20kg?

たったの、ではない。
20kgもの重量が増えているのだ。
人間が四つん這いになって腕の上部、肩の上に米袋10kgが2つ乗っていると考えて欲しい。
凄く重いよね?
その力で押しつけられたフロントタイヤは潰れ、路面との設置面積が増える。
ここが大事なのだが、設置面積が増える事により、路面との摩擦抵抗が増え、更に減速力が増すのである。
つまり早くブレーキングを終了できると言う事。
早くブレーキングを終了すると、その分コーナリングフォース(横方向)のグリップを増やせるからだ。
そして徐々にブレーキを緩めていき、タイヤの性能をコーナリングという横方向へと使える様にする。
つまりバイクを倒し込んでいくという作業に移っていくのである。
その一連の動作がコーナー進入(ブレーキング)〜コーナリング(パーシャル)〜コーナー脱出(アクセルオン)となる。
これがコーナリングの基本的セオリーだ。

コーナリングフォースに100%のグリップを使ったとして、もう余力がない。
この余力のない状態でブレーキ又はアクセルオンするとどうなるのであろうか?
答えはタイヤの限界を超え、スリップが始まるということになる。
102%くらいまでは制御できると前回書いたが、タイヤが限界を超えると軽いスリップ状態が起こる。
これを後輪で意図的に起こすのがドリフト走行だ。
グリップ走行といっても限界走行ではタイヤのグリップの100%を超えた部分を使って弱スライドを誘発させている。

話しを前輪のグリップに戻そう。
つまりコーナリングフォース100%の状態でブレーキ(減速)にタイヤグリップを使おうとすると、縦方向のグリップも発生する為、横方向のグリップ100%が限界を超えて外へ滑り出す。
これがアンダーステアだ。
もちろん加速方向のアクセルオンでもアンダーステアとなるが、後輪も同じ状況だとすると、後輪は逆にオーバーステア、軽いドリフト状態となる。
前後が外側へ滑っていると、総じてアンダーステアだが、前輪が滑っていない状態ではオーバーステアとなる。
なんだかややこしい。
フロントだけが滑るのがアンダーステア。
リヤが滑ってカウンターを切るのがオーバーステア。
リヤが滑っているがカウンターを当てないのがゼロカウンターオーバーステア(グリップ走行の極限)
フロント・リヤ両方滑るのはアンダーステア(四駆を除く)。

結局のところ、何が言いたいかと言うと、タイヤのグリップ力100%は不変であり、それを前後方向と横方向に分配しなければ限界を超える、スリップすると言う事だ。

タイヤに荷重を乗せてたらグリップ力が上がるのか?
答えはNOであり、YESでもあるのだが、
タイヤ本来のグリップ力は100%で変わらない。
ただし設置面積が増えることでの恩恵は無いわけではない。
滑り出しがゆっくりになると言おうか。
例えば、公園の滑り台のツルツル面を手を着いて上がろうとする場面で、手の平を設置させるのと、指だけを設置させるのとでは、どちらも滑るが、手の平の方が滑り出しが遅い。
摩擦面が大きいので抵抗も増えているからだ。
これがタイヤを潰して設置面を増やすということである。
なので、荷重移動で設置面積を増やして滑りにくくする、が正解だ。

ブレーキングの荷重移動により潰れたタイヤの画像

ブレーキングによって、フロントに荷重を乗せ、まずは縦方向(前後)のグリップ力を100%使い、徐々に緩めていき、横方向(コーナリングフォース)のグリップ力へ移行していくのがコーナー進入となる。
コーナーの進入が上手くいったかどうかで、でコーナリングの速度、すなわちタイムが8割形決まると言ってもいいだろう。   

ブレーキングが難しいと言われる所以は、このタイヤのグリップ力の方向移動と荷重移動がデリケートで、更に同時に起きることで繊細な配分が難しいからである。 

コーナリング中はアクセルをパーシャル(弱開け)でコーナリングフォースとリーン角のバランスに集中し、向きを変える。

コーナー脱出は、アクセルオンでバイクを徐々に起こしながら加速していく。
この時、リヤタイヤがスライドしない様にアクセル操作も繊細な作業となるが、コーナー進入の難しさほどではない。

タイヤの性能を使いこなす、という事は、荷重移動も必要になると言う事である。

普通のライダーは、ここまで必要なのか?と思うかもしれない。
しかし、これが速く走ると言う事、上手くなると言う事、他人よりタイムを縮める、という事の理屈である。






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