イチから始めるアルカスイス 〜アルカスイスとは〜
アルカスイスとは?
巷でよく見聞きするアルカスイス(ARCA-SWISS) とは一体なんなのか?
答えは1926年創業の「アルカスイス・インターナショナル社」というカメラメーカーです。現在の所在地はスイス ヴォレラウに、フランス ブザンソンに本社を置くビューカメラのメーカーです。
ビューカメラとは独立したファインダーを持たないカメラのことで、基本的にレンズ、蛇腹、ガラス(フィルム挿入部)の三つの部分から構成されます。「よく分からん」って人は下の画像みたいなカメラのことです。
このアルカスイス社製カメラのレール(プレート)を、脱着するために開発されたものがいわゆる「アルカスイス式クイックリリース」システムなのです。
アルカスイス社の歴史
1926年…スイス チューリッヒに、アルフレッド オシュヴァルトが「アルカスイス」社を設立。
アルフレッド オシュヴァルトが退社後、その兄弟が会社を引き継ぎ、カメラの修理工場を立ち上げる。
1950年代…プロ用カメラの開発・販売。
1964年…自社カメラ用の自由雲台を開発・販売。
1984年…Philippe Vogt社に買収される。
1990年代…自由雲台 B-1のヒット。1989年にリニューアルされたB-1が世界的に普及し始める。
1999年…本社をフランスのブザンソンに移転、「アルカスイスインターナショナル」社を設立。
現在に至る
アルカスイス式クイックリリースシステムの仕組み
アルカスイス社が採用しているレールは、建築や金属加工の分野で「アリガタ」と「アリ溝(アリミゾ)」と呼ばれる方式です。アリガタがプレートの取り付け部分、アリ溝がクランプの取り付け部分です。
この方式は古くから天体観測の分野では取り入れられていたようですが、スチルカメラ業界に取り入れたのがアルカスイス社だったのです。
アルカスイス固定方式のメリット
ではこの固定方式にどんなメリットがあるのでしょうか?具体的に3点挙げてみましょう。
①スピーディに脱着できる。
②プレートをスライドさせるだけで重心位置を変更できる。
③面接触で固定するため特定の箇所だけが削れたり、バネの緩みによって固定部分にガタが出るといった事が起こりにくい。
逆にデメリットとして「機材を落とす」「重い機材だとズレる」がよく挙げられます。
機材を落とすのは、もうアルカスイス式は関係無いのではないかと思いますが、注意していただくしかありません。
次の「アルカスイスは構造上、望遠レンズで使うとズレる」といった意見に関しては、互換性に問題があったのだと思われます。確かに互換性が悪いメーカーだときちんと固定できないこともあります。
そもそも同一メーカーであってもわずかな個体差があります。他メーカーはさらにそれを真似て作るのですから、各メーカーによって誤差が生じるのは当然です。計測機器の違いによる誤差もあれば、「ミリメートル」「インチ」の違いによる僅かな誤差もあるでしょう。
この誤差がいわゆる「アルカスイスの互換性問題」です。
規格化されないままアルカスイスの類似品たちがデファクトスタンダードになってしまった事による弊害です。
近年、互換問題は随分解消されてきましたが、規格化されない限りは完全に解消される事はありません。なるべく使うメーカーを統一したり、互換性の有無をネットで検索して調べるなど、購入の際には十分注意が必要です。
さて話しを戻して「アルカスイスは構造上、望遠レンズで使うとズレる」ですが、互換性に問題がない場合は、まずズレることはありません。
一見すると、レール式のクランプはスライド方向に対して大きな力が加わった時に、滑ってしまいそうに感じます。
しかし互換性の問題のない機材を使えば、面接触の摩擦力により、たとえ数十kgの負荷が掛かったとしても0.1mmだってズレることはありません。
アルカスイス互換?アルカスイスコピー?
