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鉱石少年と不思議なカード3

「またあの店に行ってみようよ、蛍石」
 好奇心に瞳を輝かせながら、水晶が言う。
 僕ももちろんと答えた。

「そうだね、水晶。まずはこのギャザリングブックを仕上げようか」

 明日の午後の予定が決まった僕たち双子は、少女のアルファベットカードをページの中央に貼り付けたのだった。

 翌日の午後、僕は双子の片割れの水晶と一緒に、自転車に乗って町へ出かけた。
 春の日の、記憶を辿ってぐるぐると、大通りを走って回っても、あの素敵な紅茶店ティールームは見つからない。

 そうしているうち、僕は少し疲れてしまった。道端のベンチに腰掛けると、水晶が肩にブランケットをかけてくれる。

「大丈夫?蛍石。急に寒くなったからね。そろそろ帰ろうか」
 水晶はそう言いながら心配げに、僕の顔を覗き込む。

 あのお店はどこへ行ってしまったんだろう。
 あたたかな木漏れ日、甘く誘う薔薇の薫り、ずっと昔からそこにあったような、静かな佇まいの店構え。
 彼女の姿は……夏至の日の白昼夢?

 僕の脳裏で、あの女の子が悪戯っぽく笑って、薔薇が咲いたらまたおいで、という声が、聞こえた気がした。

「今日は帰ろう、水晶。春になったらもう一度来よう」
 ベンチから立ち上がり、僕は水晶にブランケットのお礼を言った。
「帰ったら、ココアを飲もうね、蛍石。きっと、薔薇が咲いたらまた逢えるよ」
 そう応えた水晶の耳にも、きっとあの少女の声は届いていたんだ。

 僕達は2人、自転車で帰る。
 秋の風がきらきらと、色づいた葉を舞わせていた。

photo: Arcana-cica
dress:天使匣
doll: Blue Fairy 
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