いきもののかなしい話

小学校1年くらいの、多分春が近い冬のよく晴れた日曜日のお昼だったと思う。

私は小さなアパートに両親と生まれたばかりの妹と住んでいた。

郵便を取りに行こうと外に出たら、ポストの隣にあるうちのベランダの前にムクドリのような鳥の赤ちゃんが2羽アスファルトに落ちていた。

どこからきたんだろう。
アパートの周りはぐるりと道路に囲まれていて、植物も小さな田んぼの他は、20mほど離れた立派な家の庭くらいしかなかった。
風で飛ばされちゃったのかな。

家に戻り、ダンボールの箱といくつか役立ちそうなものをとってきて、小鳥たちをそっと入れてあげた。
フワフワしていた。
なにを食べるのかわからなかったので、パンをちぎってみたけど、全然食べなかった。

母に報告したところ、そのまま外に出していれば親が迎えにくるだろうと言った。私は少し安心して、パンをもう少し多めに入れてしばらく待った。

きっとお母さんの鳥がやってきて、背中に乗せて1羽ずつ巣に帰るんだと思った。
お母さんの鳥も喜んで、私に頭をなでさせてくれるかもしれないと想像した。家で猫は飼えないけど、鳥が遊びにきてくれたらベランダで会えるな。

ところがそう自然はうまくいかなかった。
外が騒がしくなったので、見に行ったら、同じ種類の鳥がダンボールの中をギャアギャアとつついていた。
急いで走って近寄ると、鳥たちはパンをくわえて逃げていった。
小鳥は少し弱ってしまったように感じた。

もう一度家に帰って母に説明をしたら、眉毛がハの字に下がって、どこかに電話をし始めた。
野鳥について詳しい機関が大人の世界にはあるらしい。じっと電話の横で話を聞いていたけど、解決はしないことだけがわかった。

母は「ベランダに箱ごと置いてあげよう、古いタオルも入れてあげて良い」と言った。
私はできるだけふかふかなタオルを選んで、小鳥たちをふんわり包んだ。

だんだん時間が経って、日が暮れた。電線にとまっている鳥はいないか何度も確認したけど、なにもいなかった。

あたりが暗くなる頃、1羽が冷たくなってしまった。
私は母に「もう1羽も死んでしまうから家の中にいれてあげたい」と懇願した。
母は「カイロを入れておけば大丈夫だよ」と言った。

心配であまり眠れなかった。
朝、普通なら登校の時間ギリギリまで寝ているけど、その日は明るくなるとすぐにベランダの扉をガラガラと開けた。
箱を覗いた。
やっぱり私の願いは叶わなかった。

それからは「どうしてなんにもできないんだろう、なんで鳥のことをもっと私は知らなかったんだろう、図鑑だけじゃなくて育て方の本も読むべきだったんだ」と自分の無知を責めた。

母は「ああ……」と言ったきり黙ったまま、こちらを見ずに、そのダンボールを車に乗せて、すぐ近くの河川敷まで私を連れて行った。

赤いシャベルで土手にちいさなくぼみを作った。
小鳥の形をしたぬけがらを手のひらに乗せたとき、かわいいものはこんなに弱いのかと胸がやぶけそうだった。

ごめんね、ごめんねと何度も呟いて隣同士に並べて、ふとんのようにできるだけ重たくないように砂をかけた。

母はそのとき少し泣いていたと思う。

学校に行くといつもと変わらないように友達が元気に声をかけてきた。
あれっ目がはれている、赤いね、どうしたのと言われたけど、私は何も言わなかった。

今日まで誰にも言えなかった。