座・高円寺CTAラボ『東京トワイライト ー強盗団と新しい家ー』感想
2024年2月22日(木)〜2月25日(日)「座・高円寺1」で行われた劇『東京トワイライトー強盗団と新しい家ー』の感想です。私が観たのは初日の2/22になります。
東京というよりも「現代」
いわゆる「大道具」というものが全くない、がらんどうで均一な照明のなかで、おそらくコンビニから舞台が始まる。
店員とみられる役者の小声だけが響き、その音でかえって静寂である。この「静寂さ」は結局終曲までほぼ全体を通して続くことになる。
場面として展開される場所はコンビニ、ホームセンター、ファミレスなど常に現代的であり、一人一人が他人と極力かかわらず孤立しているようでありながら、「他人にどうみられるか」を記号的に捉えたかのような行動は、「東京」というよりも「現代」そのものである。むしろ「東京」ということに違和感というか作為さえ感じられる。
そもそも劇中に登場する「パイプ爆弾」も和歌山市の、かなり郊外で起きた事件だったはずだ。しかしそれで例えば「和歌山トワイライト」ではいろいろと問題があったのだろう。ではなぜ「東京トワイライト」だと問題がないのか? それはおそらく「東京」だけが日本人全体に共有され得る、ほぼ唯一の都市だからだと思われる。
ともあれ、それほどどこにでもあるそれなりの都市の風景が徹底して展開される。
幻滅
初演のその日、雨にもかかわらずほぼ満員に近い状態だった。おそらく観客は100人くらいはいたはずである。決して小さくはない箱だ。にもかかわらず、少なくとも私はすっかり幻滅して途中で帰りたくなってしまった。
おそらくこの戯曲自体は決して悪くはない。むしろ挑戦的なもので好感が持てる。しかし、これは多分もっと小さい箱でやるべきものだ。なんでこんな大きな箱でやるのかよくわからない。空間が全然使えてない気がするし、まるで「コロナ禍の風刺ですか」というくらいソーシャルディスタンスよろしく滑稽な間延びした距離感になってしまっている。
あとでわかったことだが、この舞台が会場でもある「座・高円寺」が主催する演劇学校「劇場創造アカデミー」の修了生のものであることがわかった。それで納得がいった。このただっぴろい箱でなければならないし、おそらく観客もほぼ関係者である。そうでなければこんな劇にこんなに人が来るはずもない(何度も言うが戯曲は悪くない)。ただ、戯曲と場所がミスマッチだった。もっといえば役者もミスマッチだった。幾人かは別にして、何人かこの戯曲に対して技量が伴っていない。
『神は細部に宿る』
『神は細部に宿る』と言う言葉そのものは劇自体には何も関係ないのだが、劇の間中この言葉をかみしめることになった。
今回の戯曲はいわゆる「演技」をかなり抑制された表現になっている。つまり、演技であるにもかかわらず演技をしてはならないという状態を強制させられている。これは実際のところ大変で、かなり役者の技量が要求される類のものだ。演者からしてみれば「能」さながらに抑制された動きと声というのはかなり苦しいだろうし、抑揚がないぶん精密な動きが自然に要求されてしまう。
だがそれを演者たちが全員理解していたのだろうか、というとかなり疑問を持たざるを得ない。
有り体に言ってしまうと「演技をしてはならない」というのは、少しズレてしまうと素人そのものである、学芸会になってしまう。それは演技になりきれていない、演技になっていないということだが、「演技をしてはならない」と「演技になっていない」の差は表面上は見えないため、ともすると本当に見ていて辛いものになってしまう。だからこそ「神は細部に宿る」をいやおうなく演者に突きつけるのだ。指先一つ緊張していなければおかしいはずである。気を抜けばとたんにチープに見えて「学芸会」になってしまうのは、少なくともプロを目指す役者にとっては恐怖でしかないはずだからだ。
しかもこの手の演出は、一人でもダメだと伝搬するというか、劇全体に影響する。本当に「いったい何をみせられているのか」という有様であった。
なぜこんな箱でこの役者たちに、この演出を要求したのか。その意味では
「新たな表現の扉」(フライヤーの一節から引用)という言葉には失笑しかでてこない、失敗作にしか見えなかった。
全体に漂う緊張感
フォローするわけではないが、戯曲そのものの評価に触れてみたい。
本稿の冒頭で述べたとおり、これは「現代」の話である。そして、演技を抑制されたことで捨象された部分を観客自身の想像力によって補完させることで、かえってリアリティをもつ「現代」を表現しようとした意欲作である。
そのため、観客はある種の緊張感を持たざるを得ない。なぜなら観客自身の想像力は観客一人一人の内部から生まれたものだから、それによって補完された「現代」とは観客たちの日常=いまに他ならないからだ。つまり、役者を通して自分自身の生活そのものを暴露されているかのような錯覚に陥らされてしまう。
そのうえで、「強盗」とか「爆弾」という不穏な空気が貫入されていく。だが演技や演出といったものが排除されたなかでそれを補完したのは観客自身に内包されていたものなので、リアリティがないものとしてみることができない。実際に「強盗」や「爆弾」は時事であり、実際に起きていることである。それを「どこかで起きていること」ではなく「身近に起きていること」と思わせる周到な演出になっている。
それはもしかしたら遠回しに「現代」ではなくて、演劇「業界」のありかたを風刺している可能性がある。抑制された演技がその説を補強する。その風刺の槍はこの舞台である「座・高円寺劇場創造アカデミー」にすら向けられている。
惜しむらくはもっと小さい箱で、もっと悲壮感のあるプロの役者で観たかった。
実際に舞台の客席に漂っていた「緊張感」は身内が演じているのをかたずをのんで見守る親のような緊張感だったのかもしれない。
概要
CTAラボ「東京トワイライトー強盗団と新しい家ー」
作・演出:松田正隆
出演:大木実奈、河原舞、久世直樹、清水詩央璃、牧凌平、三谷亮太郎、吉田彰文
※もう1人(2人?)いるはずなのだがキャプションがない。名前を出す価値もないということか
照明:岩城保
音響:島 猛
照明操作:是安理恵
舞台監督:佐藤昭子
演出助手:飛田ニケ 村井萌
オンライン広報:與田千菜美
営業・宣伝:佐藤和美 森田諒一
期間:2024年02月22日(木)~02月25日(日)
会場:座・高円寺1
座・高円寺劇場創造アカデミー
https://za-koenji.jp/academy/index.html
note:https://note.com/za_koenji_cta
X:https://twitter.com/CTAcompay_2021
※冒頭画像はXから借用しています。
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