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SDGs時代の博覧会とは~大阪・関西万博から見えたもの

 ■SDGsとは
 SDGsは、2030年までに達成する持続可能な開発目標です。
 2015年の国連サミットで加盟国の全会一致で採択。「貧困を終わらせる」など17のゴールを掲げ、「地球上の誰一人取り残さない」ことを誓っています。
 この時代、博覧会はどうあるべきでしょうか。2005年の「愛・地球博」(愛知万博)の誘致段階から取材してきた経験を踏まえて、開幕まで500日を切った2025年大阪・関西万博のあり方を考えます。
 ■愛知万博の経験
 愛知万博は、里山と共生した環境万博でした。(写真は2005年の愛知万博会場写真。さつきとメイの家などが里山の中にある=©aratamakimihide)
 愛知県長久手町(現長久手市)にあるメイン会場の公園の既存建物を最大限に生かしました。高低差がある公園を平らにならす意見も出るなか、環境を重視して高低差を残し、木材を使った空中回廊「グローバル・ループ」を設置。全長2.6㎞、幅約21㍍で、会場をほぼ水平に一周できるすぐれものでした。
 こうした取り組みを支えた陰には、2005年日本国際博覧会協会の会長を務めたトヨタ自動車会長で経団連会長(1994年~1998年)だった豊田章一郎氏がいました。
 パビリオンやグローバル・ループなどの構造物は万博閉幕後に取り壊されましたが、パビリオンの一部は友好団体や民間施設に移管されています。
 ■大阪・関西万博に逆風
 2023年11月30日に開幕まで500日となった大阪・関西万博。12月1日の各紙の取り上げ方をみるとかなり批判的でした。
 読売新聞は「万博逆風 誘客に影」の見出しで課題を指摘しています。政府や大阪府、大阪市など司令塔が不在。会場建設費1250億円が1850億円(2020年12月)になり、さらに2350億円(11月2日)に膨れ上がるなど見通しの甘さは尋常ではありません。
 ■持続なき開発
 私見として、閉幕後の資材の活用などが見通せないことも逆風につながっていると考えています。
 自動車などのものづくりは、かつて「動脈」産業でした。しかし、廃車の鉄くずやタイヤのリサイクルに始まり、「静脈」産業を育ててきました。さらに時代は、循環型の経済というサーキュラーエコノミーを求めています。
 パビリオンや大阪・関西万博のメイン施設「リング」という円周2kmの木造建造物の再利用も関心事です。11月27日に名古屋商工会議所の嶋尾正会頭は「伊勢神宮の20年に一度の遷宮ではないが、リングで使われた集成材をリユースしていくことも可能だ」と述べています。
 資材高騰の中、集成材でも欲しいという地域の声もあるはずです。いまからサーキュラーエコノミーを念頭に閉幕後の姿を示すことも必要です。
 ■情報の「たこつぼ」
 関西圏以外に具体的な情報は流れて来ませんでした。インターネット時代は、情報を取りにいかなければなりません。万博情報は、大阪エリアの「たこつぼ」状態のままでした。
 ところが、国民は税金に敏感です。開催費用の膨張が国会でも取り上げられるようになると、新聞やテレビが大きく報道するようになりました。不幸なのは、前向きな意義ではなく、会場建設費の膨張などマイナスイメージにつながる情報が多かったことでした。
 私は愛知万博のとき、地元や主管の通産省(当時)の取材が中心でしたので、盛り上がっていると錯覚していた時期がありました。東京出張などで同僚記者らと話したときに、「愛知で万博あるの?」という冷めた反応が多いのに驚きました。愛知県は「たこつぼ」のなかにいたのです。
 それでもマンモスの標本の展示など具体的なイメージが出てくると一気に知られるようになりました。
 ■いのちの万博の発信
 数年前ならともかく、500日を切った今、プラスの情報発信は急務です。1970年にアジアで初めて開催された大阪万博のときとは時代が激変しています。日本経済も下降線にあるといわれています。
 2025年の万博は昔の成功体験が通用しません。日本中が米国パビリオンに展示された「月の石」や最新技術を目指して押し寄せた物珍しさへのエネルギーは、もうありません。
 2025年万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。当初よりもコロナ禍を経て「いのち」が身近に感じられるようになりました。ライフサイエンスや医療、食と農業など時代が要請しているのではないでしょうか。
 さらに古都・奈良、京都のある関西圏ならではの文化のいのち。南海トラフ巨大地震が予想されるエリアの人命への防災・減災。
 SDGs時代のいま、2025年万博の意義を広く訴えていくチャンスです。
 赤字財政の中から貴重な予算を投下する万博。「会場手前のUSJがにぎわっただけ」に終わらせては、関西経済圏の浮上はありません。
(2023年12月2日)
※「奈良時代のパンデミックと命の経済~東大寺別当とジャック・アタリ氏の話から」(2021年5月17日)をご参照いただけるとうれしいです。
https://note.com/aratamakimihide/n/n8853789dfd4e?sub_rt=share_pw  

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