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エッセイ 海に行くつもりじゃなかった

風薫る5月。

新緑は目に眩しく、気持ちも足取りも軽くなって、用事なんてなくても気ままに出かけたくなりますよね。もしかしたら素敵な出会いがあるかもね、なんて淡い期待を抱いたりして。

漫画「海に行くつもりじゃなかった」を描いたのは、ちょうど1年前の5月のことでした。もう若くなくなっても、毎年この季節に訪れる瑞々しい気持ちというか、何かがはじまりそうな予感というか、そういう気分を描いてみたかったんだと思います、たぶん。

さて、季節はめぐり、時は2020年、ふたたび5月。世界は新型ウイルスの脅威の元、不要不急な外出はご法度、気ままなお出かけなんてもっての他、という剣呑な雰囲気です。「海に〜」の青年のように、電車に乗って、見ず知らずの女の子につられて、行くつもりもなかった海まで出かけてしまう、なんて展開は、いまや隔世の感すらあるぜいたくのように思えます。
青年の目に、世界が、女の子が着ているボーダーシャツのストライプ模様に包まれて見えたように、いまや私たちには、5月の心地よい空気が、恐ろしいウィルスに汚染されているように思えてしまう。ああ、隔世の感。

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はやく”Stay Home”の呪縛から逃れ、目的も理由もなく、思いつきや気分の赴くままに、どこかに出かけられる日がくるといいな。1年前に描いた漫画を読み返してみて、そう願わずにはいられません。

ところで漫画のタイトルは、フリッパーズギターの1989年のアルバム「three cheers for our side 〜海へ行くつもりじゃなかった」から拝借しています。そのタイトル自体、イギリスの古い児童文学からとられているようです。まさに子供の頃に読んだ児童文学のような、瑞々しくも懐かしい、5月のBGMにぴったりの名盤です。




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