ウマ漢 第1話「始まりの予感」

〜闇の世界〜

ここは、闇の世界に聳え立つ闇の巨城の裏に広がる大草原地帯に佇む闇の獣舎、ここでは前闇の王であるハザードがジンや義一、爾魏、高千穂達が乗る馬達を日々監視をしていた。

そして、いつもの様にハザードがみんながいる場所にやって来ると話し合いが始まる。

ハザード「元気そうだな、闇斬馬」

闇斬馬「まぁな。それにしても主と言い、お前と言い、馬の使い勝手が荒くないか?」

ハザード「そんなことは、いつものことだ。まだ、傷は、痛むか?」

闇斬馬「あぁ…まさか、自然種とやり合うことになるとは思ってなかったからな」

???「闇斬馬が心力を解放してなかったら我々は、あの攻撃で死んでいた事だろう」

???「しかし、あの激戦の中で良くあれだけの心力が残ってたもんだぜ」

闇斬馬「俺自身も驚いてはいる…今でもわからない…」

その話を聞いていたハザードが少し微笑む。

闇斬馬「何がおかしい、ハザード」

ハザード「まだまだだなと思ってな。貴様もやはりジンの奴に似てる。あいつもまた本当の愛を探している」

闇斬馬「本当の愛…」

ハザード「お前があの時に視界に入ったのは…奴の攻撃より創天馬の姿だったのでは無いか」

闇斬馬「何を訳のわからないことを」

ハザード「なぁ、鳳凰よ」

鳳凰「恐れながら私は、あの時、雷電殿を守るのに必死だったもので」

雷電「俺なんか奴の攻撃を防ぐために大切な双角を粉々にされて動けなかったんだからな。おかげで戦いが終わった後、麒麟の奴に蒼雷角とユニコーンの奴に白電角の叡智(ちから)を貰うために土下座したんだからな💢」

