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あいちの伝統野菜目指して~名古屋市緑区の「徳重だいこん」物語

 名古屋市緑区のJAみどりは、徳重地区で栽培されてきた「徳重だいこん」を復活させました。収穫が本格化するなか、愛知県が指定する「あいちの伝統野菜」への登録を目指しています。
 徳重だいこんは、昭和50年代まで徳重地区を中心に栽培されていたダイコンです。スーパーで売られている青首ダイコンと比べて短くて太めの寸胴が特徴。肉質が固く、折れにくく、煮崩れしにくいため、おでんや煮物との相性がいいそうです。
 固有種はなくなったと思われていましたが、2016年に地元農家が冷蔵庫で種子を保管していたことがわかりました。農家に自家栽培してもらい、種子をJAみどりが譲り受けました。
 2018年にJA職員が試験栽培に挑戦し、一方で名古屋市農業センターでも栽培に協力してもらいました。収穫したダイコンを、以前に徳重だいこんを作っていた農家2軒に確認してもらったところ、間違いないという確認をいただきました。
 そのなかから、徳重だいこんの特徴を示すものの種だけを選んで栽培を続け、2021年冬には、軽トラックの荷台を売り場にしたJAみどりの軽トラ市で初めて「徳重だいこん」を販売。今年も12月4日、JAみどり本店で軽トラ市が開かれています。
 今年6月には栽培農家の有志と応援する地元飲食店、JAみどり経済部が中心となって、徳重だいこん保存会も結成されました。目指すは、県が指定する「あいちの伝統野菜」への登録です。緑区内では、すでに江戸時代から大高村(現在の緑区)で栽培されてきた「大高菜」が登録されています。50年以上前に栽培され、地名や人名が付けられていること。種が残っており、手に入ることというの条件がそろっていました。
 12月13日は「母本選抜」の日です。名古屋市農業センターで栽培している徳重だいこんの中から、昔のかたちに近いダイコンの種子を選んでいきます。種子を増やすことで、登録基準をクリアできるからです。
 私自身、「種」や「種子」に関心があります。新聞記者当時の2018年4月、主要農作物種子法(種子法)が廃止されました。米、麦、大豆の種子の生産と普及を都道府県に義務づけてきた法律です。
 この年の6月、名古屋市で「日本の種子を守る会」事務局アドバイザーの印鑰(いんやく)智哉さんの講演会に参加したことを思い出します。印鑰さんは「公的に守られてきた希少品種が、民間参入で淘汰される」といった危機感を語っていました。
 この危機感は多くの人が共有していたのでしょうか。2022年6月12日の読売新聞に31道県が廃止の種子法を条例で継承していることを報じていました。
 自由度の高い公的種子と違って、企業の種子開発は一般的に化学肥料や農薬を使う大規模農業モデルを前提としているとも聞きました。
 たかが種子、されど種子。種ひとつぶのことですが、農業を考える基本です。長い歳月をかけた「母本選抜」を繰り返し、つながっている地域の伝統野菜を見るたびにタネの重さを感じています。
(2022年12月12日)

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