古新聞の効用~元日の紙面を半年後に読み返してみる
新聞は配達された当日に読むとともに、1週間とか10日、あるいはもっと長いこと寝かしておいて読むと気づきも多いものです。
■各紙の元日トップ紙面
読売新聞のトップ記事は、脳死者から提供される臓器の受入を断念する例が2023年度60件あったという調査報道でした。移植手術実績が国内上位の東大、京大、東北大の3大学での数字です。移植見送りがあった背景には▽手術に携わる看護師や臨床工学技士を確保できない▽集中治療室が不足・・・を理由に挙げています。
朝日新聞は安倍派の政治資金パーティーをめぐる事件で、裏金が直近5年間で少なくとも8000万円に上ることを関係者の取材から明らかにしています。 毎日新聞は連載「遮音(ミュート)社会」を始めました。中日新聞は障がい者向けグループホームを展開する「恵」の食材費過大徴収の内容です。愛知県だけでも1億円を超えることがわかったと報じています。(記事はいずれも中部発行版)
■私が注目した記事
「藤井竜王みなぎる気力」(読売新聞)は、藤井聡太八冠が全冠防衛をどこまで続けるか注目が集まっていることを紹介した記事。5月現在、名人戦対局で初防衛に王手をかけるなど好調を維持しています。 「朝日賞4氏」(朝日新聞ほか各紙)は、朝日新聞文化財団が学術、芸術などの分野で傑出した業績をあげ、日本の文化や社会の発展に貢献した人に贈られる賞です。当初読んだ時は、4氏のうち「ペロブスカイト太陽電池」を発明した桐蔭横浜大学特任教授の宮坂力さんに目がいきました。その後、私自身がペロブスカイト太陽電池を製造している愛知県刈谷市の工場を取材したこともあり、いま読み返しても参考になります。
そのときは法学者の戒能民江さんの記事を読んでいませんでした。いま、NHK連続テレビ小説「寅に翼」を楽しみにする身として、女性の人権を守る法整備に長年力を注いでいる戒能さんがダブってみえました。戒能さんは今年80歳となりますが、DV被害など「困難な問題を抱える女性支援法」の施行に向けて駆け回っているという記事に感銘を受けました。
余談です。戒能という苗字で、学生時代に書物で知った戒能通孝先生を思い出しました。調べると、通孝氏は戒能民江さんの義父。通孝氏は長野県飯田市で生まれた法学者です。私も飯田出身なので、親近感を覚えたしだいです。
■消滅自治体の記事も
毎日新聞は人口減少に警鐘を鳴らした「増田レポート」から10年の節目で、元総務相の増田寛也・日本郵政社長にインタビューした記事を載せていました。
「消滅自治体1000超も」。増田氏は10年前の消滅可能性自治体896からさらに増えるとの厳しい見方を示していました。 実際には、2024年4月24日に有識者の「人口戦略会議」が発表した将来消滅する可能性がある自治体数は744自治体でした。2014年発表と比べて239自治体が脱却したとされていますが、深刻さは変わっていません。
増田氏は同紙のインタビューの最後に「真正面から移民政策について議論すべきだ」と述べています。日本人は、ことに政治家は核心を避け、表面を糊塗しつつ先延ばしにしがちですから。
■危機感だけをあおらない
元日の午後、能登半島地震が起きました。復旧のニュースが今も続く中で、人口減少に加えて地震で故郷を離れざるをえない人たちもいます。消滅可能性自治体を増やさないためには、危機感をあおるのではなく、都市への集中を見直す風土を醸成したいものです。
「長野県南箕輪村などのように、子育て支援や農業振興で移住者が増えた農村があるのに」(2004年5月9日日本農業新聞コラム「四季」より)
人口減、災害増の今、田舎の見直しこそ急務ではと指摘しておきます。(2024年5月11日)
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