ハザード「我も付き合ったであろう」

雷電「なんで、俺が頭下げんとならんのだ💢」

鳳凰「まあまあ、落ち着いてくだされ、雷電殿」

闇斬馬「その勇姿が認められて光の領域に入ることを許されたんだろ? 並大抵なことじゃないぜ、闇の者が光の領域に入れるってのはな」

ハザード「話は、聞いているが、雷電よ。貴様、ブーディカのことを気にかけていると噂になってる様だな」

雷電「そんなの知るかよ」

ハザード「所で、穂乃火は?」

鳳凰「穂乃火殿は、今朝早く皆さんと一緒に走って来ると言っておりました」

ハザード「そうか、それじゃ、飯にするか」

そう言ってハザードが獣舎から外に出て、空を見上げると5つの流れ星が天を駆けていた。

ハザード「ほう、新しい生命(いのち)か…ん?」

5つの流れ星の内の1つが軌道を外し、違う所に向かって落ちて行く。

ハザード「あの方向は…瞑星の丘がある方向か…」

何かを察したハザードは、急いで獣舎の中に入ると闇斬馬に声をかける。

ハザード「闇斬馬、行くぞ」

闇斬馬「わかった」

そう言うと闇斬馬は、人間の姿から馬の姿に変わるとハザードが乗馬すると獣舎を飛び出し、瞑星の丘に向かって走って行く。

闇斬馬「ハザード、どこへ向かう?」

ハザード「瞑星の丘だ」

闇斬馬「瞑星の丘に? どうして、いきなり…」

ハザード「5つの流れ星の1つが軌道を外れ、そこに落ちて行くのを確認した」

闇斬馬「そんなことがあり得るのか…」

ハザード「それを確かめに行く」

闇斬馬「瞑星の丘に行くには昆生族と獣族の領域を突き抜ける必要がある」

ハザード「貴様なら余裕だろ」

闇斬馬「ああ」

ハザード「奴らに殺される前に我々で保護する」

ハザードは、さらにスピードを上げると遠くから昆生族の群れが現れる。

ハザード「俺の闇の気配を察知して出て来たか」

昆生族の群れから槍や黒紫色の光線が飛んで来る。

ハザード「はいやっ!」

ハザードの一言で2人を包み込む、闇領域を展開すると飛んで来る攻撃を弾き、群の中に突っ込むとその領域に触れた昆生族は、跡形も無く消えて行くのだった。

ハザード「雑魚が」

次に獣族のエリアに入ると同時に2人を狙う豹の姿をした闇の群が現れる。

ハザード「我に挑むか」

群の1部がスピードを上げ、ハザードの前に出ると地面を蹴り、ハザードに襲いかかる。

それを見たハザードは、右手に黒紫色の光を集めると襲い来る奴らに向かって拳を突き出す。

襲いかかって来ていた奴らは、その光を浴びて跡形も無く消し飛ぶのだった。

ハザード「勉強しない奴らめ」

闇斬馬「ハザード、左だ」

ハザードが左を見るとそこには変な黒水色の妖気を纏った豹の姿をした闇が走っていた。

ハザード「奴らは…試すか」

ハザードがさらに速度を上げるとそいつらも引けを取らずに走り続ける。

ハザード「ほう、この闇斬馬の速度に追い付いて来ようとは面白い」

闇斬馬「奴ら…自然種の加護を…」

ハザード「おそらくな…でなければこのスピードは、出せん」

闇斬馬「どうする」

ハザード「ふっ、簡単なこと。このまま、瞑星の丘まで付き合ってもらうだけよ」

5体は、周りのことなど無視してそのまま瞑星の丘に向かって走って行く。

その途中、追いかけて来ていた奴らに異変が生じ始める。

走っている途中で追っていた1匹が勝手に内部爆発を起こしたのだ。

ハザード「自分の力量を知らぬ愚か者め」

闇斬馬「自分の身体が速さに追い付けなかったのか」

それに続くかの様に残りの3体も内部爆発するのだった。

ハザード「たとえ、どの様な凄まじい力を手に入れようともそれに見合った心の器がなければ自分を破滅させるだけ」

そして、2人は、瞑星の丘に到着するとそこに白い毛並みをした馬が横たわっていた。

ハザード「奴だ」

闇斬馬「ハザード!」

それを狙うかの様に今度は、ハイエナの姿をした闇の群れが近付いていた。

ハザード「闇斬馬、俺を奴らの前で降ろせ。お前は、奴を」

闇斬馬「わかった」

闇斬馬は、地面を蹴り、断崖絶壁とも言えよう岩壁を駆け下り、始める。

そして、ハイエナの姿をした闇の群れの前に降り立つとハザードは、闇斬馬から降馬する。

ハザード「奴を頼んだ」

闇斬馬は、すぐにその馬の元に走って行く。

ハザード「来い、我が相手になろう」