先述の通り、1964年に自社ビューカメラを固定するために生まれたARCA-SWISS式クイックリリースシステムは、一般カメラ愛好者にも広まってゆきました。現在ではあらゆる雲台メーカーが採用するデファクト・スタンダードとなっています。
しかし実際に規格化されている訳ではありません。我々が「アルカスイス互換」「アルカスイス規格」と勝手に呼んでいるだけで、現実のところ「アルカスイス模倣品」あるいは「アルカスイス類似品」という表現のほうが正しいかもしれません。
日本でのアルカスイス互換自由雲台の現状
価格.comの三脚売れ筋ランキングを見ますと、雲台付き三脚TOP10中、3WAY雲台タイプが4製品、自由雲台が6製品でした。(ミニ三脚を除く)
私がYahoo!ブログを書き始めた頃(2013年7月)は3WAY雲台の方は多かったので、この11年ほどでマーケットシェアが逆転したことになります。
またTOP10のうち、キング1製品、SLIKの2製品を除く7製品がアルカスイス互換であり、アルカスイス互換が市民権を得ている事が証明された結果と言えるでしょう。
逆に落ち目となっいる3WAY雲台のほとんどを日本メーカーが占め、そのすべてがアルカスイス互換では無いという、いかにも日本らしいガラパゴス化を起こしています。
日本でのアルカスイス互換の歴史
アルカスイスの互換性品はあらゆるメーカーから発売されています。何も互換品なんぞ使わずに本家本元のARCA-SWISS社の製品を使えば良いじゃないか?と言われそうですが、なかなかそう簡単な話しではありません。
多くの人がARCA-SWISS社の製品を使わない理由のひとつに価格の高さが挙げられます。冗談抜きで高いです。一番安い「モノボールP0 1/4ネジ仕様」でも約5万円。一番高額な「C1キューブgpフリップロック」に至っては国内最安価格が523,600円!ちょっと目眩しそうな金額ですね。
次にARCA-SWISS社の純正プレートは一般的なカメラに装着するには問題が多く、決して優れたプレートとは言えず、1990年台頃からはReallyRightStuff(RRS)やKIRK(KES)やWimberleyといったアメリカメーカーが台頭し、(一般的なカメラにとって)優れたプレート・クランプを開発していきました。その静かなブームをいち早く嗅ぎつけたBENRO・SIRUIなど、中国メーカーが火付け役となって現状に至ります。
スクリューノブ式 レバー式 どちらにもメリットがある
互換問題ではレバー式に難があるように書きましたが、互換問題を克服した製品もありますし、ノブ式よりも優れている点もあります。
まずスクリューノブ式クランプはプレート精度のバラツキによる影響を受けにくく、異メーカー間の互換性は高いと言えます。
ただしクイックシューとは名ばかりで、ちっともクイックに脱着できないという声も多いです。
しかしKIRKのクランプのように、ネジピッチが大きいノブを採用することでクイックに着脱できる製品もあります。
レバークランプはプレート精度のバラツキによる影響を受けやすく、メーカー間で互換性に問題がでる可能性があります。
しかし幅調整が可能なクランプも多く発売されており、物によっては互換問題はほぼ解決しています。
何よりもクイックシューの名に恥じぬスピーディな脱着を可能にしています。
アルカスイス互換プレート
プレートはアルミ板とネジで構成されているシンプルなアクセサリーですので、どのメーカーを使ってもそんなに変わらないかな?と多くの方が考えてしまいがちです。
しかし某有名プロショップの店長さんに言わせると「何を使って、どんな作り方をしているかも分からないものに機材を任せられない」と仰られています。
確かにきちんとした素材すら公表していないメーカーの製品は怖いですね。
またプレートには汎用品と機種専用品があります。
汎用品はあらゆるカメラやレンズの三脚座に装着可能というメリットはありますが、カメラボディの傷防止のために貼られたゴムシートやコルクシートに起因するズレ・撓み・微ブレが、しばしば問題となります。
対して機種専用品はコストパフォーマンスこそ悪いですが、カメラボディや三脚座の形状を計測して、正確に型を取った上でズレないように設計されています。
このためゴムやコルクのシートを貼る必要もなく、雲台に直接ネジで取り付けるタイプの雲台よりも、遥か優れたに剛性を発揮する製品もあります。
メーカーによりそのクオリティは様々ですので、長く使う機材であれば多少高くても、ちゃんとしたメーカーの機種専用品を購入されることをお勧めします。
まとめ
●一般的に「アルカスイス」と呼ばれているものの正体はARCA-SWISSという会社が作ったビューカメラ専用のクイックシューシステムである。
●そのクイックシューシステムの人気が高まり、それを模倣した様々な互換メーカーが誕生し、現在ではもっとも有名なクイックリリースの規格(のようなもの)にまで成長した。
●ただし工業規格化されていないため、アルカスイス互換製品には互換問題が存在する。しかし各メーカーの歩み寄りや工夫によって、徐々に解決しつつある。
●クイックシュー雲台は雲台直付け雲台に劣っていたが、機種専用プレートの出現により、欠点はほぼすべてクリアされている。
アルカスイスを知り、正しく理解することで、それらの素晴らしいアクセサリーたちが、あなたの写真ライフをより便利に快適にサポートしてくれるはずです!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?