A∩C:デジタルで建設をDXする[098]

 本稿91「ファストリがBIMスペシャリスト募集」で報告した事業主(施主)側のBIM動向を深掘りするべくファーストリテイリング(ファストリ)の湯山知加子氏(グローバル出店開発部店舗設計業務基盤チームリーダー)にBIMの現在地と次なる展望を聴いた。

家具・什器などのファミリ(部品)を開発してクラウドベースのデータベースで管理運用

 出店開発部には、設計施工チームがあり、建設業界の出身者を中心にCADを援用して設計を内製化していた。ファストリとして正式にBIMソフト「Revit」を使い始めたのは15年頃であった。家具・什器などのファミリ(部品)の開発に着手し、約700種類のファミリをクラウドベースの施工ドキュメント管理ソフト「BIM 360 Docs」上で管理、運用、データベースのルール化、共通化を行うテンプレートも整備した。データベースの構築によって社員間での経験の継承と知識の共有を実現している。
 設計に際しては、家具・什器などのファミリを床・壁・天井などのファミリと組み合わせて3次元の仮想空間上で視認しながら配置していく。CADからBIMへと設計手法を革新したことで国内外を問わず、設計効率の向上と製図品質の平準化を実現した。施工時にも、BIMによる情報の見える化によって関係者間の合意形成の質が高まり、手戻りによる追加コストの発生も回避している。

視野に入るデジファブ技術での製造直結+企画商品と家具・什器のセットでの配置合理化

 ファミリにはユニークなIDが振られ、寸法、コストなどの属性情報が付与されるので、将来的に店舗運営のさまざまな局面で利活用できる可能性を秘めている。
 ファミリをデジタルファブリケーション技術と連動すれば製造と発注に直結できるし、企画商品を専用の家具・什器とセットにすることでロジスティックスの効率化も見込める。不動産オーナーに対しては、BIMデータを根拠に出店メリットがより詳細に明示できる。

全ブランドの事業戦略の構築とグローバルな出店網の拡大というミッションの達成を指向

 成長の原動力となっているのが積極的な海外展開だ。グループ全体の店舗数は、23年2月段階で、約3,600店を数え、主力事業のユニクロは国内外合わせて約2,400店、内訳としては約2/3が海外店舗だ。出店先の地域や国も25に上り、今後も出店をさらに加速させる。
 BIMスペシャリストの募集に際しても、ミッションとして全ブランドの事業戦略の構築とグローバルな出店網の拡大を掲げている。更に旗艦店の出店、積極的なスクラップ&ビルド、デジタル化などが求められる中で、それぞれの地域にとって最適な出店を行うと表明、BIMの援用が全社戦略推進の中核であり、経営課題の解決に直結するとの認識が明示されている。

変化を指向する多様な流れの中にこそ位置づけられるBIM援用によるデジタル戦略の展開

 ファストリを巡る話題でメディアが賑やかだ。最大40%の賃上げを公表、22年9月〜23年2月期の連結決算では営業最高益を記録した。Tiktokでは1,500円の「ラウンドミニショルダーバッグ」がバズり、「ミレニアル・バーキン」といわれている。4月21日開業の「ユニクロ前橋南インター店」では、古着を裁断して断熱材として再利用、消費電力の15%を太陽光パネルでまかなう。
 個別に起こっているような動きも、底流では指向を同じくしており、変革へのエントロピーを増大させている。新しいライフとウェアへの提案共々、変化を指向する文脈の中にこそ、BIMの展開を戦略的に位置づけることができる。

ユニクロ前橋南インター店の外観パース例。歩行者やドライバーの視点からの店舗の看板の見え掛かりや入店への動線などのシミュレーションに3次元建物モデルを利用している。

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