闇斬馬は、倒れている馬の傍に駆け寄るとまずは、生きているかどうかの確認をする。

闇斬馬「聞こえるか?」

???「…………」

次に顔をその馬の身体に近付けて匂いを嗅ぐ。

闇斬馬「まだ、生きてる。ハザード、俺を人間に」

ハザードの方を見るとハザードは、襲いかかって来ていたハイエナの姿をした闇の首を右手に持ち上げていた。

ハザード「ここで、人間の姿になったとしても俺達だけでは獣舎まで運ぶことはかなり無理がある」

この詞と同時にそのハイエナの首を握り潰すと地面に投げ捨てる。

闇斬馬「このまま放っておく訳にもいかないだろ!」

???「へっ、どうせそんなことだと思ったぜ」

2人が声のした崖の上を見るとそこにいたのは馬の姿をした鳳凰と雷電の2人だった。

ハザード「鳳凰、雷電」

鳳凰「ハザード様、ここは、私が引き受けます」

雷電「俺が援護に入るぜ」

ハザード「わかった。闇の力を解放する」

ハザードは、腰に付けている鞘から七星剣を引き抜くと願いを込める。

ハザード「七星剣よ、この者達に人間(ひと)である権利を与えたまえ」

そう唱えると七星剣から黒い光球が3つ飛び出して闇斬馬と鳳凰、雷電の体内に入ると3人の姿が人間(ひと)に変わる。

雷電「よっしゃー!やーってやるぜ!」

鳳凰「我が業火に焼かれたい奴は…どちら様ですか」

2人が崖から飛び降りると鳳凰は、ハザードの所へ行き、雷電は、闇斬馬の所へ走って行く。

鳳凰「ハザード様、ここは、私目にお任せを」

ハザード「頼むぞ」

ハザードが闇斬馬の所に向かうとそれを追いかけようとするハイエナの前に紅蓮の炎を纏った豪槍を振り翳す鳳凰の姿があった。

鳳凰「この炎に焼かれたくなければ下がれ」

その頃、雷電は、闇斬馬の所にやって来ていた。

雷電「闇斬馬」

闇斬馬「雷電」

雷電「こいつか…見た感じは、まだ幼いな…きっと、途中で力尽きちまったんだな」

闇斬馬「でも、まだ、息がある。獣舎に連れて行けば助かる」

そこにハザードも合流する。

ハザード「闇斬馬、様子は」

闇斬馬「息は、ある。しかし、かなり弱っている…元々光の者だとすればそう長くは持たないかもしれない」

ハザード「闇斬馬、運ぶぞ」

闇斬馬「ああ」

雷電「援護は、任せな」

ハザードと闇斬馬は、手分けをして倒れている馬を運び始める。

雷電「ここから獣舎までかなり距離があるぜ。体力が持つのかよ」

闇斬馬「やるだけやるんだ」

ハザード「闇の馬の体力と脚力は、人間の約5倍ある。闇斬馬は、その馬のそのさらに46倍、230倍の馬力を持つことになっている」

雷電「うへぇ…聞けば聞くほどバケモンだぜ…」

ハザード「当たり前だ、これまで人間(ひと)の欲望によって死んで行った大勢の名馬達の心と魂を受け継いだ馬なんだからな」

闇斬馬「それより、今は、こいつを送り届けることが何よりだ」

3人が運んでいると別のハイエナの姿をした闇の群れが現れる。

雷電「お出ましだぜ! 一気に丸焦げにしてやる!」

雷電は、右手に蒼電を宿した剣を握り、左手に白雷を宿した剣を握ると技を繰り出す

雷電「走れ! 雷鳴! 電流斬波」

そう言うと雷電は、その場で1回転すると蒼白の稲妻が円状になって電撃を地面に帯電させながら飛んで行く。

ハイエナの姿をした闇は、飛んで来る波をしゃがんだり、飛び越えて避ける。

雷電「掛かったな、放電!」

雷電が剣を交差させると帯電していた地面から高圧の電流が放出される。

それを食らったハイエナの群れは、丸焦げになって黒い霧になって消えて行くのだった。

闇斬馬「凄いな」

雷電「これが俺があの戦いで新しく手に入れた叡智(ちから)さ」

ハザード「地面に帯電させるとはな。自然種に逆らったことだけはあるな」

雷電「自然に逆らった訳じゃねぇよ。護りたい奴の為に戦ったまでのことさ」

そして、やっと獣族の領域を抜けようとした時、後ろから鳳凰がそのままの姿で飛んで来る。

雷電「おっ、帰って来やがったな」

鳳凰が人間の姿に戻るとみんなと合流する。

鳳凰「ハザード様、闇斬馬殿、雷電殿、ご無事で」

雷電「なんとかな」

闇斬馬「ここから先は、昆生族の領域だ。鳳凰の叡智(ちから)の方が優位に立てる」

鳳凰「承知、所で、彼の方は?」

ハザード「まだ、息があるが、なるべく早く向かった方が良いだろう」

雷電「ハザード、代わるぜ。疲れただろ」

ハザード「これぐらい何ともない」

雷電「昆生族なら俺の電撃よりあんたの叡智(ちから)の方が良いはずだ」

闇斬馬「ハザード」

ハザード「……なら、頼む」

雷電「あいよ」

ハザードは、雷電に場所を代わると昆生族の領域へと入って行く。

案の定、蜂や蝿の姿をした大量の闇が出現するもハザードと鳳凰の業火で焼き払われるのだった。

その後は、蛾や蝶の姿をした大量の闇が立ち塞がるも、もはや敵に在らず、立ち塞がった者全てを焼き払うのだった。

そして、そんなことを繰り返しながら長い昆生族の領域を通り抜けるとようやく闇の巨城の領域に入る。

ハザード「ここまで来れば奴らも追っては来れない」

雷電「まったく…数だけ無駄に多いから変な体力を使っちまうぜ」

4人は、急いで闇の獣舎に戻ると空いてる厩舎(きゅうしゃ)にゆっくり寝かせる。

ハザード「闇の干渉を和らげる」

ハザードは、連れて来た馬が寝ている厩舎の所に闇結界を張る。

ハザード「これでしばらくは、大丈夫だろ」

雷電「それで? これからどうするんだ?」

ハザード「とりあえず、いきなり目を覚まして暴れない様にロープか何かで縛ってた方が良いだろうな。ロープを取ってくる」

そう言うとハザードは、獣舎から出て行くのだった。

鳳凰「これで一安心でございますな」

闇斬馬「まぁな。しかし、なぜ、軌道を外れたんだ…闇の領域を通り抜けるならそれなりの力は、持っているだろうに」

そして、ハザードがロープを持って戻って来る。

ハザード「持って来たぞ」

雷電「よし、縛るか」

鳳凰「お待ちください、この者が女性だったら…」

雷電「考えろって、鳳凰。もし、女だったらこんな危険な所なんて通らせねぇって」

鳳凰「確かに…」

ハザード「闇斬馬、そっちを頼む」

闇斬馬「わかった」

そうしている間に遠征に行っていた高千穂の愛馬、穂乃火と仲間達が人間の姿で帰って来る。

穂乃火「よう、帰ったぜ、漢ども、あたしがいなくて寂しかっただろ? ほら、土産を持って来た…」

穂乃火の目に入ったのは倒れている若い女の子を複数の男性がロープで手足を縛っている光景だった。

その光景を見た穂乃火は、手に持っていた土産を地面に落とし、大声で叫ぶ。

「おんどりゃ、なにしとんじゃーーー!!」

あまりの大声に闇斬馬達が穂乃火の方を振り向く。

闇斬馬「おっ?帰って来てたのか、穂乃火、何してるって…保護して…る゛ぶっ!」

その瞬間、穂乃火から右ストレートの拳が闇斬馬の左頬を捉えると闇斬馬は、獣舎の壁を貫き、外に飛び出す。

それを見た鳳凰が止めに入る。

鳳凰「落ち着いてくだされ、穂乃火殿!」

穂乃火「見損なったぞ、あんた達!」

雷電「はぁ? こっちは、人…じゃなかった、馬助けしてるのになんで怒られてんだよ」

穂乃火「あんたら、なんで人間の姿にさせてないんだよ! そいつは、女の子だ!」

その詞を聞いたハザード達は、すぐにロープを解くがこっぴどく穂乃火に怒られるのだった。

そして、鳳凰が事情を話すと穂乃火は、不機嫌ながらも納得する。

穂乃火「なるほど、あたし達が留守にしてる間にそんなことがねぇ…本当か?」

鳳凰「ええ、私が証人となりましょう」

穂乃火「鳳凰が証人なら疑う余地は、無いな。事情は、大体わかった。この子の身の回りの世話は、あたしがするよ」

鳳凰「助かります、穂乃火殿」

穂乃火「でも、訓練は、あんた達でしてやんなよ。この子、おそらく戦争のために育成された子だよ」

ハザード「なぜ、光の者達がそんなことを…」

穂乃火「さぁね。ただ、向こうでもあたし達が知らない何かしらの影が動いてる…そんな感じがするよ。それで? これから、どうするつもり?」

ハザード「まずは、目を覚ますまではこのままだ。意識が戻って話し合いをしないことには先へは進めん」

穂乃火「そうだね。無事に回復してくれると良いんだが…」

雷電「所でよ、闇斬馬の奴は?」

その頃、殴り飛ばされた闇斬馬は、獣舎の外に立っていた樹木に顔を突っ込んでいた。

闇斬馬「なんで俺だけこうなるの…」

次回に続く。

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